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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
黒鉄の天使編
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二人の復讐の道

 シーヌとアリュートの戦いを見て、グレゴリー=ドストは呆れたように息を吐いた。アリュートの最後の一打。“幻想展開・闇夢”といったか。

 彼であれば、そもそもあれを展開するような余裕なく、アリュートを殺していただろう。そして、殺し損ねて発動をされたとして、巻き込まれるようなことは避けただろう。

 シーヌがそれを正面から打ち破ったのを見たとき、グレゴリーは「そこまでするのか!」と叫びそうになった。あくまで、陰から見ているだけであったにも関わらず、その姿を曝す寸前まで行ったのだ。


 認めよう。シーヌの復讐心は、本物だ。

 救いようもなく、ただただ敵討ちのみを考えている、人を辞めた化け物だ。

(むしろ、妻を持つ選択をしたことの方が、わからん。)

ドラッドの目的、再度の独立を阻むために行われたそれの経緯など、彼が知るはずもない。

 そして、そのシーヌの復讐心すら変質させてしまった、シーヌのティキへの恋情など、知りようもないことである。


 気絶したティキは冒険者組合シトライア支部に運び込まれ、アフィータはワデシャによって宿に連れていかれた。

 その寝顔を見下ろしながら、グレゴリーは再び考える。彼女からは、シーヌと同じように“限定最強”の気配はしない。だが、そのはずなのに言いようのない不安も押し寄せてくる。


 この感覚は、以前にも一度、味わった。“限定最強”ならざるも、最強の力をもったあの魔女と同じ感覚だ、とグレゴリーは感じる。

 彼女に戦闘で勝つことは、できるだろう。だが、殺すことは不可能だろう。

 ティキ=アツーア=ブラウという少女は、そんな気配を匂わせていた。

(今年は、豊作だったのか?)

冒険者組合所属試験に合格して一月そこら。もうすぐ2ヶ月になるような、新人。そんな者が、ここまでまっとうな冒険者組合員たる力を持っているとは珍しい。


 グレゴリーは、いやシトライア支部にいる四人は、今年の新人の豊作具合に喜び、それがゆえに短命さに涙した。

 シーヌの生きる目的を考えたら、彼は早死にするのはほぼ確定。そして、その妻である以上、ティキすらも巻き込まれるのは、確定。

 彼が、クロウの生き残りでなければ。グレゴリーは歯噛みしつつ視線をシーヌに戻す。


(……あの、事件、は……)

指示を出したのは、クロウを滅ぼせと命じたのは、冒険者組合の上層部だ。なのに、彼が今冒険者組合に所属している理由は、何だろうか。

 確かに、皆殺しはやりすぎた。彼が生き残りだと告げている以上皆殺しではないかもしれないが、彼以外の誰かが生き残っているとも思えない。


 もしも、の場合を考える。シーヌの意思が、復讐の想いが、冒険者組合に向いた場合のことを、考える。

 その場合、自分達が戦うことになるかもしれない。そのとき、自分達が勝てるかどうか、シュミレーションしてみて……考える必要すらない、という結論に達した。


 彼は、“限定最強”である。つまりは、その対象以外には純粋な実力で戦うことを要求される。

 シーヌの純粋な実力は、冒険者組合の中での、中の下。その程度であろうと、グレゴリーは当たりをつけていた。

(あの年でそこまでの実力を有していることは驚きの一言に過ぎるがな。)

しかし、そのシーヌの成長を、彼はまだ見誤っている。脳の許容量的に彼がこれ以上才能が伸びることはないものの、魔法のバラエティーはこれから先も増えていく。

 だが、現状シーヌがグレゴリーを倒すことができないのは事実なので、彼は正しい判断をしているといえた。




「残りは四人か。」

「うん。アグランは僕の名前を聞いたから……ケイは出したくないと思ってるかな?」

シーヌはティキの髪をいじりながら、持っている情報を開示する。

 ケイは一度、シーヌを討ち損ねている。その意味を、シーヌとグレゴリーはよく理解していた。

「“奇跡”。“忠誠”、“王国の敵を討て”。ケイは無意識に、お前を敵ではないと認めた、訳だ。」

今は、違う。シーヌはそう思う。冒険者組合シトライア支部に近い、この一帯。ペネホイが燃やした、家の跡がいくつもある。

 アグランが独断で動き、ペネホイたちとティキたちが戦った結果がこれだ、ということは、ケイとてわかる。わかるはずだ。

 それでも彼は、シーヌを敵視するだろう。シーヌを国賊だと認めるだろう。

 なぜなら、セーゲルとルックワーツ含めたこの騒動は、全てシーヌが関わっている問題なのだから。


「冒険者組合に所属しているから、僕を法的に裁くことは決してできない。牢に入れることも、拷問することも、決してできない。」

それが、世界に存在するどんな国よりも歴史の古い、冒険者組合に所属したものに与えられる、特権。冒険者組合員を裁きたければ、冒険者組合による裁きか自力での殺害、どちらかを為さねばならない。

