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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
黒鉄の天使編
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黒鉄の天使

  ケイ=アルスタン=ネモン。ネスティア王国最強の戦士にして、世界勢力屈指の実力者である。


 数で勝る世界勢力、質で勝る冒険者組合。しかし、最強勢力と名高い冒険者組合に所属しようとする人間は後を絶たない。


 というよりも、ほんのわずかにでも腕に自信のある者は、皆こぞって冒険者組合に参加しようと躍起になった。その中の数少ない例外、冒険者組合に所属しなくても栄華が約束されていた男がケイである。


 彼はネスティア王国軍人の家系に生まれ、軍略、武術、魔法の才を、他のこと人寄り道することなく伸ばした。与えられた道徳は、ただ、国のために生き国のために死ぬこと。


 彼は幼いころから洗脳されるかのようにそれだけを教えられ、それだけを覚えて生きた。国王の息子フェドムと仲が良くなったのは、親同士の思惑があったからである。



 国に一生を捧げろと言っても、簡単には難しい。しかし、国王に一生を捧げることならば難しくない。


 ケイはフェドムに忠誠を、ではなく友愛を誓った。国に忠誠を誓い、王に友愛を誓う。それは他の貴族からしたら傲慢な行いであれど、国王からしたら傲慢ではない行いだった。


 友人二人は、いつしかアグランを含めて友人三人になった。魔法を使えないアグランの悩みも、ケイは友人だと信じていたから素直に相談に乗っていた。


 アグランが自分の全身黒鎧と黒い翼を真似しようとしたときはさすがに止めた。国の旗には、四枚の翼が描かれている。しかし、黒くはないし、全く同じ姿にされることは嫌であったからだ。



 ケイは、代わりにカラフルな翼にすることを提案した。あなたの師匠たちに、マネできる翼の姿を再現してもらったらどうだろうか、と。


 アグランはそれを聞いて、喜んでそうした。ケイの翼の形を真似し、アリュートの闇色の翼、フィナの水色の翼、ルドーの黄色の翼、ペネホイの紅色の翼を再現してのけた。


 こと再現という能力なら、彼は頭一つ抜けている。それは、魔法を使うケイだからわかる、アグランの異質さだった。

(彼の力が国にあるなら、ネスティア王国は安泰だ。)

