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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
眷属の公爵家
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神龍の生誕

 大気圏同士がぶつかりあった。互いの境界同士から、とんでもない熱を放出し合っている。

 熱い、熱い。“超常肉体”であった我は、その熱を真っ向から受けて、悲鳴を上げた。皮膚がチリチリと焼けて、焦げていく。だが、すぐに体は熱に慣れる。

 竜の肉体は異常だ。どんなにおかしい状況にも、すぐに順応していく様は、自分の体というのに戦慄を禁じえない。


 元より、上位の龍も、下位の竜から熾烈な生存競争を切り抜け、発情期に何もしないという苦行を成し遂げながら進化を続けた個体に過ぎず、竜生の大半は中位以下の竜の生を生きている。


 下位の竜はすぐに燃え尽き、消えた。灰になって、宙を舞う。

 中位の竜は、まるで足掻くかのようにブレスを吐き出し、それを最後に力尽きて灰になる。


 惑星の衝突。それがもたらす熱は、いくら生命としてはおかしいくらいの強度を誇る竜と雖も、生き残ることを許さない。

「これほどか。」

熱が強まる。嵐が吹き荒れる。上からの重力と下からの重力で、体が変に跳ねまわりそうになる。


 耐えていられるのが、龍だけになった。竜たちは悉く、その身を灰に返し、竜の因子をばらまいている。

「う、ぐ。」

大量に竜が死んだからだろう。その竜の因子たちが、肉体に、この身に入り込んでくる。


 あぁ。下位の龍たちの多くが、中位の龍に変わった。だが、彼らもこの状況では手放しでは喜べまい、と思う。

 竜たちがどれほど進化しようとも、この状況は変わらない。この状況が危険であるという事実は、生き残れる可能性がとても低いという事実は、全く何も変わらない。


 だが。敵に対する攻撃威力は、大いに増した。あちらの敵も、攻撃してくる数が減って、質が上がっている。

 我慢比べだ、龍が勝つか、人が勝つか。

「“眷属作成”!敵惑星の生命はこの距離でも眷属化出来ないか!」

「いや、出来ている!惑星同士の境界が消えたことで、互いの摂理が通用するようになっておる!!」

だが、と龍は続けた。

「奴ら、獣どもの攻撃に欠片も反応を示さぬ。なんとしてでもこちらを討とうと躍起になっておる。」

もう時間はない。一矢報いようとする動きは、互いに同じようだった。

「“洗脳話術”!」

「やつら、裏切り者に対する容赦が欠片もない!数減らしがせいぜいじゃ!」

「十分だ!」


 この場合。はっきりと足手まといだとわかっているのは、“超常肉体”たる我だけだった。他は攻撃手段を持っている。“洗脳話術”、“自然呼応”、“地殻変動”、“眷属作成”。いずれもがそれぞれの力を用いて、敵に一矢与えんと、龍たる矜持を見せんと奮起している。

 だが。“超常肉体”に出来るのは、ただ、上位の龍が放てる息吹を、何百回と撃つだけ。撃ち続けることだけ。


 “自然呼応”が熱波を敵に送る。衝突時に放たれる巨大な熱波は、“自然呼応”の指示に従い、竜たちに軽減されて届いている。いくら上位の龍といえども、完全に消すことは叶わないらしい。

 “地殻変動”が大きな声で吠えた。ほんの数瞬、敵の攻撃が止み、また再始動する。

「地震にも揺らがずか……」

惑星が、完全に衝突するまであと半日を切った。下位の龍たちもその身体を塵と変え、どんどんと肉体のなかに『竜の因子』が入り込んでくる感覚がする。


 大地に亀裂が入った。そこから、天まで、敵惑星まで届くような溶岩が噴き上がる。

「“超常肉体”よ。」

それを為した“地殻変動”の身が、削れている。我にはない、とんでもない火傷の跡。疲労の色。

「我は、もう逝く。我らなき世を、よろしく頼む。」

意味を、理解していた。理解したくなかったが、“超常肉体”の肉体は、これからどうなっていくのかを鮮烈に、全ての龍に見せていた。


 惑星が落ちる。放たれる熱波は時間を負うごとに熱くなり、強くなり、多くなる。

 惑星が、近づく。敵の攻撃が、近くなる。徐々に、敵の攻撃に被弾する仲間が増えていく。

 惑星が、二つある。重力が代わる代わるに身にかかり、体に少しずつ負荷がかかる。

「『敵』は、怖い。我らが龍の身でも辛いと思うことを、耐えて、反撃までしてのけている。」

恐るべきことだ、と龍たちは告げた。視界に映る敵達の姿は、とても小さい。それらが龍たちを追い詰めたなど、どんな冗談だと言いたくなる。


 だからこそ。我以外の上位の龍たちは、告げた。もう、中位の龍すら蒸発を始め、敵の攻撃もほとんどなくなっているなかで。

 死に行く龍たちは、悲壮な顔で、言ったのだ。

「この星を、全ての生命を。託した。」

と。




 上位の龍が溶けていく。我の身もまた、削られていく。

 “超常肉体”たるこの身は、蒸発する端から回復していく。絶えず、痛みがこの身を焼く。だが、再生が焼却よりも遅くなることは、ない。


 “因子還元”の性質を持つ我は、他の龍が死ねば、その因子を肉体に取り込む。それは、焼かれ、再生する間も竜としての強度が増している証明。


 羽ばたいた。もう、惑星同士が衝突する。どれだけの破壊が行われるか、この身には理解できず、だが、わかっていることがあった。

 全ての上位の龍が、死んだこと。“超常肉体”であるこの身に、全ての竜の因子が集ったこと。

 全ての竜の望みが、惑星の存亡と竜の存亡が、全てこの身に託されたこと。……それを、理解していて。


 惑星が衝突し、砕けて混じり合い、再び一つの星となるまで。ずっと、空を羽ばたき続けていた。




「かくて我は、神龍となった。」

神龍はポツリと呟く。“超常肉体”の上位の龍であった彼は、その身を不死の龍へと変貌させた。

「『竜の因子』を全て得たこの身は、惑星への干渉権を得た。環境、竜の因子のルールの変更。神龍のみが、それを行うことができた。」

その権利をもって、世界の環境を、きちんと生命が居住できるように変化させた、という。


 戦士たちは呆然と、その言葉を聞いていた。神龍が、ただ強いだけではないと思っていたが、惑星の環境を整えられるほどだったとは、知らなかった。

 ある意味、人間の生存環境を作ったのは、彼だと言える。

「同時に、我はこの惑星の干渉が不完全なことを悟っていた。二つの惑星がぶつかり合って出来たこの惑星は、二つの摂理を内包する。神龍は『竜の摂理』において神であっても、『心の摂理』において神ではなかった。」


なぜか生まれ始めた、人間という種。時々獣たちが使う、摂理の異なる戦闘方法。

「おそらく。敵は死の間際、願ったのだろう。人類の存続、種の再興を。そして、それはどういう理屈か、進化の過程で人類が生まれることで果たされた。」

“奇跡”と神龍は語り。

「この惑星において、我が役目は終えた。だが、覚えておくといい。この世にいる、我が産み出しし竜種。我亡き後、再び彼らを殺し尽くすことがあれば、再び神龍の誕生を許すことになるだろう。」

神龍は最後にニッと笑って。


「人類よ、戦士たちよ。見事であった。」

息絶えた。

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