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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
復讐の傭兵
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義父の遺言

 ぐしゃり、と手紙を握りつぶした。いつか来るかもしれないと理解していたとしても、商業都市の動きはあまりにも早かった。

「それほどまで、『竜の因子』に固執するか、アレイティア……!」

それがあったから、五神大公家は未だに存続している。それがあるから、我々は彼らを守らねばならない。


 だが、世界の発展を望み、人の世の発展を望んだ彼らの末裔が、発展をより進めていこうとする工業都市へ人を差し向けてくるとは、と呆れて息を吐く。

「“単国”が三人、か。」

“単国の猛虎”はいない。どうやら、公爵自身の護衛らしい。代わりに、“単国の大蛇”、“単国の毒蜂”、“単国の熱亀”の三人。いずれも周囲に被害をまき散らすことに特化した化け物だ。


 工業都市ミッセンは大きな勢力ではあるものの、100位以下の支持を集めている勢力でしかない。一番トップのアスハですら、全力で不意打ちしても50位に一撃与えられればいい方、と言える程度の実力しか持たない。

 “単国”が三人。それは、30位以上の冒険者組合一人が相手しなければならない規模……100位以下の実力者なら少なくとも300人程度は動員しなければならない規模だ。シーヌやティキのレベルまで落とすならば、最低5000人は必要になる。


 冒険者組合は元々、強者の寄り合い。世界のバランスが致命的に崩れないよう、組合員同士が互いを牽制し合うことで維持し続けるという目的がある。そして、ある一族が離反した際、その総員の命を賭けてその一族を処理するという義務を持つ。


 冒険者組合の中では、一部の人間しか知らないこと。アスハとて、内政の才能を買われ、ミッセンに来る前に伝えられている、……本来の、冒険者組合の姿。

「“神の愛し子”は確かにアレイティアの天才であったが、いかんせん、当主にならなかった身だ。知っていることはわずかしかなく、その才能を生かす機会を己の手で葬った。」

あるいは、個として、『操作できる神龍の製造』を目的としたアレイティアではなかったことは、おそらく真実を知らない身では一度通過する儀式で……アギャンに限るなら、そこから『次の行動に移せる』だけの天才であったことが、アレイティアにとっての不幸だったのだろう。


 そして、当代のアレイティアは天才ではなくとも、当主になった。アレイティア、冒険者組合の真実をその脳で知っている男だ。二度三度しか面識はないが、アレイティアの没落を憂いていたことは知っている。

「なぜ、アレイティアがその特権である『眷属作成』の秘儀を失ってきているか、まではわからぬ。だが、推測することは出来ていような。」

あれほどの大家であれば、あるいは冒険者組合が持っていないような伝承すら残っているかもしれない。たくさんの実験もこなしているだろう。


「止めの一撃が、血脈婚である。間違いない、アレイティアは余計な横やりを恐れて、ここを……いや、私を殺そうとしている。」

アスハ=ミネル=ニーバス。この身は“次元越え”と呼ばれる、“転移”魔法の使い手だ。この魔法を使えるものは、現在アスハとシーヌしかいない。

「そもそも魔法を自在に操るということは非常に難しい。数式を操るでもなく、方式があるわけでもない。……どうして起きるかわからぬ現象が、魔法というのだから。」

挨拶に来た少年と、アスハに呼び出された老人に語る。これは、“永久の魔女”から聞いた話が大半を占めている。事実かどうか……やっている彼らならわかるだろう。


「例えば、100メートルを5秒で走るほどの身体強化を施すとき、その強化方法は、己がその肉体であることをイメージしなければならない。」

100メートルを5秒で走ることが出来るほどの身体強化をするのではない。100メートルを5秒で走っている、己の身体能力をイメージするのだ。


「それは転移も同様……と言いたいが、私も実はわからないのだ。“転移”の魔法は、気付けば出来ていた。誰かに教えるほど、イメージがはっきりしているわけでもない。」

ならなぜシーヌに教えられたのか、と少年の目が語っているように感じた。簡単だ、シーヌは模倣の天才だからだ。


 “有用複製”という“三念”を持っていると聞いた。だが、それは“復讐”に釣られて形が変わっただけなのではないか、とアスハは睨んでいる。本来シーヌが持っていた“三念”はおそらく“応用複製”だろう。人生の定義を“復讐”においたからこそ、その形が“応用複製”に切り替わったのではないかとアスハは睨んでいた。

「魔法は語れないことが多い。『なぜ』ということは特に。しかし、私の魔法は特にそうだった。」

逃げようと思えば逃げられるのだとアスハはいう。だが、アスハが逃げるということは、アスハが訪れた場所の人たちはすぐに死ぬということ、自分を支持してくれた組合員たちは生き延びられないだろうということだ。


「私の“転移”は、私にしかできない。だから、狙われる。」

ティキ=アツーア=ブラウを救おうとしたとき、単独でそれを為せる、彼女と近しい人物は、アスハしかいない。軍を用いてアレイティア公爵家と戦うわけにはいかず、血脈婚をもってティキを囲い込もうとしている彼らに対抗するには、軍を動かすしかない。


