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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
隻脚の魔法士
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想起

今回は多少短いです。

 楽しかった。俺があの日の三日前、クロウの街の騎士団を皆殺しにしたときに思ったことだ。

 あの騎士団は精強だった。そして、弱かった。俺たちは傭兵団の半数をこそ失ったが……強かったから、勝った。


 勝者が敗者に送るべき言葉は、お前は弱かった、その一言だ。

 それでも、正しい評価も送るべきだと、内心思う。

 だから、心の中で弔いの言葉を紡いだ。

 魔法の肉体強化の精度も一流。

 その振るう剣は正確。

 その剣の技量は、特筆に値した。


 勝ったのは、お前たちが俺たちよりも弱かったから。それだけが理由なのだ。

「あいつらへの敬意を持て。あれほど強かった騎士団に、贈り物をしよう。」

俺は自分の傭兵団に言った。愛すべき部下たちは、その意図を正確に読み取ってくれた。

「後を追う仲間を作ってやれ!」

「あの街の人間は、皆殺しだぁ!」

この敬意の示し方に納得いかない男も一人いて、そいつは俺たちがその街へ突撃する前に、傭兵団から抜けていった。

 名前を、オデイア=ゴノリック=ディーダ。俺の、義姉の夫に当たる人。


 まあ、いい。あいつは強者だったが、それゆえにいくらでも身を立てられるだろう。俺の手助けは、まあいるまい。

 俺は部下の面倒見はいいのだ。




 突撃した。あの騎士団の弔いは、仲間の血であるべきだ。友の命であるべきだ。

 死後の世界で、語らいあう友や恋人がいるべきだ。

 敬意を持つからこそそうした。孤独に寂しく天に召されるのはあまりに不憫な者たちだった。

 俺はそう思って戦った。俺の部下は、きっと殺戮を楽しんでいるだけだろう。

 それでいい。それでいいのだ。人は、そうあるべきなのだ。




 このクロウの街はどうもおかしい。

 女子供も、老人も。強い。強すぎる。この街の騎士団ほどではないものも多かったが、それでも小国の騎士団よりはるかに強い。

 奇跡の研究をする街と聞いたが、そんなものは存在しないはずなのだが。


 これほどの実力の人間が、あと倍はいれば、奇跡に近い行為は起こせるかもしれない。ついついそう思ってしまうような強さだった。

 俺たちは他国の騎士団の突撃と同時に攻撃したのに、十倍どころではない数の差があるはずなのに。

 どうしてこの街の人間の死体よりも、他国の騎士団の死体のほうが多いのだろう。もう、二時間を超える戦闘時間だった。


 襲い掛かってきた少女が、俺の隣の仲間の片腕を魔法で飛ばす。俺の首を抉り飛ばそうと魔法をかける。

「無理だ。概念魔法“信念”名を“無傷”。俺に攻撃など、当てられるものか。」

その日何度目かになるような感激を覚えて少女を見る。


 素晴らしい想念だった。素晴らしい意志力だった。もう少しで、第三の概念魔法に届きうるほどの威力であった。

 しかし、本当に奇跡でも起こさない限り、俺に傷などつけられない。

 敬意を込めて、俺の力を教えてやる。そして普通に首を絞めた。幼女の体から力が抜けた。

 ああ、戦いとはこうでなければ。相手に命を落とされる恐怖をある程度持ちながらも、確実に負けることはない。そういう争いでなければ。

 強者の気配を感じて、俺はまっすぐに歩き出す。

 これでいい、これでいい。全ての強者は、俺に傷一つつけられずに死ねばいい。




 そこにいたのは、病にでもかかっているかのような顔色の強者と、将来性が楽しみな六歳の少年。

 ああ、この二人なら、楽しませてくれるだろう。

「シーヌ!逃げろ!」

「お兄ちゃんは!この人、強いよ!」

「……逃がすと、思うのか?」

実力を見極められるとはこの少年、いったい何をして生きてきたのだろうか。それほどまでに過酷な場所に、身を置き続けてきたとでもいうのだろうか?

