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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
眷属の公爵家
281/314

シーヌの覚悟

 シーヌはただ呆然としていた。

 自分が今生きているこの世界、そして自分の妻、ティキにまつわる過去、深い闇の部分を垣間見たのだから、当然といえば当然だろう。

 復讐を初めて、人を殺して。それから、復讐した、し続けているという事実を前に、もう歩みを止められなくっていたシーヌには、アレイティアの覚悟の重さはとてもよく理解出来るものだ。

 貴族としての歩みも、呪縛の強さも、シーヌにはわからない。その重みを理解するのは、シーヌの家柄……まして、孤児と言える現状の上では、前提として、住む世界が違う。

 シーヌとティキがまともにコミュニケーションが取れるのは、ティキが奴隷と言って差し支えないような生き方をしてきたからだし……それだけ、育成環境は価値観の大部分を形成する。


 もしもシーヌが、クロウであと五年生きていたら。12、3歳ほどまでクロウが存在していたら、シーヌはティレイヌの重みのほんの一部を理解することが出来ただろう。

 クロウにとって、シーヌの祖父マルス、父ジェームズ、義兄ギュレイというのは、そういう存在だ。


 だが、それは仮定の話。クロウは滅び、シーヌは復讐鬼になった。

 それがゆえに。贖罪とは、罪を贖うとは、罰を受けることでも命で償うことでも、ましてや行動を改めることでもなく。


「犠牲にしたものを、踏みしめ続けること。行動を改めず、突き進み続けること。それが、罪を犯した人間に許された、唯一の贖罪だ。」

だからこそ。シーヌはアレイティア公爵家ではなく、ティレイヌ=ファムーア=アツーアを見据えねばならない。

 ティキを取り戻さんと願う時、シーヌはティレイヌの、止められない歩みと戦う必要がある。


 ティキを拉致しているのは。そうしなければならないからだ。

 ティキに子を産ませようとしているのは。そうしなければ、殺してしまったティーネに対して、顔向けが出来ないからだ。


 例えティキやティーネに恨まれるとしても、その二人を相手に、『私はやってのけたぞ』と胸を張らなければ、ならないのだ。

「なら、ティキを取り戻すために、僕はどうすればいい?」

「まずは、ムリカム公爵家への助力の要請だろう。」

すかさず、デリアが返す。行動としては、そうだ。だが、そうではない。

 重要なのは、アレイティア公爵の覚悟と相対するだけの意思だ。なんとしてでも、ティキを取り返す。その時、ぶつかり合うのはティレイヌの『もう止められない』という覚悟。それを越えるだけの望みが、シーヌにあるのか。


 目を瞑る。こうすればいつも、『一人だけ生き残ってしまった』後悔が止めどなく襲いかかってきていた。


 じっと、待つ。襲いかかってくるモノは、まだ、ある。しかし、かつてほど重くは、ない。


 思い出す。あの日、楽しかったこと。嬉しかったこと。幸せだったこと。ライバルだったアデク、好きだったシャルロット、友達だったビネル。

 ただ一人で生き残ってしまった。その考え自体は、変わらない。でも、復讐は成し遂げた。ならば、シーヌは自分を許さなければならない。


 思い返す。あの日、アデクは自分に何を言い残したのか。あれは、アデクだけの意思だったのか。

「生きろ。幸せに、なれ。」

あれは。アデクが口にしただけで、きっと、彼だけの言葉ではない。


 シャルロットの家族の言葉を思い出す。シャルもビネルもまだ生きていて、僕らを逃がすために戦って。

「みんなで、生きてね。」

シャルの母がそう言った。今、ここにみんなはいないが……生きて、いる。

「ティキと、生きる。」

ティキと、共に。ティキの、夫として。


 あの日に失った幸せだった。もしかしたら、二度と得られないかもしれない、幸せだった。

 思い返せば。ティキと結婚して、ティキの面倒を見ているときから、シーヌは復讐以外のことも見るようになっていた。見なければならなかった。


「ティキがいなければ、死んでいた。」

あの、ただ一人生き残ってしまったという想いは、呪いだ。生きる理由がなければ、シーヌは「生きろ」という望みを忘れて果てていた。


「僕にとって、ティキは、生きる理由だ。……うん。そう。生きる、理由だ。」

取り返さなければならない。彼女を幸せにしなければならない。なぜなら、ティキはシーヌを幸せにしたし、生き延びさせたし、何より、目的を果たさせたのだから。

「曖昧な理由だな、ほんと。」

だが、それでいいと、僕は思う。元々、願いなんてあやふやなもので、曖昧なもので。


 でも。果たそうという意思があれば、それでいいのだ。

「学園都市ブロッセへ。……いや、その前に、セーゲルか。」

ティキを父親から拉致する覚悟を、シーヌは決めた。

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