 だが、しかし。

 冒険者組合にとって、アレイティア公爵家は、守るべき対象だ。滅ぼすわけにも行かず、そして何より、世界の敵にするわけにもいかない。

「チェガ=ディーダ。それが、私がここで死ぬ理由だ。」

ティキに近しく、危険性が高く、アレイティア公爵家を敵に回してはいけないから。だからアスハは死ぬと言っている。


 チェガは苦々しい表情を隠そうともしなかった。ミラによって冒険者組合の歴史を語られ、真実の一端を握っている彼には、アスハの考えを否定することもできなかった。

「君が参戦した復讐の手助けは、“神の愛し子”以降だったな。……なぜ彼が野放しにされていたか、わかったか?」

ある意味において、世界で最も危険だった。祖たる神龍、その代替にすらなりえる人物であったのに、冒険者組合は『そこまでの難敵でもない』ために放置した。


 本当は、アレイティアの血脈であったために、その血を殺すわけにもいかなかったからだ。

「アレイティアがやっていることは、広義的には人の世のためでもある。……チェガ君、シーヌに、私の訃報を伝えてくれ。」

グッと、奥歯を噛みしめる音がした。それを若いなと満足そうに見つめながら、アスハは遠くを見つめる。

「私の、首が必要だ。……だが、その前に二人は逃がさなければならない。」

“単国の猛虎”は対個人戦に特化していた。だが、今来ている三人の“単国”は、対範囲爆撃戦に特化している。……爆撃が届かないところまで、“転移”の門を開く。


 アスハは執務室の机から三枚ほど紙を取り出す。シーヌにこれから起きることを、アスハはほぼ正確に予測できている。

「チェガ君、君がセーゲルについても、シーヌはまだ寝ているはずだ。起こしてやってくれたまえ。」

そういって、一枚の紙を引っ張り出す。

「“戦場の影刃”アゲーティル=グラウ=スティーティア。彼の兄が、学園都市にいる。シーヌには、その兄に会えと伝えてくれ。この手紙を読めば、おおよその経緯はわかるはずだ。」

アレイティア家に、所詮下っ端でしかない冒険者組合員が挑んでも見向きもされずに返り討ちにされるだけ。ならば、そうならない環境を作り上げよう……それがアスハに出来る、義息への最後の愛情で。


「では、死んでくる。」

実にあっさりと。アスハは死地へと赴いた。




「エスティナさんはどうしてここへ?」

「貴君は一応、王配だろう?君の方が立場が上だ、敬語はいらない。……聖人会は我らを切ったのだ。」

“洗脳の聖女”なく、しかし“洗脳の聖女”が遺した爪痕は大きかった。


 聖人会が機能していなかった?そんなことはない、聖人会は依るべき柱を失っても、しっかりと機能していた。だが、ユミル=ファリナは、彼女自身の気づかぬうちに、彼女以外の家から庇護を受けていた。

「バデル?」

「そしてアレイティア、だ。力を失った大公家、とはいえ、失ったのは『竜の因子』に起因する能力のみ。権勢が衰えたわけではないからな。」

そして、“洗脳の聖女”は『洗脳話術』の『竜の因子』を持っている、先祖返りの女だった。


 同じ『洗脳話術』を行使する五神大公、バデル家だけではない、『眷族作成』を行使するアレイティア家にすら……

「血脈婚ではない、一族への『竜の因子』の再取り込みの手段?」

「だろうな。両家ともに、期待していたユミルを殺した我らを許す気はない、ということさ。」

セーゲルは、事が落ち着けば滅びる。それだけを突きつけられて追い返されたということだろう。

「そして、アスハ殿に呼ばれた。……ネスティア王国だけでは心許ないだろう、“自在の魔女”の先祖を頼れ、と。」

「“自在の魔女”?」

知らない名だ、とチェガは呟き。


「ムリカムさ。五神大公ムリカム家。『自然自在』の『竜の因子』を持つ家系。その遠縁の子孫が“自在の魔女”。私たちセーゲルが“救地の聖女”と呼ぶ女」

そして、おそらく。

「ティキ=アツーア=ブラウの母親だ。」

あまりやりたくないんですが、『説明できない』現象を書きました。というのも、魔法式がない世界では転移魔法って存在出来ないんですよね、例外なく。

というのも、転移魔法の原則は『異次元』だの『空間を繋げる』という工程が必要になるんですが、魔法理論というか、式がないと『次元』を定義できない=転移式が作れない→転移魔法がない、ということになります。


この世界における魔法は『想像力』と『意思の強さ』、上位互換として『自己の定義』『人生の定義』を行うことで魔法の力が増幅する、というシステムと、『竜の因子』によるシステムが両立しています。つまり、魔法が『魔術』的に定義出来ないんです。

つまりアスハはある意味チートだった……広義の意味では、『人間に生まれた』=チートであるのがこの世界です。


うん、ある程度世界の定義も魔法を魔術的に語るだけの理論もあるんですが、その中でも並外れて『説明できない』のが“転移”魔法です。誰も使えないし。




200ポイント越えていました、嬉しいです。

これからもうしばらく、よろしくお願いします!

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