「安心しろ、シーヌ。今はこんなんでも、俺は騎士団だぞ。」


どうやら、病が原因で出てこなかった騎士団員のようだ。

「防衛兵団は今、各国の騎士団を追い返すのにいっぱいいっぱいだ。どれだけ強かろうと、一人で五人、打ち倒すのが限度でもあろうな。」

現実を教えてやる。絶望して自棄になった人間を、打ち倒すのがまた、面白い。

「俺の名はギュレイ。クロウ騎士団若手隊長、ギュレイ=ヒンメル=アクレイ!」


ああ、やはりあの騎士団は年齢で所属が分けられていたのか。年が下になるほど実力主義、上になるほどカリスマ主義。うまくできている。

「シキノ傭兵団団長、ドラッド=ファーベ=アレイだ。死合おうか、最後の騎士団!」

シキノ傭兵団と聞いて、ギュレイとシーヌという少年の士気が高まった。この街の現状の、直接の原因を作ったのは、間違いなく騎士団を滅ぼした俺たちだ。

「シーヌ!早まるなよ!」

剣を引っさげた男が叫び声をあげつつ、こちらに踏み込んできた。


 早い。間違いなく、三日前戦った騎士たちよりも少し強い。それより驚いたのは、三つ目の魔法概念を確実に用いていることだ。その性能はわからないが、同じものを扱うものには同じものはわかる。

 こいつは、間違いなく、ほかの騎士団員と一緒にしてはいけない。

 俺と、同格だ。




 ギュレイ=ヒンメル=アクレイ。こいつもまた、弱者だった。俺に傷一つ与えられず、五分ほどの死闘の末、死んだ。

 その最後は失血死。俺の魔法で、直接死んだわけではない。きっと死ぬまでに得た痛みや苦しみは尋常のものではなかっただろう。

 こいつの概念魔法は、俺の“無傷”と同質のものだった。俺は傷を負わない。こいつは傷を負っても倒れない。


 あいつは。狂気を心に負っていたのだろう。そう俺は断言した。どんな傷を負っても立ち上がる。そんなもの、狂気以外の何者であるか。

 傷をおって、倒れない。そんなもの、素晴らしいものじゃない。それは、自傷行為のうちでも一番悪いものだろう。

 ハッとした。もう一人いることを、戦いに溺れて忘れていた。そしてそれを思い出したとき。

 俺の右側は、軽くなっている。グラリ、と体が傾いた。

 ああ、どういうことか!俺は、傷つかないはずだ!そんなことは、奇跡でも起きない限りはあり得ない!

 近くにいた、さっき少女に片腕を切り落とされた部下が、あの小僧を殺そうと追いかけていく。

「覚えていろ、ドラッド=ファーベ=アレイ!俺の名前は、シーヌ=ヒンメルだ!」

小僧が喚きながら、部下との戦闘を始めた。痛みは、しばらくぶりだ、と思う。

「いつか必ず!お前を絶望の底で殺してやる!」

意識を失ったと知ったのは、意識を取り戻してからだった。近くにいた、小僧を負った部下は、死んでいた。




 忘れていた。ああ、忘れていた。傷ついていたことが、だ。さっきの剣の攻撃を避けなかったのも、“無傷”があったからだ。傷つかないと思っていた。

 意識を取り戻したとき、足がなかった。俺がそんなことになるわけがない。そう強く思ったとき、脚が見えた。両脚で地面を踏みしめられた。

 だから、あれは夢だと思った。意識を失っていた間に、俺の依頼主たちだった騎士団は皆とんずらしていて。

 いや、逆に虐殺の罪を被せて罪人として追いかけてきていた。

 逃げて、逃げて、戦って。

 ガラフ傭兵団が依頼を受けて自分たちの拠点に来た時。

 四国の騎士団を追い払い、七つの傭兵団を壊滅させ、三つの盗賊団を皆殺しにした後。疲労困憊した部下たちが、少し休みを欲しがり始めたころだった。

 ああ。そうだ。その忙しさの中で、右脚を失ったことを忘れていって。気が付いたら完全に忘れていて。

 “無傷”のおかげで、傷がつかないのに、どうして足がないなどという噂があったのか。きっと見ていた奴がいたのだ、あの時に、あるいは意識がないときに。




「どうして。」

ドラッド=ファーべ=アレイが口に出す。罪によって家族に縁を切られて、ファーベの姓を失った、右脚のない憐れな男が、重そうに口を開く。

「どうして“無傷”を前に傷をつけられた!」

要塞のような男が、絶望にまみれて口を開いて叫びをあげる。こいつはもうここまでだ。

 部下はまだ、死んでいないらしい。麻痺しているだけだ。

 急に敵対された恨みがある。だからあいつは、助けない。それよりも俺は傭兵団長だ。冒険者組合に所属する男だ。

「仕事はしねぇとなぁ、デリア=シャルラッハ!」

大剣を引き抜いた。ああ、あいつへの恨みは、ドラッドと同じで、憐れな憐れな新婚の復讐者が果たすだろう。




「どうして“無傷”を前に傷をつけられた!」

仇が言う。彼はそれを冷徹に、全く何も表情に浮かべずに言う。

「概念魔法“奇跡”」

奇跡。シーヌがティキに推測という言葉を使っていった、第三の魔法概念のさらに上。

「その区分を“復讐”。冠された名を」

“仇に絶望と死を”。そう、シーヌは冷たく言い放った。


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