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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
歴代の人形師
237/314

最強組織の勢力争い

 ツカ、ツカ、ツカ。森の中を、“単国の猛虎”が歩いていく。

 一時間、ひたすら歩いた山の中。森の中もいいところで、彼はその足を止めた。

「呆れた。貴様がそれでは、奴らは死ぬかもしれんぞ?」

「俺の上司は『構わない』と仰せだ。……おそらく、シーヌ=アニャーラは、上司の恐れた『何か』を持っている。」

「あぁ、知っている。それゆえに、我が上司も奴を殺す方向で舵を切ったのだ。ついでにアスハ=ミネル=ニーバスの手勢を削げるならラッキーだ。」

その言葉に、“単国の猛虎”と話す相手は鼻を鳴らす。互いに理解しているのだ。冒険者組合員同士の戦いになった時、シーヌやティキといった人物は足手まとい以外の何でもない。何しろ、弱すぎる。


 もしもシーヌと“単国の猛虎”が本気で戦うことになった時、シーヌは3秒も五体満足でいられるか大いに怪しい。まだティキの方が、数秒長いだろう。

 正真正銘の上位陣、1位から10位までならどうだろうか。おそらく、よっぽど堂々と名乗りを上げない限り、認識することすら難しい。実のところ、冒険者組合五千人、とは言うが、そのうち三千人はシーヌやティキと同レベルか、少し強い弱いの程度……冒険者組合員的には『いてもいなくても総実力的には変わらない』人間たちである。


 ゆえに、アスハはシーヌを息子としては扱いつつも、冒険者組合員としてはその程度としか扱わない。所詮、死ねばそれまで、である。もちろん、シーヌ自身が、アスハや冒険者組合の上位層が恐れる『何か』を持っている可能性は高い。その『何か』が冒険者組合に向けられるような代物であったのなら、“単国の猛虎”は弱すぎるシーヌを相手とはいえ、戦う決断をしただろう。


 だが、それが冒険者組合に向けられるものではないがゆえに、シーヌは未だ路傍の石ころとして扱われている。

 路傍の石頃と同程度の価値しか、シーヌには見られていない……今までも、これからも、だ。


「その割には、……いやいい。要件を言え。」

「お前の主は何のために動いている?」

本件はそれだ。今までの言葉は、互いの認識をすり合わせるための儀式に過ぎない。

「はっ、アスハはわかって動いているんじゃないか?だからお前をここに配置したんだろう?」

「そうだ。その答えが聞けて満足だ、“単国の猛虎”。」

黄色、一閃。その直後には、勝負の決着はほとんどついている。

「“雷鳴の大鷲”。たかだか200位前後のお前じゃ、無理だろうが。」

グレゴリー=ドストの実力では、“単国の猛虎”には腕を二回振らせるのがせいぜいだった。その事実を、彼は笑って受け止める。


「どうして、お前が殺さない?」

シーヌを殺すのは、“単国の猛虎”でも何ら問題はないはずだ。そのグレゴリーの指摘に、男は呆れたように答えた。

「わざわざ手を下すだけの価値があの男にあるのか?」

ない、とグレゴリーも思う。シーヌと模擬戦をやってみたが、コテンパンにしないよう、必死に力を抑制した。たかが“黒鉄の天使”を倒すのに一時間もかけるのだ、弱すぎてお話にならない。


