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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
眷属の公爵家
273/314

セーゲルの狂乱

 セーゲルの陣営は、静寂が支配していた。

 冒険者組合が隠匿してきた世界の秘密。神龍と『竜の因子』。そして、それが示してきた、これまでの歴史。

 実のところ。冒険者組合と聖人会は、バグーリダとキャッツが結婚したことによって冷戦状態に移行していただけで、ほとんど敵対関係に当たる。


 冒険者組合の信条は、『自由』と、『強者による特権』である。

 対する聖人会は、『平等』と『弱者に対する奉仕』である。


 英雄と聖人の違いは、その程度でしかない。強者と聖者の違いはその程度でしかない。

 英雄は己のために偉業を為すもののことを言う。聖人は他者のために偉業を為すもののことを言う。

 ゆえに、聖人会と冒険者組合は反発し合ってきた。


 強者で集い、弱者を排するのが冒険者組合のやり方だ。弱者で集い、強者に対抗するのが聖人会だ。

 そんな敵対関係にある冒険者組合が、最も肝心なところで、弱者に対する最大の、そして最後の砦であったことなど、聖人会としてはあまり認めたくないことであった。


 それ以上に。

「ルックワーツの超兵は、竜の血を飲んで超人化していた……竜に近い身体を持った敵と戦い続けてきたのか、それは確かに、勝てないわけだ。」

ガセアルートが吐き捨てるように言う。問題はそこではないな、とチェガはぼやいた。

「竜の血を飲めば、人間以上の力を手に出来る、ということが問題だ。……だから冒険者組合は竜の血を高値で設定しているのか。」

上層部に、『竜の因子』保有者がいる。竜の因子は、摂取させてはいけない。管理できない因子保有者を増やしたくはない。そういうことだろう。だから、監禁するだけで数年は生きられるほどの高値で売買されるのだ。


「多分。それだけじゃない。」

シーヌが呟く。それに、ワデシャが「他に何かあると?」と反応を返した。

「『竜の因子』を摂取すれば、体は超人のようになる。飲めば飲むだけ、強くなれるかもしれない。なぜなら、竜の因子を摂取するということは、竜の因子を体内で増やすということだからだ。」

その言葉の意味を、聖人会たちは必死に噛みしめ、頭を傾げ。


 最初に気付いたのは、カレスだった。

「まさか、飲めばどんどん強くなるのか?」

「そう。だけど、冒険者組合の歴史を考えるとそうではない。多分、売り払われた竜の血は、五神大公家に流れている。」

代を追うごとに、“因子遺伝”によって竜の因子は受け継がれる。だが、完全ではない。

 すべての竜の因子が子に受け継がれるのであれば、親は子を産んだ時点で竜の因子を保有していないことになる。これが人間なら何もおかしいことはないだろうが、竜なら別。


 竜の親は、竜でないことに、なる。


「そんなわけがない。おそらく、子が親から受け継ぐ因子は半分かそれ以下だ。二人目の子供は、一人目と比べてももっと少ない竜の因子しか遺伝されないことになる……親が死ねば、それだけで、人間の所有する竜の因子が一気に減る。」

例えば、アレイティアの長男、ビレッド=ファムーア・アレイティアが、現当主ティレイヌ=ファムーア=アツーア・アレイティアよりもはるかに優れた人間であり、はるかに多くの『竜の因子』を保有していたのと同じように。

 長子と次子では、生まれた瞬間の肉体の強度が違う。竜の因子が違う。基礎的な能力が違う。……才能が、天と地ほどの差が出る。最初から肉体が高ければ、一度に吸合出来る竜の因子の数も多い。


 最近急激に竜の数が増えているという話も聞く。おそらく、『竜の因子』が人の手を離れ始めている。


 二千年という時は、長い。その間これだけの事実を抱え、存続させてきた冒険者組合も、恐ろしい。

「もしかしたら聖人会は、冒険者組合から枝分かれした組織なのかもしれないな。」

代を経て。化け物への抑止力として強者を固め続ける必要のあった冒険者組合は、結果として弱者への配慮を失った。

 それを危機に感じた一部が、冒険者組合から離反、聖人会を組織した。


 あり得そうな話だ、とシーヌは思う。軽く息を吐いて……

「問題はそこじゃない。ティキを取り戻す方法が欲しい。」

同時に、それが叶いそうにない願いであることも理解している。ティキを取り戻す、口にすればそれだけのことだが、すなわちそれはアレイティア公爵家に喧嘩を売るのと変わらない。

