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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
伝統の聖女
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独走

最近ちょっと話が荒れていると思います。

来週辺りに一章はもうすこし整え直します……

 冒険者組合としてルックワーツに入るわけにはいかなかった。

 彼らは、自分たちの意思で冒険者組合を排除したのだ。自力で、それを排除できる力があるのだ。

(ま、世界中と言おうとしたら無理だろうけれどね)

冒険者組合は、一時的、たかが十年や二十年程度その勢力を減らしたくらいで困ることはない。


 そもそも、『赤竜殺し』程度に組合が警戒することはない。彼は確かに、世界最強レベルの一角ではある。きっと、ドラッドと同等以上の実力を持っているだろう。

 しかし、冒険者組合に所属すれば、研究職でなければ、十年もすればそのレベルの技量は得られるのだ。自然に得ているものなのだ。

 もちろん、生きていられればの話である。シーヌがこれからやろうとしようとしていることのように、死地へ挑んで


 同じ冒険者に殺されることもある。実力主義というのは、不足者は淘汰されるから。

 竜の血を換金した金で、何かしらの果実を買って噛り付く。まずは宿の確保。そして、市の偵察だ。

 とはいえ、宿の確保など気にしなくてもいい。寝られたらどこでもいい。復讐が叶うなら、それ以外の健康や安全、快適さなど、必要ない。

 彼は自分が生きてきた今日までのことを思いだした。ティキがいて、色々と自分の生き方を変えてきた。今はそうしなくてもいいという気楽さから、素泊まりの、何もない場所に宿をとる。


 一週間。それくらいに期限を見ておくべきだろう、とシーヌは思った。

 セーゲルにいた期間は三日。しかも当初は二ヵ月を予定していたはず。それを考えるとどうにも彼の立ち位置があやふやで、一貫性もなく、行き当たりばったりに見えるだろう。

(それでいい。復讐に生きる人間が、計画的犯行なんて変な話だ。)

ドラッドの時もそうだった。行き当たりばったりで、実力と力技で復讐を成し遂げて。


 復讐を果たす。その部分だけ、はっきりと認識できていたならば。

その部分だけ、はっきりと芯が通っているならば、シーヌにとって他はどうでもいい話であった。

 一瞬、ティキの顔が頭によぎる。死ねば、彼女は自分以外に……おそらく、聖人会とやらに保護されて、彼らに依存して生きていくことになるだろう。

 あるいは、新たな聖女への駒として育成されていくかもしれない。しかし、きっとそっちの方が平穏無事な生活を送れるに決まっていた。

 彼女の顔を、シーヌは必死に振り払う。宿の一室、何もない場所でシーヌはセーゲルの支部長にもらった紙を広げた。地図だ。

「奴らの普段の生活する場所がわかるのは、ちょうどいいな。」

復讐のお膳立てが揃っているとは言い難い。しかし、これで足りないなどと言おうものなら他の敵討ちが出来るとは言えないのも事実。

「それじゃあ、行くか。」

普段の優しげな雰囲気はなりを潜める。


 ここは敵地。普段も警戒をしてはいるが、復讐鬼としての彼とは比べるべくもない。

 鬼は、ルックワーツの地に降りた。ここからは、復讐を果たすために動き続けるのみだった。




 どこの街にも、訓練施設はある。復讐に動いている俺は、普段の僕の時には使えない“有用複製”を使用できる。

 “不感知”はとっても便利な“三念”だ。こういう隠密行動に向いている。

 笑みを浮かべながら、天井に張り付いて下を眺める。訓練している兵士たちは、どこからどう見ても普通の人間だ。訓練事情も、多少は過酷かもしれないが、冒険者組合でゴロゴロしている戦闘職ほど厳しいものでもない。


 これでどうして、ルックワーツの超兵などという兵士が生まれるのか、不思議になる……

(いや、確か、竜の血の採取だったか)

思い出したのは、復讐に身をやつした自分でさえ嫌悪を覚える所業。そんなとんでもないものを実行に移して見せる彼らに吐き気を覚える。

(そんなに、人間が嫌なら、これから屍に変えてやる!)

