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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
歴代の人形師
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勇者下克上

 シーヌたちはとりあえず劇場の入場口に入ることにした。

「外、妙に馬車多かったな?」

「聞いた話だが、馬車に小道具全部詰め込んで移動しながら開演してるらしいぜ?先代までは一つの場所で公演してたらしいが、演者が経験を積みたいとかで、金稼ぎも兼ねて移動劇場をやってるらしい。」

なんでも、技術や台本通りに演出しても、面白味にかけると感じたらしい。一人で旅していたらしいがお金に窮し、ちょうど先代が死んだ。ゆえに、遺産全部を馬車に使い、移動公演をする形で旅を続けているという。


「だが、そろそろ帰るとかなんとか。」

「まぁ、あの人形師は受け継がれてきた歴史があるしなぁ。元々国に仕える感じの役者や。」

いいつつ、舞台前の椅子に座って歩く。建物ではなく野外だからだろう。舞台付近は照明やらなんやら多くの物が置いてあるが、観客席の上には屋根代わりの布が一枚、相当な高さの位置に広げられているだけだ。『魔法で置いたのだろうな』、という感想と『手抜きじゃないか』という感想しか、シーヌには湧いてこない。


「まあ、とはいえ余所に出店するという扱いにしては結構気を使っている方か?」

その方が実入りがいいのだろうな、なんてことを思いながら歩いていると、シーヌたちは透明な壁に阻まれる。


「入場料を、支払ってください!」

子どもの声だ。デリアたちが振り返ると、そこには受付っぽい机に座っている少女がいた。

「あ、お嬢さん。ごめんね、いくら払えばいいかな?」

「黄石で、1個、翠石で、100個、です。」

「はいよ。8人だから、黄石8個な。」

少女の小さな掌の中に、石を落とす。デリアはそういうのに慣れているのだろう、実に慣れた手つきでそのお嬢さんに話しかけに言っていた。


(……嘘だろ?)

それに対してシーヌは、己が目をこすりその光景を疑う。あり得てはならない情景が、目の前にあるような気がしていた。

「お嬢さん、そういやお名前何て言うんだ?」

「私ですか?私の名前はシャルロットです!」

シーヌは叫びだしたいような衝動に駆られた。そんなバカなと叫びたくて仕方がない。

「ありがとな、シャルロット。」

チェガはそういうとサクサク中に入っていく。後に続くように移動しつつ、シーヌは衝撃から立ち直ろうと必死だった。


 六歳ごろの年齢の、シャルロットという名前の、魔法が使える、見たことのある少女。

 ……それは、シーヌの幼馴染とそっくりな、容姿をしていて。

「どうした、シーヌ?」

「いや、なんでもない。しっかりしてるな?」

シーヌが動揺しているのを察知したチェガが問いかける。それに対して、シーヌはごまかして答えた。


「あれ、人形師の人形らしいで。人形師っつうやつは、まるで人間みたいに人形を動かし続けられるっつう話や。」

グラウが乗るように答える。あんなそっくりな人形がそうあってたまるか、とシーヌは内心で悪態をついた。

とはいえ、実際に、目に見えている以上、それは実在するのだろう。そう思うことにして、シーヌは劇場へと向かっていく。


 今日の題材は『勇者下克上』。王女と婚約した少年が、王女と、とある子爵の護衛として、とある街まで護衛する話である。




「あぁ!勇者様!私の身はどうなっても構いません!何としても、この邪なる獣を倒してくださいませ!」

王女の役割をする、見たことのある人形が声を上げる。その彼女を口で掴み離さないのは、竜の血を飲んだのであろう、巨大な獅子、の人形。

「う、ぐぅ、しかし!」

「早く!この獣はきっと、人に悪さをいたします!」

山の中腹だ。山から下りたら人里がある。王女一人の命と、多くの食料を作る民草の命。天秤にかけたら、水滴一滴分ほどは民草の命の方が重い。

「う、わぁぁ!ならば、民草も王女殿下も共に、助ければいいだけの話だ!!」

無辜の民を、罪なき命を散らさせまいと勇者が吼える。

「我が名は“救道の勇者”!私の剣は必ず!人を救うのだ!」

剣が振るわれる。その斬撃は宙を飛び、獅子の足元を斬り落とす。

「う、わぁぁぁぁ!」

そうして、獅子は殺された。目撃者である王女と子爵の後押しで、平民でしかなかった衛士の少年が、将軍へと駆けあがり、王女と結婚する。


 成り上がり。語呂が悪いから、意味は変わるが下克上。ただそういった物語は、シーヌの癇に非常に強く触れてくる。

「我が人形劇はこれにて終了!我が人形たちに万雷の喝采を!!」

“歴代の人形師”の顔は覚えた。奴は絶対殺すとシーヌは決める。


 無言でその場を後にしようとするシーヌに、チェガやデリアは驚きながら後を追う。

「お、おい、どうした、シーヌ?」

「なんやなんや、そんなに仇が讃えられてるのが嫌やったんかい?」

何もわからない様子のデリアと、見当違いのことを言うグラウ。それに対して、チェガはやはりチェガだったし、ティキはやはりティキだった。


「あの役者の顔、妙にシーヌに似てた気がする……そのせいか?」

「あの役者さんだけじゃない。村人が、宿屋の主人が、交流する子供が、王女が、王様が。出てくるたびに、シーヌは怒ってた……なんで?」

劇場の外に出る。シャルロットが、他人行儀にお辞儀する。その隣には、お金を数えて記録していたらしい少年……ビネルの姿も。

「あの人形は、人形じゃない。あの人形師は人形使いじゃない。」

シーヌの断言に、グラウたちは驚いたような雰囲気を見せる。グレゴリーが伝えたアスハの伝言は、きっとこのことなのだろう。

「『死ねばただの屍』と“永久の魔女”は言った。……だが、それはダメだろうが!!」

屍を人形として使う人形師に、シーヌの怒りは頂点に達していた。




「あれは、許さない。」

「ふざけるな!何という……なんという!」

それらは怒りで声を失っていた。それらは怒りで目的を忘れそうになっていた。

「やめんか!シーヌを助けるんじゃろうが!!」

それらのうちの一人が、彼らの怒りに活を入れた。

「悪いのは、私だ。私が責任を取ろう。」

「みんなで支えているこれを、あなたが一人で?ふざけないで、出来るわけがない。」

「何、これでも童話に出る魔女だ出来る……やって見せる。だから、今は怒りを抑えろ。」

「……わかったわ。ごめんね、魔女。」

それらもまた、その光景は許せないようだった。

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