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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
荒野の政治家
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七ヵ国作戦説明

 この七ヵ国同盟、ティキが目論むものは三つある。

 正式には、絶対かなえなければならない目標と、叶える必要性を覚えている状態と、自分が招き入れた問題がある。

 一つ。ティキ=ブラウは、必ず、四人の復讐敵をシーヌに討たせる機会を作らなければならない。

 一つ。賢民主義、民主主義を謳う馬鹿国家ベリンディスの粛清と崩壊。

 そして最後にもう一つ。そのために招き寄せた七国家を、三大国に勝たせること。


 この目的を果たすために、ティキは完全に思考を重ねていた。

「……ベリンディス、ミスラネイア。」

「なんでしょう?」

「出来ますね?」

それはさながら悪魔の笑み。そして、その笑みをみた二国の代表は、コクコクと頷いて同意を示す。

「だが、ティキ=ブラウ。」

「どうしましたか、ブラス=アレイ。」

「どうしてこの資料に、ケルシュトイル公国の名がない?」

それは、ミスラネイアの首脳陣も思っていたことだった。いや、ここにいる、ベリンディス以外の全国家が思っていたと言ってもいい。


 その問いに対する答え。返ってくる反論や批判。ティキはそのおおよそを、予測し終えている。

「ケルシュトイル公国の軍は、後で来ます。新生グディネ竜帝国と共に。」

「それは、ケルシュトイルは敵だと言っているようなものではないか!」

ティキはその安直な考えに呆れて冷めた視線を送る。

「アルゴス=アレイ将軍。お付きの者の頭は大丈夫ですか?」

「まぁまぁ。馬鹿から見たらだれでもそう見えるって。」

「その馬鹿を公式の場に連れてくることに異議を申し立てているのですが。」

「やりやすいでしょ?」

これほどイライラする会話は、それはそれで初めてだな、とティキは思う。


 この男は、司会や相手の本心を晒させるために、そして議論の場に爆弾を仕込むために、こんな者を連れ歩いている。

 その男といえば、何を言っているっかわからない、というように首を傾げた上で、続けた。

「で、どうしてケルシュトイル公国が裏切っているのは確定しているのに、そこに代表がいるんです?」

「逆に、どうしてケルシュトイル公国が裏切っているなら彼がここにいるわけがないでしょう。」

同盟を組んだら必ずともに行動しなければならないとでも思っているのだろうか。馬鹿な男、とティキは憐れみ、

「ベリンディス、ミスラネイア。ケルシュトイルが何をしようとしているか、分かっていますよね?」

「ああ、挟撃だろう?裏切りの。」

「はい。立地の都合があるのは、分かりますか?」

「俺はそんなことを聞いているんじゃない!!」

「ちゃんと説明したらどうだ!!」

ニアスとクティックの代表の護衛役がほとんど同時に声を荒げる。それはワルテリーとケムニスも同様。


 ああ、一からの説明か、とティキは呆れて息を吐いた。

「まず、この小七ヵ国同盟。これらの国力、軍事力では、三大国のどれを相手取っても、勝てません。理由はわかりますか?」

「戦争から離れていたからですわ。」

ティキの問いに、エルが答える。正解、というように頷いて、ティキはさらに説明を続ける。

「外に外に領土を拡げ、戦争が出来ていた三大国と違い、我々に戦争の経験はない。つまり、戦場に出たときの足手まといが増えるということです。」

人殺しすらしたことのない兵が多い。それがどれだけおかしなことか、さすがにそれくらいは軍に携わるものでなくてもわかる。


 続いて、練度が低い。実戦で得た経験から調練を繰り返してきた三大国と、神獣たちに宣戦布告ととらえられることを恐れ、最低限度の調練しかしてこなかった小国では、明らかに練度が違う。

