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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
歴代の人形師
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魔剣士二人

(トライ、聞こえるかい?)

彼は、懐かしいその声に目を覚ました。

「お久しぶりですな、魔女殿。あなたはお亡くなりになられたのでは?」

(残留思念、というやつさ。死んでから世界の真理に触れるとは、嬉しくないこともあるもんだねぇ。)

「おやまぁ、あなたの仮説は間違いだったわけですか?」

(いんや、こりゃ例外だろう。それだけの『何か』があるってだけの話だね。)

死ねばただの屍。間違いとまでは言わないが、正しくもなかったのだろうと魔女の残滓は呟いた。

「まさか三千年の呪いが、死んでから解けるとは。」

(まさか、解けたわけではないとも。死なねばわからぬことがあっただけだ。)

魔女が解放されたのはいいことだ。羽を震わせながら、彼女は深く呼吸した。


「で、何があって私に声をかけたのです?」

(死者に話しかけられているというのに随分と落ち着いているね、君は。)

「前の主の影響ですよ。50年ほど前の冒険者組合員が言っていましたから。」

(やっぱり、知っているのかい?隠棲を選ぶんじゃなかったかねぇ?)

「あなたに出てこられても困ります。もう鈍ったとはいえ、あなたは冒険者組合に来られると困る。三千年前のあなたなら6位くらいにはなれたでしょうから。」

(やっぱり1位から5位はあいつらかい。嫌だねぇ、全く。)

魔女の声はどこか楽しむような、憎むような響きがある。それを全力でスルーしつつ、魔女に返した。

「本題に入りましょう。おそらく『それ』をやっているということは、必要なことがあるのでしょう?」

(そうさ。今から君は三時間でベリンディスに戻り、オデイア=ゴノリック=ディーダを連れてくる。残り3頭のペガサスも動員して、ワルテリー王国からエル=ミリーナとフェル=アデクトを連れてくる。)


その指示に、トライは目を丸くした。

「その三人が必要な状況にあると?」

(あぁ。出来たら今いる戦力だけでなんとかしたいんだけどね、シーヌ自身の軌跡を無視することは、私たちには出来ないんだ。)

その意味は、トライには理解できなかった。だが、自分の主を守るために必要なのがそれだと聞けば、やるしかないのがペガサスというものである。


 正確には、主の命の危機はない。が、主が幸せになるためには、主の夫君の命を護ることは必要になる。

「承知いたしました。では、行って参りましょう。」

(頼むよ。巧く行かないと、私が彼女たちに吊られてしまうからねぇ。)

魔女がそこまで恐れる存在なのか。リーヴァは口に出さずとも、そう思った。




 オデイアは言われた通り、城外の森の中で待機していた。戦闘準備は万端だ、何ら欠けたるところなし……と、再度装備を点検する。

「オデイア殿。行きましょう。」

朝日は昇り始めている。時間がない、とペガサスは彼を急かし……四頭の馬は、シーヌと“歴代の人形師”達が戦っているところに介入した。


 彼女の声はもう聞こえない。役割は果たしたとでも言わんばかりの沈黙だ。

「おそらく。これは、彼女にとっても予想外のことであった。そう判断すればよろしいか、トライ殿?」

「おそらくは。とはいえ、あの奇跡については詳しいことは私も知らぬ。知っているのは、あれが世界の『真実』の一つであるということだけだ。

「真実の内の一つ?」

老ペガサスは鼻を鳴らし、駆けるように空を飛ぶ。

「“永久の魔女”は、真実を見た。だが、真実の内の一部しか知らなかったのだ。」

奇跡とは、人の人生を描き上げた軌跡である。魔女は、かつて英雄が叫んだ、『魔法とは、理屈では説明できない奇跡のことである』という言葉と、ある意味対抗するような概念を提唱していた。


 魔女は、知りたいことを知れたのだろうか。知れていたということを、老ペガサスは願っている。




 シーヌが圧されている。その事実を、オデイアは見て取った。

 シーヌより幾分か弱いものの、年の割には立派な動きをする赤髪の少年。それをフォローするように教科書通りの魔法を放つ黒髪の少女。そして、シーヌがかつて戦った、復讐敵たち。


 シーヌはそれらと、一人で相対していた。よくもっている方だ、とオデイアは苦笑する。

 マルス=グディーとの戦いで、『復讐は二度も起こせない』ことを知っている。今のシーヌは、二度目の復讐、即ち復讐敵たちとの戦いに“奇跡”が用いられていない。

 多くの、生前強かった敵と、そして彼と同格の剣士と魔法使いを相手にして、未だ立っていられるのは、それだけ戦を繰り返してきた証明である。

「チェガは……大丈夫そうだな。」

アゲーティル=グラウ=スティーティアと戦う息子の姿を見て、敗けないだろうと直感する。チェガから大きく攻撃に出ることさえなければ、二人は拮抗し続けられるはずである。