そう思い、彼が宰相になる資格を有していることに最も喜んだ。おそらく、その国で最もアグランに期待をしていたのはケイだっただろう。





 もう記憶の彼方となってしまったある日のことだ。

 ネスティア王国に、中位の龍が訪れた。それは、異常な光景だった。皆が皆、怯え、死ぬのだと嘆いていた。

「奴は人殺しをしないんだろ?」

「でも、龍だ。人力を越えた者の主張など、信じるに値しないさ。」

アグラン、フェドム。父、母。皆がそれを言い、国王一族を逃がすことだけを考えようとする。

「なんか、嫌だな、それ。」

逃げるのは嫌だった。国王に逃げさせるのも嫌だった。

 フェドムが逃げなければいけなくなるなら、そうならないように戦うのが自分の使命だと、そのために生まれてきたのだと、思った。




 彼の背丈に合わせた黒鎧。剣と鞘の関係性を持つ、巨大な大剣。そして漆黒の四枚の翼。

 その姿は、空に飛び上がってしまうとさほど目立たなかった。目立つはずがない。黒ずくめでも、広い空のしみの一つでしかないのだから。

 しかし、何か、具体的には、ケイが中位の龍と戦っているのは、シトライアの者にもわかった。


 遠目で辛うじてみえるような巨体が、近づいてくる様子がなかったから。

 だから、人々は誰かが戦ったいるのはわかったし、その誰かに過度の期待を抱いた。

 龍という絶対的な脅威。上位の竜ですら軍を動かさなければならないのに、国ひとつ賭けても勝てないような存在。

 それを倒してほしい、という人の身に余る期待に、しかしケイは応えた。……応えて、しまった。

 つまり。中位の龍を倒すことに、成功してしまったのである。

 すでに国の中枢に食い込むことが確定していたような彼の環境下で、その上英雄扱いされるように、ケイは至った。


 それがケイにとって助けになっていたのはほんの初期のみ。自分がやったことに対してかけられ始めた過度の期待は、アグラン以上に重くなっていった。

 “黒鉄の天使”。ついたこの異名と、龍との戦闘を決意した時に得た“奇跡”。


 それは、冒険者組合員のメンバーに匹敵する力として、世界中からアテにされるような力。

 そんな力を得たからこそ『歯止めなき暴虐事件』への出陣要請はかかったと言える。

 だからこそ、自分の生きてきた意味を失いかけて、思う。

 全ての転機は、『歯止めなき暴虐事件』以前、あの龍と戦った時点で終わっていた、と。




 全ての光を失い、ケイの視界にシーヌが振り下ろす凶刃が映る。それを呆然と眺めて、彼は、

「ケイ様ぁぁぁ!!!」

一度も戦闘に参加していなかった、ケイの直属部隊“黒天衆”。

 シーヌの凶刃は、彼らのうちの一人が、その身を呈して庇っていた。


 一突きで心臓を貫かれ、崩れ落ちる彼。それから、たった百人の直属部隊は、我先にとケイとシーヌの間に割りいっていく。

「あなたは国の英雄です!我々は、あなたのお陰で生まれ落ちることができたのです!」

「生ける偶像が、こんなところで生きることを諦めないでください!」

次々と乱入してくる彼らにシーヌが届かずに怒りをあげる。

 “黒天衆”という部隊は一人たりとてクロウに来ていなかった。だからこそ“復讐”の範疇にはいない人たちで、一撃殺すことなどできる人たちではない。


「グレゴリーさん!!」

シーヌは敵をかけわけかきわけ、剣を振り続ける。魔法を使って、剣を振るって。自分でケイを殺すために。

「やめよ、そなたら!国賊と見なすぞ!」

「恩人を救うためなら国賊の名も厭わぬわ!」

もはや国王の台詞も彼らの耳には入らない。

「……ケイを討つ手助けをしろ。それが王の依頼だ。」

乱戦の中にいる、シーヌを含めた全員に、グレゴリーは高密度の紫電を走らせる。

 そるによって黒天衆はみな地面に倒れ付し、シーヌは、その攻撃を辛うじて防いだ。


 自分も倒されかけたことに文句は言わない。それが出来ないなら、冒険者組合員にいる資格はない。

 だから、そんな些事は無視して、ツカツカとケイの元へと歩いていく。

「あの日、お前たちは僕の幼馴染を二人、殺した。」

ビネルとシャルロットの顔を思い出す。もう遠く過ぎ去った、笑いあっていた幼い三人。

「あれが正しかったと貴様が主張するのであれば、したのであれば!僕は決して、決して!」


 その虚ろな瞳に、シーヌの怒りの形相が映りこみ、彼はヒッ、と恐れて下がる。

「死んでなお、僕は貴様を許しはしない!」

眉間に剣を刺しこんだ。それは、あまりにあっさりと、シーヌが抱えた復讐の念などよりあっさりと、ケイの命を奪っていく。

「これで、ネスティア王国は、終わりだ。」

クロウの西側。ネスティア王国の圧倒的強者。

 その頭を、ようやく討ち取った。だからこそ、シーヌは凄惨に笑って黒天衆に対して言う。

「復讐の想いがあるのなら、いずれ討ちに来るといい。……勝てるのなら。」


 そういうと、もう言い残すことはないかのようにシーヌは街の方へと歩いていく。

 そこには、親を殺されたはずの幼い少女と、微笑んでシーヌを待つ美少女が、二人揃ってシーヌを待っていた。

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