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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
眷属の公爵家
269/314

昔日の神龍

  必死に戦っていた。

 全ての人間が一様に、神龍の心臓へと一撃を届かせんと、決死の覚悟で三日三晩戦った。

 もう何人かは脱落している。その躯も、戦いの余波で既に潰れ、誰の目にも映らない。

「見事だ、人間たちよ。」

疲れ切って、戦う術を失って、戦士たち皆が膝を付いた時。瀕死の神龍が言葉を紡いだ。

「我が生れ落ちて幾星霜。死ぬことが出来る日を今か今かと待っていた。ようやく叶ったこと、嬉しく思う。」

龍が言う。いずれ死にたいと願いながらも、決して死にはしなかった龍に、誰かが問うた。

「ではなぜ、死んでいない?」

「死ねなかったからだ。……ふむ。そうか。話したことはなかったか。」

龍は死相を浮かべながらも、空を見上げる。


「この世の王となるだろう貴様らに、真実を述べてやろう。……そうだな、例えば。この惑星は、二つの世界の摂理を持っている。龍の摂理と、心の摂理だ。」

魔女が身を乗り出したのが、遠くに見えた。満身創痍の彼女ではあるが、ベリンディスやケルシュトイル、ムリカムなどのように体の一部が欠損しているわけではない。

「この世界は二つの世界が破滅して出来た世界だ。人の世と龍の世、二つがあった。」

人の世がどういうものだったかは知らない、と神龍は語る。だが、予想できることもまた多くある、と。


 龍の世には、龍の理がある。龍の理の全ては、竜の因子によって語られる理だ。

「当時、神龍という概念は未だなく、下位の竜から上位の竜、下位の龍から上位の龍で世界の序列が語られていた。人間よ、龍の序列がどのようにして決まるか知っておるか?」

誰も知らない。この世には神龍以外の竜はほとんどいないだろうから、知っている方が珍しいだろう。


 だが、全てを語る上で、龍の摂理は全く無視することのできない、非常に重要な摂理だ。神龍はそう前置いて、言った。

「龍の摂理とは、その全てが竜の因子に集約される。竜の因子とは、全ての竜に属する生物の血の中に流れているものだ。」

そして、その数は上限がある。

「誰もその総数は知らない。だが、上位の龍は中位の龍にして5頭分相当、下位の龍にして25頭分相当、上位の竜にして125頭分相当、中位の竜にして625頭分相当……と、それだけの竜の因子を身に備えていることは知っていた。」

そして、世界に今以上の竜の因子が増えることはなく、減ることもなく。竜が生命の上位に立ち、人間もいなかった世界は、非常に平和に運営されていたのだと神龍は語る。


「竜の因子は、所有者たちに十の属性を与えていた。」


全ての言語を解させる、“言語理解”。

肉体に自然属性を付与する“自然付与”。

死ねば竜の因子が撒かれ、生きとし生ける因子保有者に吸収される“因子還元”。

竜の因子保有者を討伐した際、討伐者が因子保有者だった時に討伐された保有者の因子の半分を吸収する、“因子吸合”。

子を為す際、母体の因子から半分が子に移る“因子遺伝”。

下位の因子保有者、因子未保有者への絶対心酔命令である“洗脳話術”。

因子未保有者、下位存在の部下へと行える上下関係の構成として、“眷属作成”。

竜の因子保有者への、大気の祝福。天候変更や大気の移動を意のままに行う、“自然呼応”。

生命を超越した再生力と頑強さを与える、“超常肉体”。

そして、惑星が保有者の命を聞き、自然現象を引き起こす、“地殻変動”。


「これが、竜の因子が持つ効果であり……うち五つは、竜の特性として現れていた。」

最初の五つは、竜、龍の全てが保有する力。後の五つは、全ての竜、龍が成長の過程として顕現する力。それが、龍の摂理の世界の、ルールであった。




「なぜ、そんな、話をする?」

アレイティアが問う。アレイティアの問いに、神龍は笑みを深く刻みながら告げた。

「我の死後、我の身に宿った竜の因子は中空へ消え、竜が数多生まれることになる。その竜の数は、我の死後、そなたらが管理せねばならない……竜の因子が、上位の龍五体相当分、一頭に集わせてはならない。」