 そして、団結力。圧倒的カリスマ、実績に裏打ちされた実力、そして何より、王権に与えられた確固とした立場。

 それらを併せ持った指揮官相手に、烏合の衆が、『冒険者組合員』や“災厄の傭兵”というカリスマを持ち込んだだけでは勝ち目がない。

「策は弄してこそ、策といいます。」

敗戦予告、どん詰まりであることを説明してから、逆に打開策を提示する。

「まず、新生グディネ竜帝国。彼らには、ケルシュトイル公国軍が背後を突きます。」

裏切りという形をもって。さらりとティキがそう言うと、一瞬場が沈黙する。


 だが、それで納得する彼らではない。逆に裏切られる可能性を十分に考えている。

 烏合の衆の弊害。ここにいる誰もかれもが、本当に味方であると、誰も思っていないのだ。

「ケルシュトイル公国の指揮官、ミラ=ククルの元には、ちゃんと監視役がいますよ。」

ザワリ。さらに場が揺らぐ。

「ここにいる“凍傷の魔剣士”オデイア=ゴノリック=ディーダが息、チェガ=ディーダ。ケルシュトイル公国にて、指揮官の護衛として、私を裏切ったら彼女を斬る役割を担っています。そしてもう一つ。……彼は、その父より、強い。」

監視役の方が殺されたらどうする!と叫びそうになっていたニアスの護衛は、最後の一言で沈黙した。


 この場に、“凍傷の魔剣士”を相手取って確実に勝てると断言できる人間は、二人しかいない。冒険者組合員ティキ=ブラウと、“災厄の傭兵”マルス=グディーのみだ。

 アレイ兄妹やベリンディス元帥ブレディ、ワルテリー代表エルとケムニス代表フェル。彼らなら、いい勝負だろうが、勝率で言うなら五分五分だ。

「わかりましたか?……もう一つだけ断言するならば。ケルシュトイル代表エムラス=ニカロス=キッティー。彼も、人質です。」

「奴に人質になる価値が」

「もうやめろ、アヅル。お前は“搾取外相”を知らないから、そう言えるのだ。」

アヅルという名の、ニアスの護衛をブラスが止める。“搾取外相”。一度大国アストラストから、原価すれすれで食材を買いたたき、職人を何人か引っこ抜き、あげくとんでもない高額で商品を売りさばき、ケルシュトイルの落ちかけた経済を叩き直した化け物外交官として名を挙げた、エムラスの二つ名。

「人質どころか、怪物だ。今は様子見だから気にしていないが、気を抜くと身ぐるみはがされるぞ。」

物騒なことを言うな、とティキは思う。だが、その通り。


 ここにいる中でティキが最も警戒し、だが最も信頼しているのが、エムラスだ。

 確実に、上手く、ケルシュトイルのためになるように動く。エムラスをそう判断しているからこそ、ティキはここではっきりと、人を騙せるのだから。

「ケルシュトイル公国は向こうもこちらも質がいる状況です。裏切りはしません。その上で、ベリンディスが守勢を作り、その第一線を“災厄の傭兵”と私が守り、ケルシュトイルの攻撃を待ってミスラネイアに突撃させます。」

