青の夫婦
密林の中、大きくないあばら屋。
千年の時が過ぎた後、そこはわずかばかり改築されていて。
「パパ!ママ!見てみて!!」
手元に小さな竜巻を発生させた少女が、「すごいでしょ」と言わんばかりに胸を張っている。
「お、すごいな!シャル!!」
もういい年になった男が、その少女の頭を撫でた。娘はとんでもない才女だ。全く……彼女に似たのだろうなと、父の立場の危うさを感じながら。
「パパ!見てよこれ!クマが仲間になったんだ!これで力仕事も完璧だね!」
クマの背に乗って表れた、利発そうな男の子。空色の髪の男は、クマを見上げてその瞳をじっと見ている。
「ビネルに危害を加えないだろうな?」
解き放たれた圧力。それはまるで、歴戦の勇士を思わせるもの。だが、クマも負けじと睨み返し、そんな簡単には屈しないとばかりに男を見下ろす。
「ならいい。息子たちを頼むぞ。」
「グルゥ。」
男の言葉に、クマは了解したとばかりに頷いた。それに満足すると、彼はパッと後ろに手をかざす。
「くっそう、何で当たらねぇんだ!!」
子供が木刀をもって、木の上から降ってきていた。それを、彼は実にあっさりといなしてしまった。
「経験の差だよ、経験の差。じきにアデクは父さんを追い抜くさ。」
悔しがる息子の頭をポンと撫でる。そして男は、玄関の扉に手をかけた。
「お、みんな来てたのか。」
「かぁ、もう。あれだな、王族って出かけるだけで大ごとになるな!」
「言えばこっちから行くじゃないか。」
「ティキさんが出れねぇだろ、シーヌ。それじゃミラが怒るんだよ。」
「二人で来たのか?」
「当たり前だろ?俺がミラを一人で国外に出すと思うか?」
「いいや。」
チェガと、ミラ。神山一帯を治める大国の王様になった二人。最高の政治技術を持った女王と、軍事において類まれなる無双ぶりを発揮する王配の話を知らない人は、もうほとんどいない。
「全く、溺愛ぶりも大概にしてくれ。」
「え?お前が言うなよデリア。」
アリスを膝の上にのせたまま動かない男に向けて、チェガが言い放つ。その言葉が的確過ぎて、当の二人以外は爆笑した。
デリアはむすっとしている。何としても離すかというように、アリスを抱える手に力を込めた、この様子だと何時間こうしているのだろうか。
「第一シーヌ。お前、何人子供作ってんだ。チェガなんで見てみろ、子供作る時間がないとかいう理由で、結婚して……10年か?まだ子供いないんだぞ?」
「いや、僕的にはお前が子供いない方が驚きだよデリア。そんなに溺愛してるのに何でだよ。」
「……いやだって、割と満足しているし、子供出来たらこうやってずっと抱っこしてられないし。」
何見せられているんだ、とシーヌが頭を抱えて、それを見てチェガが笑う。あの日……アレイティアから出て以降、実に6年ぶりの再会だ。少なくともティキとミラは10年ぶりだろう。
「もう、10年、か。」
ティキはやはり、この森から出られないことが決まった。五神大公は、ティキの自由は許さなかった。……が、この森の中でなら、何をしても許される。
アレイティアになるよりずいぶんマシな温情だったと思う。だからこそ、このたった一つの、ささやかで小さな幸せを。
「守り抜こうと、思えるんだ。」
手に届く範囲で済むからね。そのシーヌの呟きを聞いて、子供たちに抱き着かれたティキが、小さく、でも確かに頷いた。
三年。長かったような、短かったような。
実のところ、結構省略したところも多く、納得していない部分もあったりはするのですが、とりあえずこれで完結です。
途中、あまり読まれないことに悩んだりもしましたが……よく考えれば私は物語を書きたかったのであって作家として本を売りたいわけではない、それを思い出したら随分と楽に書けるようになりました。
これからも書ける限り小説を書けたらいいな、と思います。『小説家になろう』には不向きなモノばっかり書くかもしれませんが、私の趣味ですから……お付きあいいただける奇特な方がいらっしゃればな、と思います。
では、これにて。今後ともよろしくお願いいたします。