「で、あれば。私は赤髪の少年を相手する。サチリア伯爵令嬢、デコルテ伯爵令嬢。魔法使いの少女と戦っていただけませんか?」

状況認識は一瞬で済んだ。シーヌが勝つために何が必要か、オデイアは迷いなく決断する。


 エルとフェルも、一瞬の逡巡の後、その認識を共有した。

「二人がかりで、ですか?」

「えぇ。赤髪の少年を私は相手しますが、勝つことは出来ない。力量差がはっきりしています、防戦がせいぜいでしょう。同様に、御二方もあの少女には勝てません。二人がかりで拮抗がせいぜいでしょう。」

あの年で冒険者組合員になれる。それは、それだけ強いということだ。オデイアが『防戦なら出来る』と言える理由は、年の功に他ならない。


 エルとフェルは不満そうに口をとがらせ、しかし、頷いた。

「他でもない“凍傷の魔剣士”様のおっしゃることです。確かに、それだけの実力差があるのでしょう。」

あっさり現実を飲んでくれて助かった。オデイアはそっと息を吐く。もしも勝とうとしていたら、シーヌをお助けるという目標は果たすことが出来なかったろう。

「私が先に降ります。周囲が凍ったら、降りてきてください。」

そう言って、ペガサスの上から飛び降りる。敵がこちらを認識していない今しか、奇襲のチャンスはなく。

「凍れ!!」

シーヌと戦う全ての人形、ざわめく木々、馬車……人間以外の全てを、氷漬けにした。




 シーヌは凍り付いた戦場を見て、瞬時に好機と判断した。急激な環境の変化に戸惑うデリアを蹴り飛ばし、凍り付いた人形に打ち付ける。

 “災厄の傭兵”と“災厄の巫女”の氷が砕け、肉片がそれとわからないほどにバラバラになる。やはり、肉体を変質させていたのか、とシーヌは納得した。

「魔剣士殿は私が請け負う。時間稼ぎだ、早く終わらせろ!」

「任せた、すまない!!」

シーヌは地面を蹴って“歴代の人形師”の元へ走る。


 敵の近くの馬車二台が、急に燃えて、増援が現れた。




 デリアはシーヌに蹴り飛ばされ、二つの戦力を失った瞬間に我に返った。急な環境変化に対応できなかったのは、経験不足の結果である。だが、それを自覚したとして……その瞬間、何が起きたのかまでは把握できなかった。

「お前は……。」

「“凍傷の魔剣士”オデイア=ゴノリック=ディーダだ。」

「シキノ傭兵団……解散したはずじゃ。」

オデイアが踏み込む動きを見せる。それに反射するようにデリアは防御の姿勢に動きかけ、瞬間繰り出された冷気の魔法に、体を軽く吹き飛ばされた。

「解散した。だが、俺は、シーヌが復讐を終えるまでは戦う。」

「なぜだ!」

デリアにとって、父を殺されたくないを抜きにしても、シーヌの復讐は度し難い。それがシーヌのためになるとも、全く思えない。自分から争いの種を蒔き続けるようなものだ。


 そして、だからこそ、それをフォローしようと、助けようとする目の前の男の真意がわからない。虐殺を止められなかった贖罪だろうということは、わかる。昨日一日、資料を読みこんだのだ。彼の行動から意味を読み取るくらいは、出来る。

「なぜ、復讐を援ける!贖罪なら、人殺し以外で為すべきだろう!」

デリアの、叫び。それに対して、オデイアは何を言っているのか、理解できない。


 氷が炎に打ち消され、第二波の氷が炎を消し去る。デリアは剣を構えたまま、オデイアを問い詰めた。

「復讐に価値はないだろう!シーヌはそれが、『間違いではない』と言った。奴の答えがそれなら、それで良いかもしれない。だが、どうしてお前はそれを援ける!!」

「それが贖罪だからだ!奴の復讐を援けることでしか、贖罪は出来ぬからだ!」

その言葉に、デリアはイラつく。なぜそう断言するのかが、彼には全く理解できない。


 そもそも、デリアは、何か理解していないことがあるのではないか。そういう想いが首をもたげる。それを否定するために、デリアは再びオデイアに斬りかかりながら問いかけた。

「何に対する贖罪だ!なぜ、復讐を援けるしか贖罪にならない!!」

オデイアは、驚いたように、一瞬顔を強張らせ、しかし体は無意識にデリアの一閃をいなす。


 そうして再び距離を開けた後。何が、デリアとシーヌで、あるいはデリアとオデイアですれ違っているのかを、理解した。

「デリア=シャルラッハ=ロートよ。お前は本当に……青いな。」

それだけを、答えた。


オデイアが『贖罪が復讐の援けであることが必要』な理由は、今章では語りません、次章です。

……推測できるだけの伏線は撒いてるので、もしかしたらわかるかもしれません。前話で多分、伏線を撒くのはほとんど終わってます。 


世界観の全貌、比較的容易な作りをしているので、多分読みこればもうわかるかもしれません……

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