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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
歴代の人形師
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神龍伝説

 これは過去、未だ人の文明はあらず、世界の覇者がただ一頭の、しかして最も強き龍であった頃の話。

 人は多くの魔獣と争い、数は増えず、拮抗し続けていた。


 当時の人は、今よりもはるかに強かったと語られている。魔獣は多く、竜も多く、人の住める場所は限りなく少なく。

 人は決して食物連鎖の頂点ではなく、むしろ一介の虫でしかなかった頃。


 今の冒険者組合の祖となるべき何かが、出来た。

 それらは、人間の中でも特に選りすぐりの化け物であった。それらは、人間の中でも特に戦いに慣れた者たちであった。


 彼らは、人類にとって、唯一無二の救世主であった。なぜなら、それの結成の目的は、魔獣や竜たちを統率する最大の敵、神龍を討とうと集った者たちだった。


 待ち合わせに来た男は、先に訪れていた女を眼にして驚いたように反応する。

「良いのか、“魔女”。死ぬかもしれないんだぜ?」

「わかってはいるさ、アレイティア。でも、私も疲れているのさ。」

共に生まれ、共に育ち、共に戦い続けた仲間から、一人また一人と死んでいく。そんな日々に、戦士の多くは嫌気がさした……それが神龍討伐の理由である。


「勝てないとわかっていても勝とうと思う。『死ねばただの屍』、屍には何の価値もないんだから。」

「自分から屍になろうと言うか、魔女よ?」

いずれ屍をさらすなら。そういった理由であることを、男はなんとなく察している。


「そういうお前は何で参加するのさ?」

「栄誉に決まっていよう。神龍を倒し、人の英雄となる!この栄誉を求めずして、我は何を求めればよいのか!!」

断言するアレイティアに、魔女は苦笑を見せる。

「いいさ、私みたいに逃げ続けた結果よりは、お前ほど明るい奴もいた方がいい。」

「そうだな。そろそろ時間だ、行こうぜ、二人とも!」

魔女とアレイティアの会話に入り込む男。名を、ムリカム。

「討伐隊は五千人だそうだ。知ってるか、これ、戦士の半分くらいは持っていかれているわけだぜ?」

全滅すれば、戦士以外の、人類を守れる者たちが一人残らずいなくなる。そう言った状況らしい。背水の陣で臨むのか、なんてことは、おそらく誰も考えていないだろう。勝てねば人類に未来はない、そのつもりで挑むのだと、討伐隊たちは知っている。




 神龍には誰も勝てない。

 少なくとも、それまでの人類史の中で神龍を討伐できたものは一人もいない。

 なぜなら、神龍には決して勝てない、理由がある。神龍はいくつかの固有の能力を持っているからだ。


 まず、傷を負わない。傷を与えることは出来ても、再生力もずぬけて高い。いわば、傷が残らない敵なのだ。

 そして、魔法を極めて高性能で叩きだす。視認されれば一巻の終わり、その一帯は災害が起きたかのような様相になる。

 なぜか、話せば指示を聞きたくなる。なぜかは人にはわからないが、神龍にはそう言った能力が備わっている。

 何より、魔獣が従っている。神龍の住む場所には、何千という魔獣がいて、神龍の身を守っている。

「勝つぜ、俺たちは。」

「「「「「「おう!」」」」」

それでも。安全地帯のない世界で、安全地帯を作り出そうと、人々は動き抗ったのである。


 その中には。

 アイティア。魔女。ムリカム。ケルシュトイル。ベリンディス。ネスティア。バデル。オーバス。

 後世において国を興した者、永遠の名誉を得た者。未だに名声を持つ家系、最近まで有名だった貴族、英傑五家も、あったという。もし彼らの家に会ったのならば、我らは彼らに首を垂れねばならないだろう。

 何しろ、我々の今の暮らしがあるのは、彼らが神龍と戦ってくれたおかげであるのだから……。




「これからがいいところなんですけどねぇ?」

「お前の都合なんて知らねぇよ、屍使い。俺は俺の都合でここに来たんだ。」

神龍伝説は途中も途中、そんなところで、シーヌがメリクリックの前に現れる。メリクリックはそんな彼を眼を細めて見つめながら、聞きたいことを尋ねた。

「奥さんはどうなされました?」

「戦える体じゃない。何人かが護衛についてくれているよ。」

「そうですか……。もう少し聞いていかれませんか?」

「ごめんだね、理由がない。」


 メリクリックの提案は、シーヌのお目にかかるようなものではないらしい。

「将来、必要かもしれませんよ?」

「知るか。僕は冒険者組合員だ、必要なときに調べることくらい出来る。」

それでは手遅れでしょう、とは言わない。メリクリックは、それを言う必要はないことだと判断する。


 だが、先ほど“単国の猛虎”が現れた。シーヌを殺せと命令した。彼がどこに所属する冒険者組合員なのか、その『どこ』は『何』に所属する支部なのか、理解していれば話が早い。


 シーヌという人間は、ティキという人物と関わる限り、『神龍伝説』とは決して無縁ではいられない。それは、ある程度古い家柄においては非常に当たり前の事実である。ミラでさえ、チェガに『必要な時に話す』というほど大きな内容。基礎があるかないかで大きく変わるような、それ。

 だが、シーヌは『今はいらない』と切って捨てた。もしもその時が来たら、彼は苦しむことになるとメリクリックは断言する。


 だが、今は。彼が戦うことだけを考えていればいい。人形師はそう思考を切り替えると、目の前に立つ敵の中の三人に目を向けた。

「チェガ=ディーダがここにいるのは理解しよう。しかし、お前が俺と相対する理由はないんじゃないか、デリア=シャルラッハ?」

「あぁ、確かに。まだ、迷っている。」

「なら、協力を申し出る。デリア=シャルラッハよ。貴様が父を殺されたくないと望むなら、今ここでシーヌ=ヒンメル=ブラウを討つ方が吉ではないか?」

その言い分に、デリアは一理あると呟いた。デリアの目的は、シーヌの復讐を止めることではない。己の父であるウォルニアを殺させないことだ。


 一番早い方法が、一つある。それは、父を殺そうとしている人物を、殺すこと。

 それを達成してしまえば、デリアは確かに、目的を果たすことが出来るのだ。


 状況を、鑑みた。デリアは、己が為したいことを、為すべきことを、己が心に問いかける。


 父を、殺させない。そのために、自身の手でシーヌを止める。それだけは、彼の中でも決定事項だ。

(だが、シーヌを殺せるか?)

デリアの自問。シーヌはこれまで半年以上もの間、多くの敵と戦い、多くの敵を屠ってきた。対して、デリアは父やフェニ様と戦ってきただけである。


 実戦経験。それ以上に、戦いの多様性。

 デリアは一人で、シーヌ=ヒンメル=ブラウを殺せない。

「シーヌ、お前に、問いたい。」

これが己の決定を定めるものだと、シーヌに伝わるように問いかけた。

「復讐を果たした先のお前は、同じような争いの日々が待っているとわかっているはずだ。なのに、どうして復讐を為そうとする?そこに正義などない、間違いしかないと理解しているだろう?」


 復讐を果たそうとする、シーヌへの根本的な疑問。

 チェガですら聞いたことのないそれを、シーヌは、即座に迷いなく、答えた。


「あぁ、それは……。」


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