「そう言えば、なんだが、シーヌ。」

チェガが呟いた。

「アスハさんが、アゲーティル=グラウ=スティーティアの兄を頼れ、と。」

なぜかはわからない、とチェガのボヤキに、しかし反応したのはデリアだった。

「アゲーティルの兄?ジャッケル=グラウ=デハーニ?」

彼はアゲーティルと共に活動していた期間が長い。アゲーティルの身内話を聞くこともあったのだろう。

「ジャッケル=グラウ=デハーニ?」

その名前に反応したのは、エスティナだった。今は既に引退した身なれど、それ以前の情報は持っている。

「“学院長”か。学園都市ブロッセを治める魔法士だ。」

「学園都市?」

デイニール魔法技術学校。リュット学園。名だたる学校が集う、学園都市のボス。


 学園都市ブロッセ、商業都市マニエル、工業都市ミッセンといえば冒険者組合が直轄する都市の名前で。

 そこでようやく、シーヌは冒険者組合のもう一つの目的に、行きついた。

「魔法の行使者の制限……?」

正確には、“奇跡”能力者の管理と調整。それが、冒険者組合のもう一つの目的だ。

「え?魔法の行使者の制限?」

ワデシャが驚いたようにシーヌを見る。聖人会が揃って、何言っているのだという様に彼を見つめた。

「惑星衝突。これが、『心の摂理』の人間の手によるものならば、それが出来そうな力を持つ人間は排除しなければいけません。」

あるいは、それが出来そうな人間に過去の悪行を伝え、決して同じことを起こさせないようにする必要がある。

「強者を集める。それは、強者を管理するということにも、繋がるのではないでしょうか?」

ふと思いついただけで、信憑性はない。そして、これは本題とは全く関係ない。


「話が逸れました。なぜ学園都市のトップを頼れだったのかという話ですが……多分、五神大公が関係します。」

先ほどの資料の、次のページ。学園都市ブロッセを建設した人物の家柄が、載っている。

「“自然呼応”のムリカム公爵家。彼らが学園都市ブロッセの建設を主導しています。おそらくですが……実務は“学院長”に任せていたとしても、実権を手放したとは思えません。」

シーヌの発言。それを、その場にいた全人物が首肯した。


 工業都市ミッセンは、“超常肉体”のワムクレシアが。商業都市マニエルは、“洗脳話術”バデルが建立に手を出している。

「“超常肉体”は、“次元越え”を助けなかったのか?」

デリアが首を傾げる。自分の都市の治政を一手に引き受ける者を、助けてもよかったのではないかという発言に、チェガは軽く首を振った。

「まず、ワムクレシアの家系が知ったとして、アスハさんを助けに行くには間に合わなかった。第二に、ワムクレシアの介入を考えるとき、アレイティアとワムクレシアの全面戦争という形になる。一つの『五神大公』が潰れる可能性と、アスハさんの首一つ……どちらが人類のためだと思う?」

デリアは、いや、その場にいる面々全てが、口を噤む。事実は事実として、しかし、ワムクレシアがアスハを助けていれば、それだけでセーゲルにとっては大きな助けであったのは事実だ。


「最後に。ワムクレシアがティキのことを知っていたとしたら?」

ティキは現状、最もアレイティアの力を示しているアレイティアだ。そして、ワムクレシアは五神大公。当然、神龍討伐とその前後の話を知っている。

「ワムクレシアは、ティキとアレイティアの次代公爵との子を望むだろう。介入する理由がない。」

シーヌは黙った。自分の妻と自分以外の男の子どもの話をされている。内心苛立っている自分に、シーヌが一番驚いている。


 それはそれとして、アレイティア公爵、いや、その息子は何をしてでも殺そうとシーヌは思った。

「では、なぜ、ジャッケル殿を頼れと彼は言っていたのですか?」

最後の、問題。ジャッケルを頼る、ということは、敵がアレイティアである以上、おそらくはムリカムを頼るということだろう。なぜなのか、わからない。

「“洗脳話術”バデルはおそらく明確に敵になる。彼らは、アレイティアと同じように子を産ませるための道具として、“洗脳の聖女”ユミル=ファリナを見ていた。僕が彼女を殺した以上、バデルは僕らの敵だ。」

そして、おそらくはセーゲルも敵視されている。手が出されていないのは、おそらくセーゲルがネスティア王国の庇護下に入ったからだ。


 神龍討伐の時の戦士であったネスティアの末裔に、五神大公は積極的な関与が出来ない。ルックワーツが放置されていたように、ネスティアが対処するのをじっと待っていたように。

 五神大公は、セーゲルが明確に五神大公と敵対するまで、セーゲルに手出しは出来ない。

「他の五家も、アレイティアと戦争になるなら僕らを消す方がいいはず。……どうして、ムリカムは違うというような遺言をしたのだろう?」

それが、何か、わからない。


 だが。どうすればわかるかを、シーヌは知っていた。

「残りの資料を、読むよ。」

それは。“自在の魔女”に関する資料。セーゲルにおいて“救地の聖女”と呼ばれた、蒼の魔女の。

 ティーネ=オルティリアの、資料だった。


これでピオーネとマルスの才能の違いは明文化出来たと思います。わかるでしょうか?


感想、ブクマ等いただけると嬉しいです。

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