代表団の不満
今回は超短編です。
納得がいかない。違う。不満が多い。代表団最強格の兵士Aは、シーヌの扱いについて不満がたくさんあった。
彼にしてみたら、シーヌの存在自体が邪魔だったし、諸悪の元凶だ。
「あいつさえいなければ、セーゲルは平和だったのに。」
とどのつまり。すべての兵士たちの意見は、そこに集約している。
馴れ合いに近かったルックワーツとの抗争が全面戦争になり。
行かなくても良かった王都シトライアに行かねばならず。
挙げ句の果てに、彼の個人的な怨みでセーゲルが危機に陥っている。
あいつを追い出そう。兵士たちのその気持ちが高まってきたのは、ペガサスの里を出てすぐだった。
いるだけ邪魔な男など、追い出すことに躊躇はいらない。そういって、セーゲルを旅立って以来のまとまりを見せ始める。
しかし、彼らには不満を基にした強い団結力からくる自信以上に、シーヌに対する恐怖があった。
ガレット=ヒルデナ=アリリードを殺し、ペガサスを四頭も従え、目の前でルドー=ゲシュレイ=アトルを殺した。
自分達では敵いはしない化け物であるということは、そこにいる全員がわかっていたのだ。
その日の夜に、代表団の兵糧を担当している兵は、シーヌ追い出し計画を聞いて顔色を変えた。
「やめてください!私達がどれだけ彼にお世話になっていると思っているのですか!」
その女性は、毎日提供される100名分の新鮮な肉の重要性を、滔々と語った。毛皮、肉。あるいは、薪の乾燥具合まで、どれだけシーヌに頼っているのか、何十分と語られた。
兵士たちとしては面白くない。諸悪の根元が自分達を助けていると言われても、感謝のしようがない。
「なんでそんなに肩入れするんだ?」
「だって、助けられてるし。」
帳簿をつけ、物資を管理する兵士たちは皆一様にシーヌとティキには助けられている、という。
しかし、少数派。群れないと戦えないというセーゲルの性質上、千名の兵士のうち950は直接戦闘をする人間で。
微かな兵士たちの呻きなど、理解できるはずもなかった。
次の日の朝に、ルドーの亡骸を監視していた兵が反乱主犯に祭り上げられた兵士Aに言った。
「小僧を追い出すのは賛成だが、ティキ様を追い出すのは感心せんぞ。彼女にいなくなられるとセーゲルが危うい。」
それを聞いて、何人かがサッと血の気を引かせた。ティキを追い出すつもりはなかったが、敵対すれば同時に去っていくだろう、と思ったからだ。
「どうすればいい?」
「小僧に言わせればいい。セーゲルを守れってな。」
「どうやって?」
兵士たちがみな、馬の上で沈黙する。多少の声は馬蹄の響きによって書き消されるため、反逆の相談にはちょうどいい。
それにしてもその沈黙は、そこで思考が止まっていることを意味していて。
「……助けましょうか?」
あまりに見かねたのか……いや、最初から見ていたのか。そういうタイミングで、ワデシャが声をかけてきた。
兵士たちは微かに目を見開く。彼が手助けを申し出る、ということは誰も考えなかったことだった。
普通に考えると、ワデシャがそんなことを言うのはおかしいと思えただろうが……兵士たちは、頼もしい後ろ盾の存在に酔った。
それが、ティキの思惑であるとも気がつかず……
兵士たちは、三日目に。
誘導されて、怒りを爆発させた。
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