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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
黒鉄の天使編
93/314

ネスティア王国宰相

 紅い翼。白い翼。黄色い翼に黒い翼。

 “盟約の四翼”アグラン=ヴェノールの背に生える翼は、配下“四翼”全員のものと全く同じだ。違いがあるとすればただ一つ、その翼が、四枚。片方一翼だけではないということだろう。

 色とりどりの翼は、それだけを見れば芸術のように美しいが……つけている人間は相当に歳のいった人間であり、着ている服は宰相の……文官の服。あまりの似合わなさに、ティキは気持ち悪さを隠すのに苦労していた。

 その上、彼はティキの空中戦闘についてくる。魔法を次々と放ち、剣、火、氷、風と決まりもなく放ち続けるそれらすべてに対処し続ける様は、本当に異常としか言いようがなかった。

「あなたは……いくつなのです?」

剣を生成し、投げ込むと同時に急上昇、圧倒的な質量の岩の生成、投下。その陰に隠れてアグランの後方へと移動、アグランの様子を見ようとその姿を探す。

「戦闘中に相手から目を離すのは関心しないな。」

声をした方に想念の壁を作り出す。しかし、気付けば彼はティキの前へと回りこんでいて……

「う、あぁ!」

お腹が蹴り飛ばされる。吹き飛ばされる直前に矢の生成、発射。お腹の痛みを堪えながらも、一矢与えるためにがむしゃらな攻撃を続ける。

「強い……。」

アグラン=ヴェノール。あの夜邂逅したときはそこまで感じることもなかったが、明らかに他の四人とは一線を画していた。

「それと先ほどの質問だが。」

飛んでくる炎を剣で撃ち抜き、伸びてくる闇を魔法で打ち消し……私には会話をする余裕があまりなく、敵にはその余裕がある。

「ケイと私は53、アリュートは68、ルドーは66、ペネホイとフィナが65だ。」

皆、相当な高齢だった。つまり、それだけの戦闘経験を得てきたということでもある。

 私などより三倍以上の年齢差を持つ男。彼との戦いでは、そう簡単には勝てるとは思ってはいけない。

「“剣の雨”!」

三念以上奇跡未満の超概念、“我、失うことを恐れる”。剣一本一本にそれを込めて、放つ。

「……へぇ。」

奇怪な声を出したアグランは、懐から何かを出して放り投げ……

「それは、“湖上の白翼”の。」

大量に、私の剣以上の数で作り出された水の塊。それが、私の剣と撃ち合い、水三つを犠牲に剣を相殺されていく。

「どんな強力な概念であろうとも!“奇跡”で生み出された未来線、運命線に定められた攻撃でなければ、相殺できるのだよ!」

奇跡は、未来や運命を捻じ曲げる。薄々そういう予感はしていた。これまでの、あまりに上手いシーヌの復讐劇を見ていると、そんなことは容易に想像できてしまった。

「では、ケイ元帥の奇跡は。」

「国賊が殺されるよう、完全に未来を変える奇跡ですねぇ!そして元帥は、彼を国賊だと、国家にとっての害悪だと断じなされた!ならば、いかにシーヌが“奇跡”を持とうとも、その奇跡同士のぶつかりで勝てることはないのですよぉ!」

奇跡。三念。そう呼ばれる物たちは、いわば意志の集合だ。想い、意思、在り方、そして、願い。それらが概念として、自分の認識できる魔法の形となったもの。それが“三念”であり、“奇跡”だ。

 それは、その想いを長く抱いているほど強力になり、その想いがブレないほどにはっきりとして、そしてその想いが強いほどに強くなる。

 今まで敵対してこなかった“奇跡”の行使者。それとの戦いで、シーヌは積み重ねられた年月に勝てるほどの想いを持っているかどうかが試されていた。

「持っていたら元帥も危ういでしょうが……その人生をかけて磨き上げた想いが、たかだか15やそこらの小僧に打ち破れるはずがないでしょう?」

全く手を休めずに互いを攻撃し続けながら……ティキは思った。シーヌはきっと、勝てるはずだ、と。

「シーヌは負ける。ティキ=アツーアさん。降伏する気はないかねぇ?」

ニヤニヤと、世間知らずのティキでもわかるくらいに下心溢れる表情で、アグランは言う。

「好色とは聞いていましたが……50を超えてなおですか?」

シーヌも少しくらい真似したらいいのに。そんなことを思いながらも、少しだけ距離を取り直す。

「いつまでも現役だとも。お前ほどの美少女ならなおさら、な。」

ほんとに少しくらいシーヌに分けてくれたらいいのに。そんな想いは口にせず、ただ嫌悪を隠しつつも嫌みを返す。

「老人に抱かれるほど悪趣味じゃありません。その気持ち悪い格好を何とかしてから言いなさい。」

突風による地面への突き落としと、大地の隆起による上空への打ち上げ。点の攻撃が“湖上の白翼”と同じ防御術で守られるなら、面攻撃でダメージをつけようと画策した。

「チッ!」

一瞬、その体を押し潰した。そう感じた瞬間には、突き上げる地面が粉々に砕かれ、アグランは空中へと再び躍り出る。

 ワデシャやアフィータには、全てが終わっても出てくるなと声をかけたが……軍同士の激突は終わったようだと、音が止んだことで気づいていた。グレゴリーさんたちが、すでに次の作戦に移行したことも。