 ケイはシーヌを殺せる。ゆえに、彼がシーヌを敵と認めたならば、シーヌを殺しに来るだろう。

 シーヌ=アニャーラは国情を乱す国賊である。殺せ。そういって、軍を率いて殺しに来るだろう。


「今回は、話は別でしょう。グレゴリーさんたちはどうしますか?」

「……軍の相手は、俺たちがしよう。」

グレゴリー=ドストは、そう言った。シトライア軍。ケイ元帥直属部隊。おそらく、ネスティア王国最も練度の高い部隊。

「……構わないのですか?」

「率いるのはフィナ=ギド=アトルとペネホイ=テスターだろう。彼らを殺しても、いいのか?」

俺たちが、という言葉は入れなかった。入れなくても伝わっていることは、ケイとて重々承知している。

「アフィータとワデシャを使います。セーゲルには、命令を聞いたという功績も必要でしょうから。」

ワデシャはフェドム=ノア=アゲノス直々に、ケイ及びアグランの殺害命令が出ている。

 全てをシーヌに丸投げして黙って見ていた、とあれば、彼らは首を飛ばされかねない。


「それでいいよ、シーヌ。……参加したという功績があれば、身の丈に合わない命令の責任は、国王に行くから。」

ティキが目を開いた。髪で遊んでいるシーヌの手をとって、ギュッと握る。

「私は、アグランを殺ればいいの?」

「できる、かな?」

ティキはアグランと戦って気絶した。もしかしたら、戦うことに恐怖を覚えているかもしれない。シーヌはそう思って、問い返す。

「やるよ。シーヌの足手まといになんか、ならないんだから。」

思い詰めたような表情で、ティキはそう言った。

 こうしてしまったのはシーヌであるから何も言えないが、どうにかしないといけない。


 そんなことを思ったからだろうか。シーヌは無意識に、手をティキの頭に伸ばす。

「大丈夫。僕はティキを足手まといとは思っていないよ。」

思っていないから、ティキにここまで来てもらったのだ。シーヌが付き添わない状態で。

「ありがとう、ティキ。ティキのおかげで、アリュートは討ったよ。」

シーヌは笑う。その今の笑顔は、純粋にティキのことを見つめた瞳をしていて。 


「アグラン=ヴェノールは、ケイ=アルスタン=ネモンの次に強い、ネスティア王国最高戦力だ。」

シーヌは呟く。あの日、ネスティア王国軍に奪われたものを思い返して、言う。

「僕の代わりに、アグラン=ヴェノールを討ってほしい。彼は、僕の親友の仇なんだ。」

親友の仇。ティキは、シーヌとチェガを思い浮かべた。

 もしも、彼の目の前でチェガが殺されたとしたら、シーヌはどういう反応をするかを考えた。

「任せて。絶対、その彼の仇は討つから。」

覚悟を決めて、そう言い放った。シーヌの目をまっすぐに見て。シーヌの想いを受け取ろうとするかのように、そう言った。


 シーヌは、思う。ティキは、アグラン相手なら、勝つだろう。ケイ相手なら間違いなく死ぬだろうが、アグラン相手に負ける心配はいらないだろう。

 断言できるが、だからこそ。ティキの、才能とこの力。それがどこから来るのだろうか。他人を信じたくなかったシーヌが、ティキを信頼したくなる、この気持ちは、一体どうして湧いてくるのだろうか、と。

 シーヌは、ティキを、恐れ始めていた。




 シーヌとティキは疲れている。そう判断したグレゴリーは、彼らに寝るように促した。

「夫婦なら同じベッドでもいいだろ?……休むんだぞ?運動するんじゃないぞ?」

「失礼ですね!まだキスもしていません!」

という一幕があったのはご愛敬として。


 ティキとシーヌは、緊張感など微塵もなく、隣に寄り添って、手を繋いで、眠った。互いが互いを信頼している、という気持ちを、その手に込めて。

 ……シーヌは、さっきの恐怖心を押し込めながら。




 ネスティア王国シトライア支部に集っていた、冒険者組合員四人。彼らは、ルックワーツ討伐という建前で呼ばれた、傭兵扱いの冒険者組合員である。

 そして、それが建前である以上、本音は別にある。国王陛下直々の願いとしての、ケイの監視だ。


 ケイは、少し壊れ始めている。ネスティア王国今代国王フェドムは、そう認識していた。

 そして、その依頼こそなくなったが、ケイの壊れ具合は変わっていない。もう、見きりをつけるべき時だった。

「そうか。アリュートも、死んだか。」

呟く。対人戦闘において、“四翼”中で最も殺人に向いていたのがアリュートである。


 ようやく、苦しみが終わる。そう思ったフェドムは、考える前に口を動かしていた。

「……ケイ。余は火事現場へ行く。決して、ついてくるな。」

そこまで行けば、グレゴリーと接触する手段はある。フェドムはそう知っている。

 ケイは、“四翼”が二人も死んだ悲しみで立ち直れず、アグランは部屋の中で籠っていて。

 誰も、フェドムの行く道を阻もうとするものがいなかった。当然だ。フェドムは、この国絶対の権威を持つ国王だ。

 ケイとアグラン、元帥と宰相を止めないのなら、彼を止められるものなど存在しない。

 ケイの、最大級の弱点は、こうしてようやく、重い腰を上げた。

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