国家間の連携がないのならば、国家間で役割をきっちり分けてしまおう。それがティキの判断だった。


 それとは別に、復讐として、最初に“災厄の傭兵”が死ぬ。防衛線の要は彼だ。彼が死ねば、ベリンディスは大きな打撃を受けるだろう。

「ゆえに、残り四国の役割は、場所が変わって西側です。」

シーヌの存在は隠している。ティキはベリンディス、および東側戦線の崩壊については言及せずに、東側の話題を打ち切らせた。


 とはいえ、悩むのはクティックとニアスの配置だ。

 指揮官がアレイ兄弟である以上、ティキは最大限に警戒しておかなければならない。

 ドラッドを殺したのがシーヌだとバレているのか。裏切る気があるのか。何よりティキが恐れているのは、『兄弟が別々の国に仕えている』という一事。

 両者の間で、ティキを裏切る未来が確定していたのなら困る。ティキの体は一つしかなく、使える手駒は限られている。あまり、余計な手を仕込みたくはない。


 ティキは、意識の中だけでエルとフェルのことを考える。彼女らも久しぶりの再会だろう。じっくりと話をさせてあげたいという想いはティキにもある。

「まず、はっきり言います。アストラストの軍とブランディカの軍に関しては、正面衝突を最初は避けます。」

全員の頭に疑問符が浮かぶ。正面衝突を避けるということは、即ちどういうことか。測りかねているのだ。

「まず最初に伝える情報です。“災厄の傭兵”を私は雇いましたが、彼はグディネを打ち倒すまでという契約で雇っています。」

なぜ、とさらに全員に疑問符が浮かびなおされる。


 ティキはそんな彼らを見回しつつ、どう転ぶだろうかと少しだけ怯える気持ちを抑えて言った。

「“災厄の傭兵”は、“災厄の巫女”の弟です。ゆえに彼は、アストラストに弓を引けない。」

だが、迎えたのはただの沈黙。当然だろう。さきほどケルシュトイルのことでしてやられたところだ。今から反論しても、彼女に論破されるなら意味がない。

「ゆえに彼には、アストラストにこう伝えてもらいました。『グディネは俺たちがやる。姉貴はブランディカとやってくれ。』と。」

その言葉の意味が浸透するまでに、多少時間がかかった。その後、フェルが代表して、ティキに問いかける。

「つまり、ティキ様は……“災厄の傭兵”“災厄の巫女”のいるアストラストを、六国で迎撃する、と?」

「いいえ。ケルシュトイルと、そしてそこに護衛についていたオデイアの息子が帰ってきます。七国で、が正解ですね。」

無理だ。そう彼女の目にありありと浮かんでいた。

「そもそも勘違いをしていますよ。」

ティキは微笑みながら、言う。


 そう、勘違い。

「まず、アストラストと私たちは戦うでしょう。」

その言葉に、絶望うにくれた彼らの顔がさらに一段と引き攣る。

「しかし、それはブランディカと戦った後です。」

その言葉に、軍にいたものも含めて全員が、引き攣ったまま疑問符を浮かべる。

「アストラストはブランディカとの戦争で消耗する。消耗した大国と、私たち七国家です。」

正確には、六国家。そのころにはベリンディスは、戦える様相ではないはずだ。


 その言葉が、エムラス、フェル、エルの心に響いてくるようだった。そしてそのころには、きっと“災厄の傭兵”はいない。

「四国家、ケムニス、クティック、ニアス、ワルテリーの役割は、アストラストを勝たせることです。そのための支援を、行うことです。」

さじ加減が難しい戦いになる、ティキはそう知っている。

「アストラストの被害を減らさないようにしながらも、アストラストを勝たせる。ニアスとケムニス、クティックとワルテリーで組んで、そうしてください。」


 絶望に浸っていた顔が、希望を見つけて明るくなる。それなら連戦でもなんとかなりそううだ、と全員が希望に満ちた顔をする。

「……アレイ兄弟。私はあなたたちの裏切りを恐れています。ゆえに、ケムニスとワルテリー、そして元『シキノ傭兵団』の中から数名ずつ、両国に送ります。」

「……絆を鑑見れば、誰でもそうするだろう。了承した。だが、叔父上は……“凍傷の魔剣士”は、どこに配置するのだ?」

「彼は私の直属として、私の側に置きます。それなりに強い者が近くにいた方が、私にとって便利なので。」

「はいはーい、りょ~かい。じゃ、これで解散でいい?」

アルゴスの問いかけに、ティキは一面を見回す。異論がないことを確認すると、ティキは打ち切るように言った。


「ここは、防衛拠点ではない。私は最初にそう言いました。理由は非常に簡単です。……この地は防御より、攻めに使うに適した土地です。ゆえに。」

ティキは軽く目を瞑って。

「勝ちますよ。」

全指揮官が、強く笑った。今この一瞬。『勝つ』という断言の元、全員の心は確かに一致した。


 そう、ティキは、感じた。








「最後に、あなたが残りましたか。」

「ああ、ティキ=ブラウ。教えてくれ。お前は、何を、隠している?」

護衛すらもいなくなった会議室に、女騎士の声は、微かに、震えた。


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