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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
眷属の公爵家
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惑星衝突

 竜の摂理の世は、平穏無事に回っていた。

 時折中位の龍同士の争いがあり、時折上位の龍が寿命を迎える。

 惑星に傷がつくことを恐れ、上位の龍同士は争わない。上位の龍同士ではなく、配下にしたそれ以下の竜達が争い合うし、その争いも滅多なことでは起こらない。


 この龍の惑星の治政はうまく行っていた方だと思う。争う価値がなければ、何者もあらそいあうことはなく、惑星の気候も龍ならば好きに弄れる。

 何十、何百万年の期間、竜の世は回り、世代交代を繰り返し。

「“眷属作成”の龍よ。やはりあの星は、我らの星へと参るのか?」

「であろう。日に日に近づいておるのがわかる。我らの摂理は星の上では通じるものの、星の外では通じぬゆえ、逸れていくことを望むしかない。」

私は七頭の上位の龍と語り、宙を見上げる。


 星が、近づいてきていた。

 何かしらの失敗をしたのだろう。よほど何かがない限り、惑星は移動することがない。小惑星以下の星ならば、恒星の動き次第で移動するかもしれないが、あれは明らかに命が育まれている星だ。

「我ら龍が決して犯さぬ星への侵犯。それを起こした命があるのであろう。」




 神龍の話を聞く戦士達が呻く。神龍は、『心の摂理と竜の摂理が混在する星』と言った。なら、その、竜の摂理の星に降ってきた星が何なのか、誰でもわかる。

「それが、……『心の摂理』の惑星か?」

誰かが問う。それに対して龍は、その通りというように大きく頷きを返す。

「そう。それが、『心の摂理』……人間達の住む惑星だった。」




 見上げると、鉄で出来た家があった。

 上位の龍が全力で視ることに力を入れれば、星の移動を止めようと、進む反対側へと星を追い返す人々の姿があった。

 進行方向にある小さな塵を吹き飛ばし、破壊し、自星にダメージがいかないようにしながらも、必死に食い止めようと頑張っている。


 だが。彼らはある種、とんでもなく傲慢で厚顔無恥だ。

「やはりか?」

「うむ、“超常肉体”よ、奴らは我らの星も吹き飛ばすつもりでおるらしい。」

いくつかの力の塊が、こちらへと飛んでくるのが見えていた。それを、竜たちが息吹で迎撃し、撃ち落とし、相殺している。


 竜の摂理は惑星外へ影響を及ぼす方法を持たない。自前のブレス以外は、原則として惑星ないでのみ発動する。例外はない。


 あるいは、『心の摂理』もそうだったのだろう。だが、その『摂理』の支配者たちは原則を逃れる方法でも見つけたのだろう。

 上位の龍たちはその方法を望まなかった。竜の因子を全て得れば、あるいは叶うかもしれない……それすら理解していながら、我々は惑星の摂理に従う道を選んでいた。

「生命の身に摂理の全ては重すぎる。理解しなかった奴等が悪い。」

徹底抗戦の覚悟。星の竜たちは空を見上げ、惑星からの攻撃をただひたすらに迎撃する。


「星を移動し、逃げないのですか?」

数頭の龍が尋ねた。だが、私たちは首を振った。

「今から星の軌道を変えるわけにはいかぬ。あの星とぶつからないように星を動かせば、この星が壊れる恐れがある。」

物理的にも、環境的にも、そして摂理的にも。竜の摂理は、ここが竜の星であるゆえに動く摂理だ。


 惑星の座標を変える。あるいは、それは唯一惑星を救う手段なのかもしれない。

 しかし、竜を救う手段ではない。むしろ、竜を滅ぼす手段になりかねないのだ。


 我々は『心の摂理』の惑星の攻撃を迎撃していた。すべての竜が交替で、休みながらもずっと。

 ゆえに、気がつくのも早かった。……『心の摂理』の惑星に住む生命が、攻撃の頻度を上げたことに。

「おい、“自然呼応”の炎龍よ!あちらはなぜ、自力で回避を選ばないのだ!」

『心の摂理』の生命体は、いくらなんでも抗戦されたら手を変えると思っていた。軌道修正に全力を尽くすと思っていたのだ。


 だが、結果は違った。迎撃される以上の攻撃を用意し、徹底的にこちらの惑星の破壊を狙ってきている。他惑星の生命体など、犠牲になるべきとでもいうかのような行動だ。

「“洗脳話術”。」

「いや、惑星は越えられぬ。奴等に命令は出来ぬ。」

「……そうか。」

竜たちの迎撃が激しくなる。それに合わせるように、『心の摂理』の住民達も火力を上げる。


 もう、敵として相対するしかないだろう。出来たら平穏に終わらせたかった、と私が呟く。

「そうだな、“超常肉体”。……だが、我らも生きねばならぬ。」

そう言って、“地殻変動”の雷龍は上空を見上げ、息吹を吐く。これまで敵の星を傷つけないようにしていた我々の、攻撃の狼煙が上がった。




 敵の惑星は賢い。反撃開始数日で、竜たちはそれを実感することになった。

 惑星はものすごい勢いで進んでいる。惑星が壊れるか、あるいは環境変動が大きいか、どちほかになっていておかしくない。


 だが、反撃した息吹が悉く防がれた。おそらく、惑星全体に防御系の力が使われている。こちらの攻撃は、上位の龍の力でなければ届かない。

「……覚悟を決めた方がよいな。」

惑星同士がぶつかるとわかった時から、覚悟だけはしていた。だが、希望はあると信じていた。


 完全に無駄になるとは、全く、欠片も思っていなかったわけで……

「全竜たちよ。希望を捨てるな。」

全く信じていないことを口にしつつ、流星を眺める。

 惑星が星にぶつかる。何かの冗談としか思えないような現象を前に、龍といえど希望を抱き続けることは叶わない。


 『敵』の攻撃密度が増した。心なしか、こちらへ向けた移動速度も上がっている。

「むぅ。減速を諦めてでも我らを排せんとするか。」

“眷族作成”の龍が唸る。もう、惑星は全ての竜達の肉眼で見えるほどまで迫り、どちらの攻撃も互いの惑星に被害を大きく与えている。


「……さらばだ、皆の者。」

次の瞬間、互いの大気圏が衝突し、尋常でない衝撃を撒き散らした。




「まさか、……それが?」

「あぁ。『心の摂理』の惑星に住んでいた人間たちは、己らが生きるために他を犠牲にする行為を、一瞬たりとも躊躇わなかった。」

それが、生命の基本理念であることを、平和な世界で生き続けた龍たちは忘れていて、ゆえに、判断を間違えた。


「自分が生きるために他は犠牲になるべきだ……それは絶対的に正しい。惜しむらくは、相手が我々龍であったこと……龍を相手には人では勝てなかったことだ。」

あるいは同じ土俵の上なら。『竜の摂理』と『心の摂理』が同じ惑星の同じ戦場で合間見えていたら、話は別だったかもしれない。

「今この瞬間、『竜の摂理』のほとんど全てを得た神龍を相手にそなたらが勝利を得ているように……。」

そう、微かに笑んだ神龍は。


「大気圏同士が衝突した時点で、我ら竜の惑星もそなたら人の惑星も、もう終わりが決まっていて、我々も死を覚悟した。」

急に真剣な口調に切り替わり、その上でそう笑うと。

「我は。生き残った。」

竜の摂理で唯一かもしれない神龍は、重々しくそう告げた。

先の『昔日の神龍』を理解していれば何が起きたのか、もうわかると思います。

次話『神龍の生誕』で神龍との争いは終わりです。

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