表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
歴代の人形師
227/314

訪問者たち

 メリクリックはケルシュトイル公国ベリンディスを訪問して、しばらく稼業は控えることを決意した。

 政権の変化、主権の交代、それに伴う政治体制の変更。上層陣も忙しそうだったが、国民たちも余裕がないことを見て取ったためだ。

「北の方を訪問しようか。」

ケルシュトイル公国、公都ケルシュトイル。そちらへの遠征を、彼は決めた。




 デリアは、西の方で大きな戦争があったという報告を聞いた。

「死んだのは、“災厄の傭兵”、“災厄の巫女”、“連合の大壁”、“破魔の戦士”、“群竜の王”。」

その5人のうち、4人が『歯止めなき暴虐事件』に参加している。考えるまでもなく、シーヌの仕業だろう。

「今はケルシュトイルにいるはずだ。戦争の責任を考えるなら、あと2週間は留まり続ける。」

やれることは、一つだった。

「アリス。」

「私も行くわ。」

「俺も行きますわ、っと。」

アゲーティル=グラウ=スティーティアも、同行を申し出る。


 もう時間がないのはわかりきっていた。父もフェニ様も、もう国からの援助を切られている。

 シーヌは確か、ネスティア王国の方へと馬車を出したはずだ。“黒金の天使”死の報を聞くに、順当に西からこちらへ向けて進んできたのだろう。

 そういえば、と思う。冒険者組合商業都市ミッセン。あの近くに、クロウの跡地があっまはずだ。冒険者組合直轄地の目と鼻の先にあるがゆえに、どの国にも属せなかった哀れな国が。

「彼らはそこへ行ったのだろうか?」

行ってないだろうと確信しつつも、ぼやく。


 シーヌは復讐だけを考えているだろう。感傷は全て終えた後、と言われてもデリアはそこまで驚かない。

 だが、デリアにも意地があった。とにかく、まずはシーヌと再会することから始めようと決意する。

「ケルシュトイル公国。まだいてくれ、シーヌ……!」

デリアは、一縷の望みに託して馬を駆る。


 彼は何としてでも、父、“殺戮将軍”ウォルニア=アデス=シャルラッハとその盟友“覇道参謀”フェニ=ミーティス=ククロニャを救うべく、動き出さねばならなかった。




 最後の町アテスロイ。エリトック帝国の1地方。

 デリアが馬で駆けていったと、彼の父は聞いた。

「本当に、終わりが近いようだ、友よ。」

「殺させませんよ。将軍は。」

瞳を閉じて、じっと遠くを見つめながら、ウォルニアはその言葉に、大きく否定するように首を振った。期待していない、といった様相ではない。期待したくない、という方が正しいような首振りだ。

「デリアの説得で足が止まるなら、とっくに復讐の旅路は終えているだろう。」

「しかし、将軍が死ぬのは……。」

フェニはそこで口を噤む。損失だとわかっているのは彼だけだ。既に国はウォルニアを見捨てた。生きているのは、これまでの功績という温情に過ぎない。


 おそらく、デリアも承知している。もはや勇者出なくなった父を生かしておく理由は、本当はないのだと、心の底から理解しているだろう。

 それでも、父を想う息子は父を生かそうと躍起になる。同じか、それ以上の執念が、復讐鬼の報に宿っていることなど承知の上で、無視した上で。

 剣を、握る。1年で実力の伸びた息子は、実力でシーヌを止めることすら視野に入れているだろう。だが、多くの強者たち、復讐敵たちと争い続けたシーヌが、デリアより弱い可能性は、ほとんど皆無だと知っている。

「デリアとアリスの成長を、私は促そうと思っている。」

その言葉が、何より強くフェニの心に突き刺さった。子を想う父の心は、フェニはわからない。アリスとて、成長してから引き取った姪に過ぎないのだ。親心は、フェニはわからない。


「お覚悟をお決めなら、もう私は何も申しません。」

死ぬ。それだけはもう譲れないのだろうと、それだけは何より強くフェニにはわかっていた。決めたことを貫き通す人であることは、誰よりもフェニが知っている。

「私もお付き合いいたしましょう。」

主がそうなら、自分も付き合おう。フェニはすっと、そうして生きている。

「悪いな。」

「いえ、いつものことです。」

主従は、息子たちが帰ってくることを……自分たちの死神がここを訪れることを、じっと、待っていた。




「ふむ……公演させてほしい、と?」

「は!私、“歴代の人形師”メリクリックが代々受け継ぎし、等身大の人形劇をお見せいたしましょう!!」

「演目を絞れ。それ次第で認めてやる。」

「ええ、ええ。もちろん、決めております!『勇者下克上』『天使の竜狩り』『神龍伝説』で如何でしょう!」

それは、国民に広く普及している童話であった。些か不味いタイトルがあるが、それも『なぜか』を聞かれると、公王は返答することが出来ないほど、人気のある童話だ。

「……承知した。ただし、それを人形劇で行うのであれば、広場では手狭であろう。城外で行うがいい。」

王は許可を出すしかない。


 人形師は、笑顔でそれを聞いて、興業の準備を始めるといった。今は、戦勝気分だった分、そういう輩が国には増えていた。

「金は落とす。ゆえに何も批判は出来ん……。」

それが波乱になるとおおよそ感じながらも、王は大きく息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