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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
竜呑の詐欺師
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復讐鬼、詐欺師を討つ

 ガレットは、シーヌが扱うのがドラッドの“無傷”であることを、しぶしぶながら認めた。それを認めなければ、このままシーヌに殺されてしまうと理解した。

 だから、シーヌに攻撃を当てるためにまず“貫通”を捨てた。“貫通”は肉体にほぼ確実に傷をつけるためのものだ。傷がつくことを否定する“無傷”とは相性が悪い。


 対して“溶解”は“無傷”と相性がいい。なぜなら溶かすことがメインの能力で、傷つけることは主目的から外れるからだ。

 放った矢を、シーヌは小石を投げて受け止めた。ガレットが戦法を変えたのかを確認するためだ。

 その矢は石を貫かなかった。ただ触れて、石をドロドロに溶かして消えた。

(“貫通”は消してきたか。)

思うと同時に、早く的確な判断にただ面倒だと思った。ここまで接戦に持ち込んだ。何度もシーヌを圧倒してきたガレットなら、シーヌを舐めてかかっているはずだ。

 相手をなめてかかると、思わぬところで足元をすくわれる。シーヌがそれを狙っていなかったといえば、間違いなく嘘になるのだ。


 百戦錬磨。シーヌの仇たちは、皆がその言葉に似合った経歴を持っている。とてもじゃないが、シーヌのようなたかだか16年しか生きていないような素人が圧倒できるようなものではなかった。

 それでも、“奇跡”というのは名前負けするものではない。これを行使できるからこそ、シーヌは今ガレットと互角に渡り合えていた。



 ガレットの得意分野、弓の間合いで、シーヌは魔法で戦闘する。セーゲルにいる間何度も何度も見て、矢を生成できるほどの想像力には自信があった。

 “溶解”はただの『溶かす』という概念だ。矢にそれが付与されているからといって、何かを貫通してくることはない。


 つまり、矢を打ち返せばそれはシーヌのもとまで届かない、ただの矢でしかない。

 だからガレットは、“溶解”を乗せた矢をひたすらシーヌに当てることに力を入れ始めた。

 矢を放つ瞬間に、弦に込める魔法概念は“追尾”。その弦から放たれた矢は、例え後ろを向いて放ったとしても、対象を追いかける。

 シーヌも、そう来るのはわかっていた。セーゲルで何夜、ガレットの資料を読んだことか。その資料も、バグーリダが冒険者組合の本部に要求して、手に入れたものだ。正確さは信用できる。


 だからこそシーヌは、ガレットが起こすであろう行動、攻撃の、ありとあらゆるものを想定していた。こんなところで負けるわけにはいかないのだ。

「はぁぁぁぁ!」

矢を打ち落とし、自身を守るだけならば、光の弾一つで十分。ガレットが行き着く暇もなく射続ける矢を撃ち落としながら、迫り来る矢よりも若干だけ多い手数でシーヌはガレットに攻撃を届かせ始めた。

 その一撃一撃は軽い。打撃力、貫通力ともに極端に低く、ただし殺傷力は強く手数は多いガレットの矢を防ぐためには、シーヌも手数で対応しなければならない。


 強い威力を込めて魔法を放つタイムラグは、そのまま攻撃に回す魔法の減少、あるいは防御が手遅れになるという事実を示している。

 ゆえにシーヌは威力を殺してでもガレットにダメージを与えるべく、手数を増やしていた。ティキの十八番『剣の雨』と違う点は、1つは想像しているのが剣ではない、純粋な想念の塊であることだが……もう一つ、決定的な違いを持っていた。

 ティキの攻撃は無差別攻撃が多い。対象個人を攻撃するより、無差別に更地にする方が彼女は得意だ。

 逆にシーヌは更地にするのは得意ではない。視認した相手個人を見て、その特定対象を攻撃する方が得意だ。


 それはシーヌたちの精神性や歩んできた人生が表に出てきたものではあるが……

 シーヌの魔法は、まるでガレットの“追尾”のように彼に迫る。矢と違って想念の弾は、最初からシーヌの意志のもとでコントロールされている。“追尾”という概念は必要ない。

 ガレットはといえば、近くまで迫ってきた魔法に対して、自前の魔法で対処した。

 弓兵であるということは、矢を放っている間はそのまま自分を無防備にすることと繋がっている。百戦錬磨の男が、いや強者として百戦錬磨の領域に足をかけた男が、それをよしとするわけがなかった。


 近くに来た魔法の弾を、『くらってたまるか!』という軽い意志で弾く。どれだけ魔法を勉強していなくても、想像力が低くても、『自分を守る』という本能が、そしてそれを無意識にできるようにした努力が、一撃一撃がが軽いシーヌの魔法を阻んでいた。

