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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
戦災の神山(後編)
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連合軍の野戦

 アルゴス=アレイは優秀な戦士である。しかし、目の前の光景は、戦士としては予想外のものだった。


 重装歩兵は、遅い。こちらに三万の軍勢が向かっていると聞いた時、クティック軍は即座に反転、近づいている軍隊と正面衝突、しなかった。

 城から援軍が出ることが出来ないような、荒野。城から騎馬で半日、重装歩兵で丸一日かけるような距離で、二軍は相対し、にらみ合うまなく激突した。


 クティックの騎馬隊は、敵の矢が届かない距離で転進。包囲するように部隊が二つに割け、敵の注意が二つに向く。

「放て!」

最初の指示。呼応するように、馬に乗った魔法兵のうち、三割ほどが炎を放つ。それは、アルゴスの指揮出来ないもう一部隊も同様だった。


 馬を駆る兵士たちは、ただ前を、そしてブランディカ軍との距離だけを意識しながら駆ける。それさえすれば、魔法兵たちがこの苦行を終わらせると信じて、大国の押しよせるプレッシャーにひたすら耐える。

 一撃目が、敵に触れるほど近づいた。

「放て!!」

次の魔法兵が、魔法を放つ。ブランディカへまっすぐ、その先。


 一人、馬を駆り続ける兵が気付いた。敵の最前線で、真正面から炎を受け止めた兵士が崩れ落ちたのを。

 それが、彼らの、プレッシャーに抗う力を、増幅させた。

 きっとやってくれると信じることと、目の前で実演されることは、兵士たちの心理に大きな差がある。元より、別の国の軍隊だ。互いを信用しても、信頼など出来はしない。

「勝てる!勝てるぞ!!」

一人の兵士が叫ぶ。士気が上がった兵たちが、息を合わせたように歓声を上げる。それに負けないように、アルゴスは再度叫んだ。

「放てぇぇぇぇ!!!」

三度目の炎。それが放たれたとき、二度目の着弾。


 騎兵たち、騎馬たちの脚がわずかに落ちる。それを叱咤するように、アルゴスは前へと駆ける。

 別れたもう一つの騎兵とすれ違った。両者に声が届くようになってから、アルゴスは叫ぶ。

「決して脚を止めるな!回り続け、撃ち続けろ!間合いの利は我らにある。攻めろ、攻めろ!」

騎馬たちの馬脚が早まる。こちらへと、馬の軌道を呼んで突撃しようとする兵が数百。

「狙え、撃て!!」

しかし、すでに炎は、鎧の内を燃やしている。ただですら重い鎧、脱ぐのは容易でなく、鉄であるがゆえに一度熱されてしまえば簡単には冷えない。都合三度熱された鎧の中は、下手な砂漠に閉じ込められるよりも人体に悪い環境になっている。そこに、追撃のように4撃目が当てられた。


 力尽きたように、鉄の塊が崩れ落ちる。まだ敵は多いものの、最初の数百が崩れたことで勢いづいたクティック軍と、無敗を誇る軍で早々に脱落者が出たブランディカ軍では、明確な差が出始める。

 クティック軍はより強気に。魔法の威力も心なしか上昇し、勝てるという自負がそのまま敵に向き合う姿勢に顕著に出る。

 対するブランディカ軍は、逃げ腰に。自分が蒸し焼きになる姿を想像し、軍全体が次の一歩を躊躇する。


 しかし、それでもブランディカは止まらない、止まれない。

 小国クティック。自分たちを既に2週間近く拘束することに成功している連合軍のうち一つ。されども、ブランディカにとっては蠅でしかない。

「蠅のために歩みは止めぬ、と。放て!!」

撃ち放たれる炎。少しだけ崩れた陣、そして、馬と鎧の移動速度。


 クティックはわずかずつ、しかし確実に確実に敵を殺し続け。

 クティック軍は、ブランディカの重装歩兵を、半日かけて、しかし3万全てを殺しつくした。




 同じような光景が、ブランディカ国内で三ヵ所、同時に起きた。もちろん、中には魔法を扱って、見事に迎撃するような兵士もいた。

 3万人の中に、千人弱は、そういう人物だった。だが、それでも彼らは全滅の道を免れ得ることがなかった。


 理由は単純である。一つは、『誰』が基礎的な魔法を迎撃できるのか、指揮官が把握していなかったこと。

 一つは、敵が動き回る騎馬隊であったこと。どれほどうまく魔法を扱おうとも、シーヌやティキ、あるいはエルやフェルのように手練れでない以上、動き回る騎馬隊が放つ魔法攻撃をすべて迎撃することは不可能だ。

 結果として、ブランディカ軍は、小国家連合軍に完全敗北し、一兵たりとも本隊に戻ることはなかった。




 狂乱が、山に木霊する。

 兵士は全てが出払った。ここにいるのは、東でグディネと相対するベリンディス、ミスラネイアの両国と、たった四頭の神獣、かつての『シキノ傭兵団』。

 そして、ティキ=ブラウだけであったはずだ。


 そして、敷かれているはずの多くの罠が、ブランディカを出迎える。メラーゼはそう読んでいた。ゆえに、罠を探り、解除して、一歩一歩時間をかけてここまで登ってきていたのだ。

 まさか、“転移”の使い手がいるとは聞いていなかった。それらが、背後に神獣を呼び出し、彼らを追い立てるとは思ってもいなかった。

 もちろん、全員で足を止め、もはや13万ほどまで減った兵士たちで、神獣を迎撃する。


 勝てる、戦だった。遠間から放たれる、悪あがきのような投石攻撃も、たまに被害は出ていたものの、戦局を変えるほどのものではないと考えていた。

「メラーゼ様!……申し訳ありません、完全に、閉じ込められました。」

彼は、ティキ=ブラウの力量を、過小評価していなかった、はずだった。


 ここは、山の中腹。四頭の神獣たちは既に命を落とし、もはや投石攻撃すらも飛んでは来ない。

 しかし、メラーゼは敗北を確信した。

 そこは、ティキが魔法で生み出した巨大で透明な箱の中だった。そして、その中は、密閉空間であり。

 自然あふれる山の中、紅い炎が、轟々と音を立ててブランディカ軍を囲んでいた。


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