この中に、“復讐”が敵だと訴える兵は一人しかいない。ここの一番上の教官だけだ。

「見た記憶はないけれど。」

一瞬素の自分に戻って思案する。最初の遭遇に出てきていなかった超兵だろうか。


 ルックワーツの軍のうち、超兵は100人。あの遭遇の時に見たのは30人。30対1で負けかけた。100対1なんて自殺志願は、やるわけにはいかない一線だ。

 ガレット=ヒルデナ=アリリード。彼を倒せば、超兵は統率力を失うだろう。そうすれば、各個撃破が狙えるのだ。

 後をつけて後ろからズブリと行きたかった。そうしたいと体が疼いていた。目の前に垂らされた復讐という餌に、まだ食いつくわけにはいかなかった。

(抑えて、シーヌ。僕の中の鬼。まだ、まだその時じゃないよ!)

叫び声をあげる。彼は復讐鬼を押さえつける形で自分の理性だけを取り戻す。


 人格の主導権は、まだ復讐鬼が握っていた。自分が復讐に呑まれかけていること……2つ目の人格を生み出すまでに至ってしまったことを思い知って、彼は苦笑した。彼がまだ彼自身を見失っていないのは、どうしてだろうか。

(いや、奇跡行使者は多かれ少なかれこうなるのかな?)

 シーヌは、他の奇跡行使者を知らない。ドラッドは殺したと思っているから、彼が奇跡に目覚めたことを知らない。

 ティキの奇跡は、ティキ本人すら所持を知らない。“恋物語の主人公”は、その自身の奇跡を自身でも語りはしていない。


 ほかに彼の身近に奇跡行使者は……いない。そもそも、起こらないからこそ奇跡なのだから、その辺にあふれているわけはないのである。

 シーヌは訓練を終えた教官の後を尾ける。この地図の通りなのかを知らなければいけない。

(ばれないとは思うけれど、ばれたら一か八かで殺らないといけないだろうね。)

そう決意して。でも隠れる以外の意思を強くしすぎると、効果が薄れていくのが“不感知”だ。


 殺気を隠す。他の意思をグッと押さえつける。そして、あの教官をしていた兵士の後を追いかけ始めた。

「おい、ナリサ。ケッチャの奴がセーゲルの連中に捕まったらしいぜ?」

声が聞こえる。その声が、超兵と同じプレッシャーを放っていることに、シーヌは気づいた。同時に、それが“復讐”の琴線に触れてこないということも。

(まさか……いや、あのクロウで見たときにいたのも、100人だったと聞いた。)

