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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
復讐の傭兵
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アスハの死

 エスティナとチェガが門をくぐったのを確認した後、アスハはその門を閉じた。

 目を瞑る。この扉を開ければ、アスハは死地へと赴くことになる。そうと知っていてなお、アスハはこれをくぐらなければならない。工業都市ミッセンは己の都市だ。誰かに蹂躙されて放置することは許せない。

「……そうではないか、とは思っていたが。」

アスハが屋敷を出た瞬間、感じていた違和感が一気に現実のものとなった。上から見えていた光景が、目の前にはない。ただ平常通りの光景にしか、見えていない。


 それは即ち、“単国”の三人がここに来ていたわけではないということ。だが、“単国”の三人が、アスハの目には見えていた。

「お前が、来ていたのか。」

“単国”の名を冠する三人の魔法の規模を、アスハは、非常に精密な次元で、幻覚として見せられていた。そうでなければ、館の中から見た光景と外で見た光景が全く違う理由が説明できない。


 冒険者組合、第八位。上位十人の内、二つはほとんど完全に名誉職と化している中、実力で上位に食い込んだ男。

 それが、アスハの目の前にいる男だった。


「お前は、アレイティアの派閥だったな。」

「うむ、そうである。ゆえに、我が貴様に引導を渡しにやってきたのだ。」

「“単国”三人ではないのか。」

「馬鹿を言うでない。奴らではミッセンは跡形もなくなってしまうのである。それは、冒険者組合の望むところではない!」

蹂躙され、燃やし尽くされるミッセンという幻覚を見せた男が言う。所業を考えれば何を言っているかわからないセリフでも、この男が言うと説得力が違うとアスハは笑う。

「街一つ騙せるような幻覚を見せられるのはお前くらいだろうよ、“災禍の具現”。」

「うむ。そこまでせねば、貴様は戦おうとは思うまい?」

確かに、周囲に被害が及ぶと思わなかったら、逃げの一手を選んでもよかったか、……とは思わない。


 自分はアレイティアに目をつけられた。何がどうひっくり返っても、死ぬ事実には代わりなく。

「戦うしか選択肢はなかろうよ。」

「……で、あるな。逃げたところで、お前をおびき寄せるために周囲がダメージを受ける。」

“転移”はアスハとシーヌしか使えない権能だ。一度“転移”を使えば、アスハを捕らえることは誰にも出来ず……しかし、ミッセンや、アスハと親しい個人を使うことでいくらでもおびき寄せられる。

「“災禍の具現”。……場所を移すか。」

「うむ、構わぬ。被害を撒き散らすわけにはいかぬ」

アスハが門を開き、その中を“災禍の具現”が潜り抜ける。微塵もアスハが変心しないと信じている動き。それを見て、アスハも心を決める。


「……はぁ。」

そして、二人は、何もない荒野へと跳んだ。




 “次元越えのアスハ”の操る“転移”の魔法には、致命的な欠点が2つある。

 一つは、魔法の発動速度……を前提とした、全ての行動において、門をくぐらなければならない……いや、門を作らなければならないという制約だ。


 例えば。攻撃魔法と、それを阻む防御魔法があったとして。

 防御魔法が発動する前に攻撃魔法が当たってしまえば、その防御魔法に価値はない。


 同様に、逃げの一手のための転移、攻撃のための転移、防御のための転移。

 ありとあらゆるすべての転移魔法の使用に関して、『発動する前に殺してしまえば』それは脅威となりえない。

 “次元越え”アスハ=ミネル=ニーバスが魔法を発動するためにかかる時間は、おおよそ0.1秒。


 シーヌが天然の魔法を発動するまでにかかる時間が0.2秒、“有用複製”による魔法の発動に0.5秒、学習、模倣した魔法の発動にかかる時間が約1.2秒ほど。

 破格と呼ぶべき魔法の発動速度ではある、が。それはシーヌやティキを含む、ほんの低層に位置する強者たちと比較してであり。


 冒険者組合の中では、0.1秒も魔法発動に時間をかけるというのは、遅すぎに該当する速度である。


 そしてもう一つは、“転移”の門の開門限界。大きな門を開くことは出来ない。

 頑張って広げて、大の大人二人が横並びで通れる程度の大きさ。おれが、アスハの“転移”の限界であり……アスハは極めて、範囲攻撃に弱いと言える。


 対して、“災禍の具現”グレー=キャンベラ=アルス。こっちの能力は範囲攻撃の権化と呼べるものである。


 世界に元々存在する、『五神大公』が一、“自然呼応”のムリカム家。彼らと限りなく似通った能力を、この男は使うのだ。


 大嵐が吹き荒れ始める。先ほどまでは晴天だったにも関わらず、次の瞬間には台風が直撃しているような惨状が訪れる。

「はじめようか、アスハ。」

「……あぁ、始めようか、グレー。」

“災禍の具現”。ムリカム家が自然現象を従える一家だというならば、彼はその逆を行く。


 彼は、ありとあらゆる自然現象を、想像だけで再現してのける天才だ。そして、その動機はただ一つ。“自然呼応”ムリカムの、血族で遺伝されていく超能力。および“地殻変動”オーバスの、ムリカム同様遺伝相続の超能力。


 それを超えてのけること、そしてそのためにも、彼は常に、ムリカムとオーバスの敵として動く。




 降り注いできた落雷を、“転移”によってグレーの真上に落とし返した。それをされそうで、かつ阻むことが間に合わないと感じたグレーは、即座に落雷をキャンセル、暴風が吹き荒れる遅滞を一気に溶岩地帯へと作り替える。

「っ!」

魔法の変更を決め、具現化するまで、おおよそ0.03秒。本気を出してすらいない鈍速で、しかしアスハの脚は焦げる。

「お前の“転移”と知性の才能は認めているのである。だが、魔法の特異性や人間としての特異性がいくらあったところで、純粋な技術の前では役にたたないのだ。……あの日の忠告を聞いていれば、今こうなることもなかったであろうに。」


 “災禍の具現”。冒険者組合第八位に属する、究極の『想像』の化け物は、笑った。

「さらばだ、友よ。……安心せよ、冒険者組合はシーヌ=ヒンメル=ブラウのバックアップを決めた。ティキ=アツーア=ブラウが生きている限り、アレイティアは滅びぬという判断だ。」

もう旨の上まで溶岩に溶かされながら、アスハはその言葉を聞き取った。ほんの三秒にも満たない戦闘は瞬時に幕を閉じ……。

「だが、俺はシーヌとやらと戦うつもりだ。殺しはしないつもりだが、お前の義息には興味がある故な。」

それが、アスハが最後に聞いた言葉だった。


はっきり言います。トップ10なり冒険者組合五千人なり言いますが、(設定的にはあるんですが)全員が登場することはありません。

実際に戦闘するのは二人だけ、地の文なり協力者なりで出てくるのを含めても五人だけです。


一応、

一位 “小現の神子”

二位 “因果の操術”

三位 “洗脳話術”バデル

四位 “自然呼応”ムリカム

五位 “眷族作成”アレイティア

六位 “超常肉体”ワムクレシア

七位 “地殻変動”オーバス

八位 “災禍の具現”グレー=キャンベラ=アルス

九位 “武術の極限”

十位 “不変の要塞”


名前がないのは出す予定がないからです。『五神大公』家以外の五人については、“武術の極限”を除けば上位に行くにつれ魔法規模が小さくなっていきます。


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