「早く、倒さないと。」

翼を持ち、それで空を飛ぶアグランに、私はあまり対策を思い付けないでいた。

 いかに魔法を使って倒すか。そもそも、アグラン=ヴェノールの魔法は、三念は、何なのか。読めない。読めないがゆえに、思いきった戦い方ができなかった。


 ワデシャの光の矢を模して、光の閃光を放つ。ペネホイの炎を模して、剣の雨と合わせた炎の雨を産み出す。

 そのどの戦い方も、アグランに本気を出させるには至らず、まだ均衡状態が崩れない。

 私の視界に、謎の竜巻が生まれた。それは徐々に細く、長くなり、クトリスよりも細長い竜の頭が生まれる。

「あれは、噂に聞く龍ですか?」

「あぁ。ははは!フィナめ、奥の手を出さない限り勝てなく……何?」

あれが、“湖上の白翼”フィナ=ギド=アトルの奥の手。龍の体を水で模しても、実物を見たことのない私ではあれがどういう戦い方をするのか全く読めない。

 しかし、それが攻撃として機能し始める前に、その龍は粉々に消え去った。

「……馬鹿な!あの男はさっき、ペネホイが殺しにいったはず!どうして生きている!」

「……“葬儀の紅翼”が、敗けたからでしょう。そして、ワデシャが勝った。それ以外に理由が要りますか?」

嘘だ。呆然とした表情でティキを見やり。その目の奥から徐々に憤怒の光が見えはじめるに到って、はじめてティキは思った。これからが、戦いになるのだろうと。




 ドッと、翼に込められた力が大きくなった。それを感じ取ったとき、ティキは全力でその場を離れていた。

 ペネホイが撃ち放つ炎などより、圧倒的に強い炎。それが鼻先を掠めて、柱としてそびえ立つ。

 恐ろしいと感じながらもそれを視界に納め、早く決着をつけようとアグランに魔法を放とうとして、彼女は焦った。

 アグランがいない。目を放してしまった。

 怒りに染まった彼が、誰を狙うか。それに思い至って自軍……セーゲル軍の方を見やると、ワデシャがアグランに蹴り飛ばされたところだった。

「彼らじゃ戦いにならない!」

体に風を叩きつけて、彼らのもとへと急行する。落ちていく感覚、とんでもない負荷を無理やり魔法で押さえつけ、手に作り出した轟風をアグランへと叩きつける。

「また?」

逃げられた。つまり、今の彼は、どういう原理か私の生み出す風より速い。

「堅いじゃないか、ティキとやら!」

後方からアグランの声が響く。半径50メートルほどの円状に広げた、探知の想念。

 いくら速かろうが、その探知の網に入った瞬間に迎撃されるようでは、アグランも容易には攻め込めないようだ。

「口調が変わっていますよ、アグラン=ヴェノール!」

私が叫びながら無差別に魔法を放つ。アフィータ、ワデシャは既に遠く離れ、冒険者組合員たちが彼らを護っている状況だった。

 アグランは一瞬立ち止まる。その表情は、驚き、戸惑いよりも後悔の色が濃く見えて

「……まさか、いえ、いつから……?」

私は呆然とその声を溢す。思い付いた、その可能性。それは、並みの精神力ではできないことであり、同時に魔法とも、冒険者とも反する理念。

 私も、アグランも、互いをじっと見やってから、そっと身構えて。

「それを、知るのは。この世で残り、二人のみだ。」

剣戟の音が鳴り止まないシーヌとケイの方を見て言う。

「ケイはもう長くは持たないだろう。歳だ……あと10分が限界だな。」

急に話が変わったという印象は持たなかった。おそらく、知っているうちの一人がケイなのだとは確信できた。

「その二人以外、知らなくていいことだ。ティキ=アツーア。死ね。」

寡黙に、淡々と。まるでペネホイ=テスターが乗り移ったかのように。

 周囲が炎に囲まれていた。360度、全てに炎の弾が浮いている。

「……あなたの魔法。理解しました。」

その呟きに、今にも飛びかかろうとしていた炎たちがピタリと止まる。

 同時に、音もなく、濁流がやって来ていた。湖から、ティキに向けて。

「あなたに魔法を教えたのは、誰ですか?」

とんでもない量の水を下から受けながら、周りに想念の膜で覆って身を護るティキが呟く。

 水の一部がうねうねと蠢き、ティキを押し潰そうとよってくるが、あとからあとから押し寄せる水の流れがその蠢く水を押し上げていく。

「ペネホイより熱い炎、多くの炎を作り出せても、あなたはペネホイ=テスターにはなれなかった。」

水に消されていく炎を見ながら、呟く。彼は葬儀屋だった。アグランはペネホイの魔法を使えても、葬儀屋としての誇りを真似することはできなかった。

「フィナより多くの水を操り、自在に使うことができても、あなたはフィナ=ギド=アトルにはなれなかった。

魔法を解析する技術は、想いは、アグランにはない。フィナは水を操る魔法使いである以前に、解析官であり、記録者だった。

「アリュートの痛苦も、ルドーの伝達能力も!あなたには、何一つとしてない!あなたはただ、形を、形だけを模倣しただけ!そんな力で、私に勝てると思うな!」

フィナの持っていた湖で、フィナの使っていた龍を作り出す。七匹の龍を生み出したティキは、これらを使って的確にアグランを追い詰めはじめる。

「人の想いを真似るだけ真似て、そして宰相になど至ったか!師らの上に立って彼らを顎で使ったか!」

捉えた。そう感じた時には、アグランはすでに地面に叩きつけられていて。

「やっちゃえ、おねえちゃん!」

アグランがよく聞き知った、そしてティキも一度ならず聞いた声。


 テナ=ネモンが、そこでティキを応援していた。

「どうして、テナ、が……?まさ、か?」アグランが見た方向。そこには、怯えたような目でネスティア王国国王を見つめる、ネスティア王国元帥の姿があった。

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