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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
戦災の神山(後編)
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最終決戦の終了

 既に何人斬ったか覚えていない。オデイアは、己の気力が限界近いことを理解していた。

 ティキのサポートのおかげで、シキノ傭兵団は戦場を維持することが出来ている。しかし、時間の問題であることは明白だった。

「まだか、シーヌ!」

跳躍、からの振り下ろし。着地した足を軸に半回転、後ろからオデイアを討とうとしていた兵士を薙ぎ捨てる。


 シーヌがビデールを討つことができれば、連合軍は勝てる。既に混乱の最中にある戦場、ティキの支援によって散り散りにされつつある軍隊。

 最強の指揮官の討伐がなれば、その時点で新生グディネ竜帝国軍は滅びる。オデイアは、オデイアたちはそれを信じて、辛うじて戦線を維持していた。


 遥か彼方で乱舞していた光が、少しずつ収まっていく。そして。


 敵中枢から、わずかずつ、しかし確実に、グディネ軍の潰走しはじめる。自分だけは逃げようと足掻きながら、方向も定めず走り続ける。

 それも当然だ。ビデールから解き放たれた中位相当の竜たちが、自らを閉じ込めたビデールという男、そいつが責任を持つ新生グディネ竜帝国を滅ぼさんと飛び回る。




 ビデールの本領は、その竜を指揮下に起き、敵を蹂躙させることであった。

 最悪の彼の決断として。ビデールは、自身の軍を置物として放置し、竜たちによる蹂躙劇を予定していた。

 というより、彼が常に軍の運営で安全第一に、奇策に頼らない戦争をし続けられた理由として、全て捨て去ってなお勝てるという自負があったからだ。


 ピリオネのいるアストラストには、それでも被害が大きかった。バルデス、メラーゼのいるブランディカ相手でも、被害を度外視できるような戦争はやりたくなかった。

 言い換えるなら。彼一人いたのなら、被害を無視すれば致命的な打撃を与えられたということに他ならない。ビデールの指揮下の竜たちには、それだけの価値があったという事実に他ならない。


 そしてそれが、ビデールを失ったグディネ軍に向けられるとするのなら。グディネ軍は、滅びる以外に道を持っていなかった。




 一頭の地竜が、オデイアの方向を向けて駆けていた。軍は敗走を開始し、しかし後ろに竜を、前にシキノ傭兵団を置くために逃げ道がない。

 死に物狂いで襲いかかってくる兵士たちを、オデイアたちもまた、死に物狂いで応戦するなかで、暴れまわる地竜がオデイアたちに牙を向いたのだ。

「全傭兵、散会!」

オデイアの指示に、傭兵たちは応えるように広がっていく。

「奥義!氷柱戦場!!」

周囲から、氷が生える。氷が広がり、氷が厚みを増していく。


 オデイアと竜の、一騎討ちの戦場が作り上げられる。敵兵がそこに逃げ込むだけの隙間は作らず、また味方が彼を助ける余裕も作らない。

 兵士たちは、まるで傭兵たちの前に並ぶかのような道を作られている。兵士たちは、押し掛ける兵士たちを、一対一で相手し続ける環境に押し込められる。

「竜よ。俺が相手だ。」

剣を、構えた。元より、憂さ晴らしにグディネを攻撃する獣である。どんな気まぐれで自軍にちょっかいを仕掛けてくるか、警戒している節自体はあったのだ。


 竜が己と相対することになった、など。

 グディネと敵対していた以上、オデイアにとって特別予想外なことではない。

 オデイアは戦争での勝利へ向けて、竜へと剣を向け、飛びかかった。




 グディネ軍が、一目散に国へ帰ろうと逃げていく。

 ビデールが討たれた、その情報はティキが大々的に知らせ、またビデールの指揮下だった竜たちがグディネ軍へ牙を向いたことで、その情報は確かなものとなった。


 ミスラネイアに向かう竜はいない。そんな竜は一匹残らず、ティキが瞬時に始末した。

「突撃!突撃!!」

フローラ王女は、兎に角声を上げ続けた。彼女を指揮官と見抜いた兵士が躍りかかり、一刀の元に斬り捨てられる。

「一人でも敵を殺せ!グディネの精鋭を、一兵たりとも取り逃がすな!」

フローラの叫びに、兵士たちは、呼応して突撃を続けている。


 一万に満たないミスラネイアぐんの戦果は、この時点で一万を越える。

「恐ろしい指揮だな、本当に。」

フローラは呆れたように息を一つ。


 この筋書きを、ティキという少女が一人で書いた、など……その目で見なければ、彼女は決して、信じようとはしなかったろう。

 だが、だからこそ。

「ミスラネイアは、決してティキ=ブラウには逆らうまい。」

そうして、冒険者組合員たちへの偉伝は、形作られていく。




 4か国軍は、比較的敵が逃げてくる数が少なかった。

 グディネから遠くなるゆえに、兵士たちはそちらに向かわない。そして、故郷からも遠くなるゆえに、竜たちもそちらに向かわない。

「楽だなぁ。」

4国二万数千人の連合は、ほぼ同数の敵を討ち滅ぼすだけで戦争を終えた。

「仕方なかろう。ブランディカでそれなりに戦果は挙げた。国としては十分だ。」

アルゴスの言葉に同意するように、エル、フェルも頷いて。


 ワルテリー、ケムニス、クティック、ニアスは、撤退を開始した。




 最も竜の襲撃数が多いのは、ケルシュトイル公国軍だった。

 シーヌはそこまで竜の相手はしていない。復讐を果たした感慨を、わずかに見せているだけだった。


 だが、従属していたとはいえ、自分たちを指揮していた……自分たちより上位存在であるビデールを殺した男に、手を出そうとする獣はいない。

 シーヌに攻撃するのは、ビデールに心酔しているような上級将校たち……シーヌにとっては取るに足らないような、無意識で殺せるような敵たちのみであった。


 そして。前線の竜はティキに処分され、中央の竜はシーヌを無視して後方へと向かう。

 そしてその煽りを受けるのが、逃げ道を塞ぐケルシュトイル公国軍、その中でも一際異彩を放つ実力者、チェガであった。

「シーヌとティキめ!覚えていやがれ!」

罵りながら、槍をひたすら投擲する。一擲で一頭、竜を仕留めるその姿に、竜だけではなくグディネ軍も足を止める。


 その隙を、ミラは容赦なく突きにかかった。ケルシュトイル軍は、チェガの強さに腰が抜けるグディネ軍を、何の躊躇いもなく蹴散らしていく。

「斬り捨てよ!今こそ我らの鬱憤を晴らすとき!」

同盟の味方が戦果を挙げ続けるなか、グディネに守られぬくぬくと戦い続けたケルシュトイルの鬱憤は、尋常なものではない。


 今こそ!というかのように敵に躍りかかるケルシュトイル公国軍は、チェガに守られているという恩恵もあって、決して落ちぬ勢いで突撃を続ける。

「はあぁぁぁ!」

最後の一頭の飛竜。それに向けて、チェガが氷の槍を放ち終えた時。


 20万以上いた新生グディネ竜帝国軍の生き残りは、既に一万を切っていた。

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