 しかしそれでも全てを阻めるわけではない。十発に一発、いや三十発に一発ほど、ガレットに届いた攻撃はガレットの体にダメージとして入っていた。

 時間にして10分。数にして万を数えるほど。一秒に16発を数えるほどの矢と魔法の応酬は、シーヌが距離を置きながらも地面に足をつけることで終結した。

 分の悪さを見て取った、というより体に入ったダメージで実感していたガレットは、矢を放つ手を止めぬまま距離を詰めるという暴挙に出た。


 接近戦では、ガレットはシーヌよりも強いと確信していた。当然だ。竜の谷を最初に抜けた先での激突で、一合限りであったがガレットが勝っていた。



 2歩の距離まで近づいて、片方の拳を振りかぶる。足を大きく開いて踏み込んで、眼前でアッパーカットに切り替えて。

 振り抜いた拳は、シーヌに当たることはなかった。“溶解”の三念を込めたその拳は、打撃という傷つける行為を、“無傷”によって阻まれた。

「あのときは届いたのに、なぜだ!」

無言の数分から一転、あまりに思い通りに行かない様に、ガレットがわめき散らしながらシーヌの眼前で矢を『投げた』。


 しかしどういうわけかシーヌを透過して過ぎ去っていき、代わりにガレットの右腕に激痛が走る。

「い、てぇぇぇ!」

攻撃意思は読めたのに、いつ攻撃されたか全くわからなかった。

 ガレットの右手首から先がなくなり、切り落とされた先がくるくると宙を舞う。

 シーヌは“非存在”によって消した剣を意思力で操ってガレットの手を切り飛ばしたのだ。ガレットの矢を避けたのは、エーデロイセの“錯乱”。

 ガレット一人を倒すために、ドラッド、ファリナ、エーデロイセと、複数人の三念を使わざるを得なかったのだ。



(修行が足りない。実力が足りない。)

悔いるように、拳を振り抜く。その気持ちの揺れが、ガレットの命を救った。

 振り抜かれてなお、ガレットの動きを制限することすら、なかった。

 精神的に追い詰められた昔の、圧倒的なまでの“苦痛”は、ガレットの肉体を痛め付けはしたが、精神を痛め付けはしなかった。

「今ので致命打にしなかったのは間違いだった、な!」

血が止まらない右腕に弓を実体化させる。腕に土台を固定し、まるで弩のようにその上に弓を乗せた、ルックワーツ伝統のガサトアという種類の弓。


 使いなれていないものは、自分の掌を撃ち抜いてしまうおそれもあるこの弓は、手首から先を失ってしまったことでガレットに使われる機会を得た。

「はぁぁぁぁ!」

速射する。手を休めず、ただただ後方へと離れながら、弾幕を張った。

 巨大な光の柱が空へ向けて伸び、赤竜クトリスが死ぬ。その光景を見て、はっとしたように耳をすました。


 轟音が、ベスティナと戦っていたバグーリダが放つ谷の轟音が聞こえない。

「やめだやめ!勝てないのなら逃げるまでだ!」

やけくそになって叫んだ。ルックワーツの責務を投げ出すための戦だった。全てを滅ぼすための戦だった。

「オレガ1人生き残れれば、俺はそれでいいんだよ!」

叫んだ。シーヌがいた方に向けて矢を放ち続けながら、ガレットは己の本心を暴露した。

「……え?」


気がつけば。本当に気がつけば、シーヌはガレットの目の前にいて。

「……俺の復讐は、ようやくこれで二人目だ。」

シーヌの剣が、ガレットの胸を深々と刺し貫いていた。

 流れ込んでくる、シーヌの苦痛。全てを失った悲しみや帰るところのない孤独感。いなくなった友と家族。

 もう二度と戻らないそれらを、戻らないと知ってしまった、その時の狂気。


 シーヌが精神的に味わったその感情、心の苦しさを、“苦痛”という概念が送り届ける。

「あ、あ、ああぁぁぁ!」

外に出たい。全ての責務を投げ出したい。そしてその算段がようやくついた。

 そんな幸せな気持ちで戦っていたガレットは、もうそんなものが得られなかったことに、気がついてしまった。

 シーヌが味わったのとは格が違う。それでも、ガレットは望みが叶えられないことに絶望した。

 普段の彼であれば、その程度のことで絶望することはなかっただろう。しかし、ガレットと敵対しているのはシーヌだ。


 魔法概念“奇跡”。その区分は“復讐”。冠された名は“仇に絶望と死を”。

 強制的に絶望の感情を押しつけられた。シーヌはガレットと戦った。シーヌはガレットを絶望させた。

「あとは……死ね!!」

持った剣を、心臓目掛けて一閃させる。

 ガレットは、ガレット=ヒルデナ=アリリードは、シーヌの手にかかって死んだ。

「これで、二人だ……。」

遠くから2匹の獣が走って来るのが見てた。一匹に乗っているのはティキで、おそらくもう一匹は自分用のものだろう。

 赤竜の血の摂取で赤い毛に変わったアオカミを見て、残りのルックワーツの超兵を片付けようと、ガレットの首を斬って腰にくくりつけてからシーヌはティキの方へと走り始めた。

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[気になる点] >それでも、“奇跡”というのは名前負けするものではない。これを行使できるからこそ、シーヌは今ドラッドと互角に渡り合えていた。 ガレット?
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