 繰り返すようだが、シーヌはその程度の実力しかなく、その程度の価値しかない。


 マニエルの領主の使いである男は、戦意を失った男に対して問いかけた。

「お前、うちの陣営に来ないか?」

「いや、恩がある。それに、神龍の力は人には過ぎる。」

そうか、と“単国の猛虎”は諦めたように呟く。その発言は、冒険者組合の中の上位、あるいは古き王国の王族にしか伝わらない、究極の言葉。

「お前もその神龍の力を持つのではないか。」

「雷のみしか、我が呼び声には答えない。神龍の血を深く引いてはいないのだ。」

それだけ。それだけ言って、グレゴリーは目を閉じる。


 冒険者組合、マニエル支部とミッセン支部の、小さな小さな勢力争いは、ここに幕を閉じた。




 飛び出したシーヌを見て驚いたデリアがその手で動きを制する。シーヌの瞳はドラッドに向けていたような、復讐の想いに満ち満ちている。

「お前、どこに行く気だ!」

「復讐を。……“歴代の人形師”は、屍を人形として操っている。殺すに値すると思うが。」

「ふざけるな!死ねばただの屍だ!それが人間だったとして、屍を人形にしたことは何も悪事ではないだろう!」

普通の返答をデリアは返す。100人に聞けば、99人は同じ回答を返すだろう。


 死ねばただの屍だ。その人生の意味も、価値も。屍には、存在しない。それはただの躯だ、人ではない。

「あぁ、そうだろうな。お前はそう言うだろうよ。それが正しい。」

怒りに頭が沸騰していながらも、シーヌはとても冷静に返事を返した。

「だが、それでもなお認められないものがある。あの街でただ一人生き残ってしまった俺は、決して認めるわけにはいかない。」

躯を全て埋葬することもできず。躯を全て燃やすことすらできず。


 生きるために逃げ延び、完全に生き残ってしまった少年は、彼らの躯を処分することすら……しっかりと弔うことも、別れを言うことすら出来なかった。

「ただ一人生き残った俺は、あの街の残滓を放っておくわけにはいかない。」

瞳から見える憎悪は、腹立たしいほどに赤かった。腹立たしいほどに強かった。


 そして、反則的なまでに、美しかった。


 デリアは何も言うことが出来ず立ち尽くす。ティキはシーヌを追おうと立ち上がる。そのティキの体を、必死にミラが押しとどめていた。

「ミラさん。」

「はい、シーヌ様。」

「チェガを借りても、いいかな?」

「ええ。チェガ様もそのおつもりでしょう。ティキ様を任せていただけますか?」

「任せます。アゲーティルかファリナなら、護衛として金で雇えるでしょう。万が一があったら頼ってください。」

「はい!」


 ミラとの会話は終わる。チェガとは視線を合わせて意思を共有する。

 一歩、踏み出す前に、デリアが道を阻んだ。

「教えろ、シーヌ。復讐は何も生まないはずだ。なのにどうして、復讐を果たそうとする?」

「逆に、聞こう。僕はお前の父を殺す。どうしてお前は、止めようとしている?」

デリアの口が、動きそうになって止まる。一瞬、それが間違いだからだ、と言いかけて、止めた。それはデリアの想いじゃない。それはただの正論だ。


 なら、デリアが返すべき言葉はただ一つ。

「俺は、父さんを殺されたくないと思っている。」

「同じさ。……俺は、復讐がしたいから、復讐するんだ。」

そのシーヌのセリフに、デリアは相手を睨みつける。即ち、事実上の敵対宣言だ。だが、今この瞬間にシーヌの敵に回る理由もまた、実はない


 同行するか、否か。デリアがしなければならない判断はそれだけであり、いずれ敵対するとわかっているシーヌにどうこうするメリットは非常に大きい。

「行くか。」

剣を引っ提げ、アリスに目で合図する。それに頷く形で、アリスもまた、歩き出したシーヌの背中を追いかける。


 シーヌ、チェガ、デリア、アリス、アゲーティル。この五人が、“歴代の人形師”へ向けて歩き始めた。




 メリクリックは、シーヌが来るまで退屈していた。

 彼を討伐しろと命じられた手前、戦わないという選択肢はない。

 同時に、わざわざ出向く必要性もない。


 あの背中を見たらわかっている。シーヌは、必ずメリクリックをここへと訪れると、わかっている。


 メリクリックは入れ違いにならないよう、細心の注意を払わねばならない。そして、入れ違いにならないためには、待機するのが一番の近道なのである。

「とはいえ、やることがないのもどうかと思うな。」

じっと人形たちを見つめて、退屈を紛らわす方法を考える。


 幸いにして、メリクリックが退屈を紛らわす方法など容易である。彼は役者だ、戦闘の有無にかかわらず、彼は演技を行うものだ。

「誰もいない公演。たまには良いか?」

ゆえに、彼は演目を決めて披露を始めた。


 演目は『神龍伝説』。

 この世界の、ある種において真の成り立ちである。


主人公がいかに弱いのか、に焦点を当ててみました。

うーん、強いんですよ?確かに強いんですが、確かに弱いんです。


例えとして正しいかは微妙なところですけど、『オリンピックに出る実力はある、ただし万年最下位争い』といった感じでしょうか?


ではチェガやワデシャ、復讐敵たちは、というと、『国内大会万年四位』です。世界大会には出れない、しかし井の中ならちょっとした人気はある、ですね。


実はこれに対して、ティキ含む数名だけ、オリンピックで中位層には入れそうなポテンシャルがあった面々が存在します。それは最終部『恋物語』において明かされるものとおおいに被りますが……ティキ、アギャンは確定ですね。


もし要望があれば話します、『なぜか』がわからなければ『誰か』がわかっても問題ないので。


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