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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
歴代の人形師
233/314

過日の日常

 ギュレイさんは僕らの魔法の先生になった。お父さんが言うには、

「子供たちの面倒を見る中で、責任感を育め。娘を託すためには、それくらいしてもらわねばならん!」

だそうだ。既に若手の中でも圧倒的実力を持っているとされている。それでも足りないのかな、と疑問に思っている僕に、父さんは丁寧に説明してくれた。

「カリスマには2種類あるんだ。最初から持ってるカリスマと、後から育てたカリスマ。どっちがいいかは時と場合に拠るが、大事なのは育てられるということさ。」

実力が高い人をリーダーにする。リーダーは徐々にカリスマを身に着けていき、一定の年齢……カリスマ性の高さが指揮官の条件になる時に、続けてリーダーを続投してもらう。

「これも訓練の一環さ。ギュレイには内緒だよ?」

父さんはそう言って笑った。何を言っているのか僕にはまだよくわからなかったけど、父さんが実はギュレイさんを気に入っているということだけはわかった。

「うん、わかった!」

その日から、僕はギュレイさんを義兄さんと呼び始めた。




 朝起きて、朝食を食べる。食べると、体を動かしに外に出る。

「よう、シーヌ、行こうぜ。」

「うん、行こう。」

アデクと一緒に走り始める。二人でいつも遊ぶ公園まで、どっちが早く到着するかを競争しながら。

 そこには、アデクを慕って集まった、力自慢な友達がたくさんいる。その人たちと一緒に、木剣を持って訓練する。


 最近、アデクはめきめきと力をつけている。必死に食らいついているけれど、どんどん強くなっていくアデクに負けることが増え始めた。

「おい、シーヌ?」

ブン、と振られる剣をかがんで避け、喉元に剣を突き出そうとすると、その前に回避された。なんというか、剣が思った通りに動かない。そんな気がして、地面を転がった。

「どうした。……お前なんか、弱くなってねぇ?」

「弱くなったんじゃなくて、きっとアデクが強くなったんだよ。」

僕はアデクみたいに力が強くはない。多分、体力は同じくらいだと思う。短距離走とかだったら、僕はアデクより速い。でも、アデクと比べて僕は弱いのは、間違いなかった。


「でもよ~、アデクが強くなったってんのは間違いじゃねぇと思うぜ~。」

アデクの友人が声をあげる。

「だって俺らじゃ、アデクどころかシーヌにも勝てねぇもん。」

確かに、僕はアデク以外になら余裕で勝てる。アデクにだけ、6割くらいで負けるのだ。

「まあ、いいか。追いついて来いよ、シーヌ!!」

ライバルはそう言って、余裕の笑みで笑った。




 武術ならアデクが一番強い。なら、魔法ならというと、状況によりけりだった。

「こら、ビネル!燃やそうとし過ぎだ、ちゃんと的の真ん中に当てろ!」

威力の調整が出来ずに、ビネルはいつも怒られる。でも、魔法の威力は同年代で一番強かった。ビネルは、心を魔法に込める力がとても強い。


「さすがだな、シャルロット!一度に5個も魔法を使えるだなんて!でも、もう少し威力をあげた方がいいぞ、ほら、焦げ目も残っていない。」

逆に、魔法の想像力が高いのはシャルロットだ。でも、彼女は怯えているからか、魔法の威力は高くない。巧さでは、シャルが随一だ。


「シーヌ!お前は何でそう、シャルロットとビネルの真似をするんだ!……いや、うまく行っているならいいのか?」

義兄さんはそうぶつぶつと呟きながら、的当てに成功している魔法の痕跡を覗き込む。

「ほんと、器用な奴。」

僕は、覚えだけが、早かった。




 初めて、実戦形式で戦いの訓練をした。魔法アリ、武術アリ。最初の相手はシャルで、シャルは戦う前に棄権した。

 次の相手はビネルだった。ビネルは魔法で僕を攻撃しようとしたけど、避けて、避けて、近づいて、剣で倒した。


 決勝戦はアデクだった。魔法を撃ちあって、剣で打ち合って。

 剣の腕はアデクの方が上だった。でも、魔法の腕では僕の方が上だった。

「シーヌ!」