頭の中に浮かんだ信じられない想像を、首を振って振り払う。


「そうなのですか?それは……それだけ変な戦いでも起こしたのでしょうか?」

丁寧な口調で話している。あのナリサがだ。驚いた。彼女といえば、一度だけ、幼いころに拳を交わして……いや、今はいいだろう。

 彼女が敬語を使うほどの相手。もしかしたら、セーゲルは最初から最後まで遊ばれているのではないか、と無意味に思った。

 もしも遊ばれているのならば。きっと、ティキが危ない。そんな思う必要のない現実が頭の中に思い浮かぶ。いらない。いらない。そんな甘えた思考はいらない。


 思考を再び振り払って、話に耳を傾ける。

「いいや。新米冒険者が一人、不詳のバカ弟子が一人、いただけだ。」

ギリ、と歯を食いしばった。ガレット=ヒルデナ=アリリード。『赤竜殺しの英雄』あるいは『溶解の弓矢』。

 彼の声が聞こえて、彼の姿が見える。すると、両兵は跪いて彼を迎えた。

「爺。冒険者のほうはちょっと厄介かもしれない。カレス将軍と戦うためにパーディが必要な以上、俺が行く。」

「待ってください、それはまずい!我々老兵では役不足ですか?」


叫び声が聞こえる。老兵は、シーヌの対処を自分たちにさせるように言う。

「そもそもにして、あなたの恩知らずの弟子、ワデシャ=クロイサは誰が対処するつもりするつもりですか!」

抗議を少し黙らせて、コツコツと歩く。兵士たちは顔を見合わせて、その一歩後をついていく。

 足音が響いているのはどうも靴のせいらしい。シーヌも兵たちもサンダルなので音が反響することはないから、ガレットの歩く音だけが妙に響き渡っている。

「それに関しては、考えがある。」

ガレットが口を開いた。ようやくか、という声を兵士二人が漏らしたそうにしたのを、シーヌは無感情に眺めている。


 彼の言葉が、シーヌのこの先の方針を決める。だからこそ、無感情を貫いて、必要な情報を得ようと努めていた。

「ナリサ、全隊長に伝令。4日後、会議室に集合。“血の儀式”はしばらくいらない。自身の兵士に血の力を引き出させろ」

「了解!」

「爺。あの街の戦力に関して、今すぐ知っていることを纏めろ。冒険者はいい。あれは俺の失敗だ。俺が自分で尻拭いする。」

その瞳には愉悦の光がうかんでいた。爺はあきれたようにため息をつく。


「面白いものなのですか、それは?」

「久しぶりに命のやり取りが楽しめそうだぜ。」

その一言に、爺もナリサも息を詰まらせた。そんな危険なものと戦わせるわけにはいかない。爺の瞳はそうガレットに訴えかける。しかし、退屈な日々を送る彼ガレットにそれを受け入れるわけにはいかないのだ。

「久しぶりだ。暴虐事件以来だ。こんなに楽しそうなのは。だったらよう、もっと面白くしようじゃないか!」

悪人の、悪事を働こうとしている人間の、悪意のあふれた声で笑うと、ガレットは足早に歩き去る。

 血が滾っているのだろう。何かしらで発散しないと、暴れだしそうな雰囲気を帯びていた。


 シーヌもガレットが進んだ場所とは別の方向にかけ始める。この先の方針は決まった。会議室の場所を確認しておく必要がある。場所はあっているか、隠れておく場所はあるか。

 暗殺が、一番確実に英雄を殺す方法だ。そうシーヌは確信した。




 夜のうちに、彼らが会議室と呼ぶ場所まで侵入した。天井の換気用の穴から、飛び降りることが可能だった。その位置と、身分が上のものが座る席との距離。動きを確認する。一度で殺して、すぐさま離脱ができる、そういうコースがあるのを計算した。

 可能だ。暗殺は可能だ。そう、シーヌは確信した。サッと天井に上る。再び換気孔に入り、そこから外へと駆け抜ける。


 あとは、一撃で殺せなかった場合のことを考えなければいけない。一撃入れられない、ということはないだろう、それは、シーヌがこの計画を実行するための必要最低限の条件だから。