「なぜだ?」

誰かが問う。その誰か、ではなく、その場に集った全ての人間に向けて、神龍は答えた。

「上位の龍五体相当の竜の因子の所持、それが、生物が神龍の力……全ての竜の因子の力を使いこなすための条件だからだ。」

人の世を維持するためには、知っておくべきことだ。少なくとも、これほどの猛威を振るう化け物を再び生み落としたくなければ、と言った。


 そんな中、魔女が顔を上げて言う。龍の摂理がそれならば、心の摂理とは何なのか、と。

「知らぬ。心の摂理と呼ぶべきものがあると知っているだけだ。そなたらの得た魔法が、心の摂理と呼ぶものだ。」

竜の摂理にはない、願いを現象として引き起こす技術体系。それは、心の摂理と呼ぶべきだと考えただけだと神龍は語る。


「なぜ、知らないのですか?あなたは神龍と呼ばれ、何万年もの時を生きてきた最強の龍のはずだ。」

そう言われて、龍は大きな目をめいいっぱいに細めた。

「そうだ。私は最も長く生きてきた。ゆえに、私は、私の世界が滅びるときも、この目で見ていた。」

世界が、滅びた。それを見たと、神龍は言う。


 おかしい、と誰もが思った。世界が滅びるならば、生命などほとんどいなくなるはずだ。これほど強大で、それに見合った背丈を持つ龍が生存できるなら。

「世界が滅びれば、あなたも死んでいるはずなのでは?」

「いいや、生きていた。私は、世界が滅び、再構成が果たされるまで、生き続けていたのだ。そして、竜の摂理の世界にはいなかった、人間が生まれるのを見ていた。」

心の摂理。それは、竜の摂理にはなかった、人間たちの摂理ではないかと神龍は語る。


「教えてほしいことがある、神龍よ。」

魔女が顔を上げた。

「そなたたちが生きてきた、竜の摂理の世。なぜ、どのようにして滅んだのだ?」




 ティキは椅子に座り、じっとアレイティア公爵の言葉を聞いていた。

「五神大公の力は、竜の摂理の力なのですね?」

「あぁ。心の摂理の力ではなく……後で語ろう。もう少し待て。」

心の摂理について語る前に、神龍について語り切っておきたいらしい。

「どうしてです?」

「私がティキにこだわる理由は、竜の摂理の十の属性、その前半部分……遺伝にある。だが、ティキにこだわる必要がある根本的な理由は、神龍の脅威なしには語れない。」

公爵は目を瞑り、ググっと力を入れるように深呼吸した。


 この部屋には誰もいない。ティキと、アレイティア公爵のみである。

 次代公爵も、“単国の猛虎”も。あらゆる生物が排され、アレイティア公爵の眷属だけが彼を守るように座っていて。


 ティキは素直に、続きを促した。




 目が覚めたシーヌは、アスハの残した手紙を読み進めていた。ティキを奪った男が、シーヌの殺し損ねたドラッド=ファーベである可能性が高いことを聞いて、アレイティアとの関連性が高まった。

 そんな中で、義父からの、『アレイティアに関する書類』を渡されると、読み進めるしかない。


 だが、中に入っているのは、神龍との交戦記録、及び対話内容だ。

「まだ資料の四分の一にも達さないんだけど。」

「あぁ……多いよな。」

チェガと呆れたように息を吐く。だが、アレイティアやムリカムと言った言葉が出てきている以上、完全に無関係と切り捨てるわけにはいかない。

「五神大公の起源、か?」

そう言うとシーヌは、再び資料へと目を落とした。


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