剣が弾かれる。追撃が来たから、炎の球を飛ばして迎撃した。アデクが回避する一瞬で姿勢を治して、魔法を撃ちながら剣を振る。避けて、避けて、弾いて、避けて。


「終了!今回、勝者なし!!」

義兄さんが止めるまで、2時間くらい。僕たちはへとへとになりながら、戦っていた。


 その後から、僕とアデクの道は違い始める。僕は魔法と剣術の併用を、アデクは身体強化魔法以外の魔法を捨てた剣術一辺倒。

 そして、ビネルとシャルロットは、魔法使いとしての道を歩み始めることになったのだ。




 義兄さんと姉さんが結婚する。その日、僕は出席していた。

 隣にはアデク。義兄さんの師匠はアデクのお父さんだから、式に呼ばれたんだそうだ。

「シーヌ、旨いな、これ。」

「アデクはよく食べるね……。」

それが終わって、披露宴。アデクはパクパクとご飯を口に運んでいた。


 僕も普段だったら同じくらい食べる。でも、結婚披露宴だ。そんなにパクパク食べるには、もうちょっとアデク以外の人もご飯を食べてほしい。

「ダメだよ、お兄ちゃん。まだ誰も食べていないもん。」

妹がそう言ってくる。そう、僕もそう言われていたからご飯を食べられないのだ。

「おい、誰だ?」

「妹だよ。何回も会っているでしょ?なんで覚えていないのさ。」

アデクは手を止めて、顔をわずかに上向けた後、言った。

「あぁ、えっと、エマだっけ?」

「そう。エル=アニャーラ。僕の妹だよ。」

「あぁ、そうだったな、お前の妹だった。」

じっと見つめられて、アデクは渋々食べる手を止める。幼い子には弱いのかな、と僕は感じた。




 ウェンディングドレスを着た、姉さんに。アデクは唖然とした顔をしていた。

「アデク?」

「—―。」

ダメだこれは。そう思う間もなく、大人たちが食事を始める。いつの間にか、それだけの時間が経っていたらしい。アデクは変わらず唖然としたままだ。

「ねえ、アデク。アデク。」

「あ、あぁ。食おうぜ、シーヌ。」

二人で食事を再開する。ただ、アデクはちらちらと姉さんの方を向いたままだ。

「なあ、シーヌ。お前のお姉さんってあんな神々しかったっけ?」

神々しいってなに?そう、僕は呟いた。アデクが変な言葉を使ったけど、意味は分かる。

「ドレスのせいじゃない?」

僕はご飯のおいしさに驚きながらそう答える。なるほど、アデクが『旨い』を連呼するわけだ。


 僕の適当な返事が気に障ったのか、アデクはむすっとした。

「シーヌ。」

「姉さん。」

声をかけられて顔を上げると、姉さんの顔が近くにあった。

「美味しい?」

「うん。」

食べる手を止めて、そう返す。姉さんは綺麗だった。義兄さんが、あれだけ熱心になるのも、子ども心になんとなくわかる。

「幸せ?」

「うん。シーヌも、いつかわかるよ。」

わかるかな、と首を傾げる。アデクと遊んで、シャルと遊んで、ビネルと遊んで。今はそれだけでも幸せだから、姉さんの幸せはあまりわからない。

「君が、アデク君だね。シーヌといつも遊んでくれて、ありがとう。」

姉さんに声をかけられたアデクが、驚いたように硬直する。そして、首をブンブンと振った後、

「別に大したことじゃねぇよ。シーヌは俺のライバルだからな。」


憮然としたような声音、表情。だが、確かに、僕のことを心の底からライバルと思っているような口調。

「もしシーヌが困っていたら、助けてあげてね?」

「嫌だね、シーヌは困っていても自力で解決しちまうじゃねぇか。」

僕の力量を疑わない、はっきりとした断言。それに、お姉ちゃんはクスクスと笑った。

「じゃあ、シーヌじゃなくていいわ?シーヌの大切な人たちを、きっと守って?」

「エマとか、姉さんとかですか?」

「そう。私はギュレイがいるから大丈夫だけどね。みんなを守れる、立派な騎士になって頂戴?」

「もちろんです!お任せください!!」

アデクは、姉さんにそう言って堂々と胸を張った。




 今ならわかる。5歳だったアデクは、姉さんの結婚式の日に、姉さんに恋をしたのだ。そして、好きな人との約束を守りながら、アデクはあの日を迎えたのである。


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