 毒だろうな。刃に毒を塗るか、毒そのものを部屋に撒くことが必要だ。

 本屋に行って、毒物の本を買って、自分で調合する必要がある。この街で竜を殺せる毒を買うと、すぐに意味を悟られる可能性があるのだ。

 想像したくないが、簡単に想像できることとして、この市の経済が完全に政府によって支配されている可能性だってあるのだから。

 昼日が昇りきるまで寝よう。アゲール=アニャーラという偽名でとっている宿へと、シーヌは上りかけの日の中で駆け続ける。眠けが襲ってきている。

 彼は三日三晩寝ないこともできるといえばできる、が、寝られるときに寝ておくことも必要だとわかっていた。




 シーヌ=ヒンメルが街から消えた。それを聞いて、“錯乱”“要塞”“授与”の三聖人は喜んだ。そして、“自由”“庇護”“調教”“治癒”の四聖人は怒声を上げた。

 セーゲルも一枚岩ではないのう。そうバグーリダは思う。彼は“犠牲”の計らいで、影で彼女たちの会議を眺めている。


 そこに座ることを許されたよそ者、ワデシャ=クロイサは頭を抱え、カレス将軍は三聖人に不満を隠そうともしない。

「ティキにどう話せばいいのですか……。」

彼女がそれを知ったら。そう思って頭を抱える。もう彼が消えて二日目だという。ティキが気づいて、騒いだから彼女たちも気が付いたのだ。

 彼の目的を思う。おそらく、きっと、彼はガレットを、あの人外の英雄を殺しに行ったに違いない。一騎討ちで勝てなかった彼を、暗殺で殺そうとする。

 理屈はわかる。しかし、それが可能かどうかは別問題なのだ。シーヌはティキを捨てたのだろうか。結婚しているのに?


 そういう思考を、次々とアフィータは重ねた。それは無意識のうちで言葉として重ねられていき、それが一段落してからワデシャが口を開く。

「馬鹿ですね、あなた方は。シーヌ=ヒンメル=ブラウとティキ=アツーア=ブラウと共闘せずして、この街に勝利などなかったというのに!」

非難するような口調だった。彼は、冷静になってすぐに自分たちの勝利があり得なくなったと断言した。

 勝てるわけがないのだ。あの英雄は、全力のワデシャとシーヌの協力がなって初めて倒せるものだと思っていた。

 それに、それに匹敵する災厄を、ルックワーツの闇を見た彼は知っている。

「今すぐ、今すぐだ!シーヌ=ヒンメルを助けに行きます。手を貸すものはついてきなさい。物見遊山も見に来てよろしい!アフィータ、今すぐにティキさんを呼んでください!」

 次々と指示を出す。誰が指揮官かわからない。しかし、このセーゲルの街は、いや聖人会は、彼を勝利の要だと思っていたから、今は彼の指示に従うという選択をとる。


「誰が、救出班ですか?」

城門に向かう過程で、少し昂ぶりを鎮められたのか、彼は周りに問いかける。

「“庇護”“自由”“治癒”。将軍。それらの配下各二十。ティキ様と、“犠牲”様です。」

彼の従者が読み上げる。それを聞いて、少し多いかとも思った。今回重要なのは機動性であって戦力ではない。兵士はなく大将だけでも十分だった、のだが。

「“犠牲の聖女”?」

その次にそこに驚いてじっと見つめた。そこにいたのは、かつてこの街を護り続けた、先代“護りの聖女”。

「彼がいねば、この戦には勝てん。この戦に勝てねば、国は動かんよ。」

最高の聖女がそういったことで、彼がいなくなったことに喜んだ三聖女は顎が外れたような表情をした。彼女らは物見遊山で参加するつもりだった。


 しかし、まず“要塞”が考えを改めるとまでは言わないまでも、慎重論に傾いた。

「“犠牲”様がそうおっしゃるのであれば……そうですね、わかりました。今回の結果で、彼に対する評価を決めたいと思います。」

ティキがそんなシーヌを舐め切った態度に怒りを覚えていることにもあえて無視をして、彼は平然とそう宣言した。

「……“要塞”がそういうなら……わかった、しっかり見ておくことにするさ。」

“錯乱”は、彼を恐れているから外に出したかったのであって、何があっても彼を街に入れることに賛成するつもりはなかった。 


 それでも、今この場は彼を認める可能性を示唆しなければ、彼女は仲間外れを受けることになっただろう。

 聖人会の中の仲間外れは、少し彼女にはリスクが大きい、と感じていた。理由もなく。

「まだ、行かないの?私、一人でも行くよ?」

ティキのセリフにアフィータとワデシャが冷や汗を浮かべる。

「い、いえ、行きましょう。」

押されるようにワデシャが口にしたそのセリフが、彼らの出発の合図になった。


読んでくださりありがとうございます。

次は金曜日に投稿します。

ぜひまた読みにいらしてください!

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