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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
歴代の人形師
242/314

魔女四人

 エルとフェルは、アリスと対面していた。

 ティキの幸せのためには、こうするのが最善だと、二人で話し合って納得している。


 魔法。アリスが魔法を撃つ。その速度は一瞬、その量は異常。だが、典型的な、炎の球だ。ただ、その数と質だけが異常だ。

「なる、ほど?」

「オデイア殿は、正しかったのですね?」

ティキと比べる間でもない魔法だ。


 ティキのようにオリジナリティはない。ティキのように魔法を形作ってから軌道を変えられるというわけでもない。

 ただ愚直な、教科書通りの魔法。しかし。

「何て、威力……!」

放たれるそれらを、数当てることで相殺する。ティキよりはるかに強い一撃。いや、ティキでも一撃に強く力を入れれば、あれくらいは出来るだろう。


 だが、アリスのように、数十の魔法を同時に放ち、それらすべてが等しく人の命を刈り取るには過剰な威力を込めることは難しい。ティキの十八番の“剣の雨”とて、無差別、無慈悲に、間断なく放つことで殺戮・殲滅を可能とした魔法だ。アリスの『一撃必殺を数十』とは意味合いが異なる。

「エル、合わせて!」

「わかった、フェル!」

二人駆け寄る。互いの魔法を撃つペースは把握している。どういった時に、どういった魔法を選択するのか、その思考までも、エル、フェル、ミラは互いを理解し尽くしている。


 真正面に来た魔法を、フェルが迎撃する。エルが探知魔法で探る限り、アリスは次弾を装填していても放ってはいない。

 エルが駆け出す姿勢を見せる。瞬間、フェルが魔法の威力を上げる。

 魔法が、相殺された。その直後、風圧に逆らう様にエルが走る。


 アリスが魔法を放った。走りながらもエルが連続で魔法を放つ。遅れてフェルが魔法を放って、相殺させる。

「右!」

「左!!」

エルの叫びに応じるように、フェルが走る。アリスの魔法は一直線にしか放たれない。最初から狙いが定まった魔法だというのなら、狙いごと移せばいい。


 相殺し合う魔法の影に隠れながらも、左右に二人は散開する。防御一辺倒では勝てない、しかし攻撃しても勝てない。その事実を、エルもフェルも受け入れた。

「ティキ様より、強い……?」

「いいえ、エル。そんなことはありません。ですが、ティキ様より弱くはないです。」

「それって、私たちでは勝てないということなのでは?」

「ミラがいれば、三人で時間稼ぎにはなったでしょう。二人で戦う以上、いつも通りの私たちでは時間稼ぎも厳しいですね。」

アリス=ククロニャ=ロート。デリア=シャルラッハ=ロートの影に隠れた、それほど強くない魔法使い……という認識は、今すぐ改めないと死に直結する。

「シーヌ様が決着をつけるまで……。」

エルとフェルは、いったんアリスと距離を取る。


 アリスに近づけば、魔法を相殺できる時間が減る。それは、エルとフェルが抗戦できる時間が減るということだ。

「フェル!」

「わかってます!」

ひたすら魔法を撃ち続ける敵と、相殺にすら必死になる二人。


 それが、アリスとエル、フェルの力量差だった。




 上空を、見上げた。妻は夫の助けにならんと、ペガサスの上から圧力をかけて、人形たちを跪かせる。

「あんな繊細な魔法は、私には打てないわ。」

シーヌが、駆けていく。その目の前に、彼のかつての幼馴染や親の人形たちが攻撃を仕掛けている。

「悪趣味にもほどがあるわ……。」

シーヌはそれらを殺さないよう、うまく回避し、拘束しながら突き進む。

「全く。」

手を止める。デリアは足掻くだろうが、彼女自身はウォルニアが死のうが、育ての親が死のうが、それそのものには興味がない。アリスにとって、復讐という『間違ったこと』を行うのを見たくないだけで、それ以上の戦う理由はないのだから。


 エルとフェル、アリスの初対面の、なぜか乱入してきた少女たちがアリスに向けて魔法を放っている。対処する必要はない、彼女は常に自分を防御魔法の膜で覆っている。

「ティキ、あなたはどうして、シーヌを手助けするのです?」

「私は、シーヌの妻だよ?」

何を問う必要があるのか、というかのように、ティキは首を傾げる。それを、はぁ、と息を吐いて首を振って。

「復讐を援ける義務は、妻にはないでしょう?」

「そんなことはないよ、妻が夫に望むことなんて、いつだって一つでしょう?」

何を言っているのかわからない。アリスはため息を吐きながら、二人の少女を見る。


「あなたたちは、何故、助けるのです?」

「ティキ様の友人ですので。ティキ様の幸せが、私の望みです。」

「同様に。……経緯が経緯です。ティキ様の幸せは、人並みではきっと足りませんから。」

血脈婚のことを言っているのだ、と、アリスにもそれは伝わった。だからといって、やはり彼女には、わからない。

「おそらく……シーヌ様は、最後に必ず、お話になられると思います。」

エルは、そう言うしかない。シーヌの想いも、ティキの想いも推測できるがゆえに。アリスの感覚が、間違っていないと理解できるがゆえに。


 それでも。

「“殺戮将軍”。いえ、“救道の勇者”と“覇道参謀”。あのお二方に復讐する以上、シーヌ様にとって、避けて通れぬ道ですゆえ。」

それを最後まで聞き届けろ、と、エルは呟く。

「ティキ様が幸せになるためには、シーヌ様の復讐の完遂は、必要不可欠なのでございます。」

アリスは。全く、理解できなかった。


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