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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
忘恩の商人
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王城到着

 シトライアは王都だけあって、賑やかだ。それは、都に近づくにつれて顕著になっていく。 

 周りが賑やかで、観察されているにも関わらず代表団の空気は重かった。それは、ワデシャが敗北した後の会話に起因する。




 シーヌが放った光の玉は、ワデシャの身を焼きはしなかった。当然だ、そうなってはシーヌたちが困る。

 シーヌにとっての予想外は、乱入するのがティキではなくアフィータだっあことか。

 ワデシャを守るためには最適解であるとはいえ、思い通りにいかないことにため息を吐くティキを、シーヌは簡単に想像できた。


 “庇護”の三念を突破するには、シーヌとて“憎悪”か“苦痛”の三念を引き出さなくてはいけない。

 あの憎悪に身を焦がすことも、あの苦痛に心を投げることも今はできない以上、ティキが乱入するまで戦いを続けることは出来なかった。


「もう、いいでしょう。」

アフィータの沈んだ声は、シーヌにどうな感情を抱いているのか、簡単に読ませることができた。

「私たちの過ちは認めましょう。私たちの馬鹿さ加減も、認めましょう。」

兵士たちにも聞こえるように、アフィータは大声で、低い声で、自分達を責めた。

「私たちの見積もりが甘かったのも事実。兵士たちが子供過ぎたのも、また事実。」

後ろの代表団たちがざわめく。責められる謂れはない。自分達は悪くない。そういう言い訳が何度も何度も聞こえてくる。


「ですから、シーヌ。王都で、シトライアで会いましょう。私たちは、あなたたちと交流するには早すぎたようです。これまでの無礼、申し訳ありません。」

あくまで自分達を格下のように扱いながら、謝罪する。セーゲル最強格たるワデシャが負けた以上、その礼は正しいのだが……兵士たちは、当然そうは思わない。


 なぜ。どうして。あいつがセーゲルに来たことを謝るべきだ。そう言い募り、シーヌを責める。

「死にたいか、セーゲルの兵士ども!」

アフィータの怒号が荒野に響き渡り、兵士たちは口を閉ざした。それでも、募り募った不満や不安は消えてはいない。


「それで。セーゲルは私たちに、どういうことを要求する?」

険悪になりきった空気のなかで、満を持したかのようにティキが会話に加わった。

 おそらく、この沈黙のなかでしか会話に入ることができなかったのだろう。


 アフィータは黙って……ティキに問いかけた。

「あなたは、どうして私たちを手伝ってくださるのです?」

ついさっきまで同行していた、その理由を問いかけてきた。

「冒険者組合にはあるルールがあってね。」

彼女がセーゲルに着いて、冒険者組合セーゲル支部で一番最初に調べたのは、冒険者組合の明確化されたルールだった。


「私たちは、世界、社会に対する敵対者。世界全人類と冒険者組合は、その二者で世界の力量を二分している。」

それこそ、ドラッドみたいな強者がゴロゴロいるのが冒険者組合だ。そして、ガレットのような強者が溢れ返るほどいるのが、世界だ。

 シーヌたち、今年度試験で合格した八名だけで、セーゲルくらいなら落とせる。ルックワーツも、落とせるだろう。


 王都シトライアは、不可能だ。“黒鉄の天使”と“盟約の四翼”は、当時のシーヌとティキでは倒せない。倒せてもそれ以降は動けない。

 で、デリアやアリス、それ以外では、残る四翼に負ける未来しかないだろう。

「私たちは、あなたたちに雇われた訳ではないよ。善意で手伝っているわけでもない。」

兵士たちが聞いている前で、言いきる。兵士たちは雇ったと思っていたのか動揺していて、ワデシャとアフィータは黙ってティキの言い分を聞いている。


「冒険者組合は、世界の崩壊や均衡の崩壊は望んでいなくてさ。ガレットさんやこれからシーヌが復讐する人たちを考えれば、十分崩れるんだけど。」

彼女はチラリとシーヌを見る。彼は、わかっているというように微かに頷いた。

 彼がこのまま復讐の旅を続けていけば、いずれ冒険者組合からは指名手配を受けることくらい、シーヌはわかっている。


「だからこそ、冒険者組合にはこういう一文があって。」

 均衡の崩壊を望まない。その一文が大前提の、とある一言がある。

『冒険者組合員は、弱くて愚かなその他大勢に対し、その知識、力を貸すことが許される』


 そのルールの適用は、そのまま兵士たちへの侮辱へと繋がる。弱くて愚かだと明言されているのと変わらないからだ。

「そのルールを今まで適用してきて、今回のことで確信しました。あなたたち以上に、このルールを適用するのに最適な方々はいません。」

セーゲルの代表団が弱くて愚かだと断定した。冒険者組合のルールでもって。


 このルールは、冒険者組合のとんでもない傲慢であると同時に、冒険者組合の実態を示す。

 『弱くて愚かなその他大勢』に対応するのは、『強くて賢き一握り』であり、それが冒険者組合であると明言しているのだから。

 セーゲルの兵士たちはプルプルと震えた。自分達が弱いと言われ、愚かだと言われたことに怒りを覚えた。


「王都にいる限り手を貸しますよ、弱くて愚かなセーゲルの皆さん。」

