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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
歴代の人形師
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妊娠報告

 ベッドの上から外を眺めるティキは、憂鬱に一つ、息を吐いた。

「ずっと籠ってたら体こわすぜ、ティキ。」

シーヌは買い物に外に出た。ついでに、剣付きの杖がないか探しに行く、とも言っていた。


 シーヌは杖がなくても魔法が使える。それでも、杖を使わずに魔法を使い続けるには集中力と想像力が高い水準で必要だ。シーヌは極力、余計な力を使いたくないのだろう。

 次に行くのはアテスロイの町、復讐敵は“殺戮将軍”と“覇道参謀”だ。シーヌ曰く、“覇道参謀”はそこまで脅威ではない、問題は“殺戮将軍”だ、らしい。

 何が問題なのか、という問いに対して、シーヌはとても分かりやすく答えた。『個人の戦闘技術の優れた“奇跡”保持者だ』と。


 “奇跡”という概念は、出来ないことを出来る方法を導き出したり、失敗しないように教えてくれたりするものだ。少なくとも、シーヌの“奇跡”は、復讐を果たしたという未来が復讐をしていない現在に干渉することで、復讐を成し遂げる、そういった未来の線を視界に映すものらしい。

 シーヌは、クロウから逃げた後、ドラッドと戦ったとき……それら以上に選択肢が増えていると言っていた。それは、シーヌの身体能力や戦闘技術が上がり、出来る動きが増えたからだという。


 事実であれば、“奇跡”によって未来を選択するとき、出来る動きは個人の能力に準じることになる……個人の技術が高い方が、より“奇跡”の概念を引き出せることになる。

「少なくとも、近接戦闘のために剣を新調したい。叩き割られないように。」

そう言っていたシーヌの目は、大真面目に剣を割られることを想定していた目だった、と思う。


 そんな回想をしながら、もう一度窓の外を見る。新政権に代わって、人々の動きは小さくなった。村々で法律の徹底やこれからの生活の順応に忙しいのだろう。

「お前は外には出ないのか?」

「出たら色んな人に捕まりますよ。」

ティキの活躍は、もう国民たちの知るところだ。英雄を見つけたら、彼らは決してティキを離しはしないだろう。必死で武勇伝を話すようせがまれるはずだ。

 それだけではない。主権を貴族に返還させる行為は、ティキが主導で行っていた……それを察している人間がごく一部いて、ティキを恨んでいる人すらいるのだ。シーヌは人相を知られていないから動き回れるが、ティキはこの国では動き回りすぎてしまった。下手に城から外へは出られない。


 それだけではない。ティキとしては、動けない理由があった。

「……やっぱりか。」

「予想はしていたんですね。ええ、その通りです。」

ティキは動けない。動いてもいいが、大きな動きは決してできない。流れてしまっては困るのだ。

「……アテスロイへは、私がついていく。」

ティキを護るようにずっとついている男が、そういった。

「いや、父さんは普通に足手まといじゃねぇ?」

「だろうな。だが、シーヌ一人で“救道の勇者”と“覇道参謀”は同時に相手できんだろう。」

オデイアの答えに、そりゃそうかとチェガも肩をすくめる。


「“覇道参謀”なら何とかなるか。でもよ、シキノ傭兵団は解散したんだろ?」

「ああ。解散した。だから、ここから先は俺の我儘だ。」

元々我儘で来てんじゃねぇか、とチェガはぼやく。とはいえ、チェガがそれ以上、オデイアの動向について言うことは出来ない。

「俺は悪い。行けねぇ。」

「大丈夫、チェガとティキがいなくても、何とかするさ。」

杖と剣を帯びたシーヌが部屋に入ってくる。“転移”だろう。ということは、オデイアが口を開いた辺りから聞いていたのだろうか。

「そうだ、シーヌ。お前しばらくここにいるんだよな?」

「うん、そうするつもり。どうしたの?」


急な話題転換に、シーヌは驚いたようだ。ティキは「本当に大丈夫?」と言おうとした口を、半ば強引に引っ込める。

「じゃあよ、ケルシュトイル本国に行ったらどうだ?ティキもお前も疲れてんだろうけど、ここじゃ回復しねぇだろう。」

人が多い。ずっとティキと会おうとみんなが寄ってくる。

「だね。跳ぼう……」

「やめておけ。リーヴァと馬車、返すぜ。あれに乗って行けよ。」

チェガの言葉にシーヌは目を丸くする。同時に、“転移”を止められたことで、それを控えた方がいい事態が起きていることを推測する。

 シーヌの目がティキを向いた。確かに、ティキはここ3週間ほど、動き回るのをやめている。外に出ないのは、人ごみに揉まれないためであると同時に、人ごみに揉まれることでお腹に過剰な衝撃が来るのを避けるためだ。

「まさか……。」

チェガやミラ、クロムたちでさえ気づいていたのに、気付いていなかったんだとティキは微かに笑う。


 だが、おそらく仕方がないことだろう。彼の人付き合いでは、女性と、というよりチェガやアスハ以外の人と私的に付き合いがあったのは、六歳までだろうから。

「えぇ。子供が。あなたの子です。」

シーヌは目を左右に揺らした。予想外だと言いたげに、あり得ないと言いそうな。

「お、おめでとう?」

自分の子と言われて、実感がないシーヌは、まるで他人事のようにそう言って、逃げるように外に出た。

「まぁ、そうなるよね。」

ティキはわかっていたと言いたげに息をつく。シーヌに子供は……復讐鬼に子供は、確かに想像が出来やしない。

「ありゃま。……でもよ、俺は助かったと思う。」


チェガが逃げていったシーヌの背を見ながら、呟いた。

 その言葉に、ティキもオデイアも微かに頷く。シーヌの子だ。シーヌの、ティキの。

「これで多分、シーヌは死ねない。」

まだ自殺に焦がれているところがある。シーヌは、強制的に生きる理由を押し付けないと、どこかに行ってしまいそうで。

「間に合って、よかった。」

それがティキ達の、素直な感想だった。

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