美少女が、ニッコリと聖女のような笑みを浮かべる。しかし、その言葉の内容は全く聖女のようではなかった。


「もしも私たちの評価を覆したいんだったら……」

ティキは笑いながら。兵士たちを手玉にとるように、言う。

「私の言うことくらい、ちゃんと聞いてね?」

在野に眠る政治家は、兵士たちの行動をほぼ完璧に掌握した。




 こうして、セーゲルの兵士たちはシーヌの排斥には成功した。愚か者のレッテルだけはしっかりと貼り付けて。

 自分達の気分のために、自分達のプライドを捨てた。それが、今の彼らである。

 その惨めさは、彼ら自身が今一番体験しているだろう。だから、空気が重いのだ。


 王都の前に立つ。アフィータが前に出て、しっかりと手続きを行った。

 きっと以前来た派遣団から話は通されていたのだろう。門の中、兵士の宿泊所であろうところから案内役が出てきて、セーゲルの者たちを案内する。


「謁見まで、二週間の時間がかかります。」

ティキの見立ての通り、二週間かかるようだった。

「それまでセーゲルの皆さんは、王の用意した宿で暮らしていただきます。」

要は監視つきの生活を強要するぞ、ということだとティキは言った。しかし、それを容認するティキでなければ……シーヌの望みを無視するティキでもない。


 早く国王との謁見を終わらせたい。その上で交渉だけを長引かせ、元帥以下の復讐仇の情報を得たい。

 シーヌの望むことができる場所に、できる才能を持って、ティキはいた。

 場所、才能、それ以外に、それが叶う材料まで持って……

「案内の方?」

にこやかにティキは話しかける。にこやかに、表情を崩さず、そして心は残忍に。


「国王陛下に、この書状を。散った黄色い翼の羽を所持している、と伝えてください。」

バレバレな暗号文でもって、謁見を早く済ませようとしたのだ。

「……ハッ、承知いたしました。」

案内役が受け取って、城へと向けて走っていく。きっと彼は何を言っていたのか気づいていないだろう。

 国王か元帥の癇癪で殺されるかもしれないな、と冷たい目で見送った。


「ということをしましたので、今晩中には謁見が叶うでしょう。ワデシャさんとアフィータさんは必ず起きていてください。」

ティキがサラリといった一言には、ワデシャとアフィータをして何を言っているんだ?と思わせるようなものだった。


 二人は監視用の宿に入った瞬間にそれを言われた。ご丁寧にもティキが、密談用に防音の魔法をかけている。

「何が目的ですか?」

二人顔を見合わせて、まずアフィータが切り込んだ。

「返すべきものは早く返さないと、問題がこじれやすくなるからね。」

まずは、セーゲルのための正論を言った。確かに、ずっと亡骸をこちらで管理しているというのは疑ってくれと言うようなものだ。


「次に、シーヌの名前は言わず、冒険者組合が助けたという情報だけは渡す。あなたたちは脅迫されていたことにするから、問題ない。」

現に私がいるから、うまく誘導できるだろうね、と言った。

 シーヌの目的が復讐であることも、告げると言った。言わないのは、シーヌの名前、容姿、年齢、出身。目的以外は話してはならない。そうティキは言った。


「強く問いつめられたら、こう言って。『セーゲルが人質に取られている』って。」

冒険者組合員なら、それくらいのことはできる。だから、違和感はあまりないだろう。

「私の目的は“黒鉄の天使”ケイ=アルスタンと“盟約の四翼”アグラン=ヴェノールとの対面。」

それならば、この謁見で叶うだろう。なぜなら、引き渡す遺体は“伝達の黄翼”のものなのだから。




 本当に、謁見の連絡は皆が寝静まった深夜に来た。非公式に、代表だけと面会したい。来られたし、と。

 ティキに教えられてワデシャもアフィータも心構えはしていたから、何の抵抗もなくその要求を受け入れた。

 ルドー=ゲシュレイ=アトルの遺体を浮き上がらせる。完全に氷で覆われたそれは、その大きさに反してスッと浮き上がった。


 数名、王都の兵がティキたち三人を囲む。アフィータもワデシャも武装解除は徹底されているし、ここで襲われたら一溜りもないだろう。

「アフィータさん。攻撃を受けたらワデシャさんの身を守ってください。」

私は魔法がありますから、と普通の声量でティキが言う。


 これは、周りの兵士たちに聞かせる意図があった。手札をさらしてでも、暗殺は無駄だと伝えることが。

 それに、魔法があると言ったからといえ、それが手札を曝すことになるとは限らない。

 暗殺防止以上の役には立たないが、その程度の役には立つ情報を提示したのち、ティキたちは案内通りに後に続いた。




 到着した王城は、夜だけあって静かだ。街中でも同様だったが、その静かの異質さが違う。

 街は暗かった。灯りのない静けさだった。しかし、王城は違う。中に入ると一目瞭然だ。

 煌々と灯りが焚かれ、微かな油の匂いが鼻孔をくすぐる。そんな中で、広い道をまっすぐ歩まされて……。


「アフィータさん、ワデシャさん。萎縮しないでね?」

ティキたちは、一番広い扉の前で言う。冒険者組合員ティキ=アツーア=ブラウの、初めての外交場面が近づいてきていた。

 しかし、ティキは知らない。冒険者組合員というものを。その影響力、畏怖が世界にどれだけ広がっているのかも。

 それが、それこそが……今回、最大の、ティキの壁だと言えた。

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