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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
荒野の政治家
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七ヵ国会談

 そして時は過ぎ。『神が住み給う山』は中腹、なだらかな斜面と急な斜面の境界。

 元『シキノ傭兵団』達が、ベリンディス王国にいる職人を買い上げて建てた建造物。あの国は、文化に関しては優れたものを持つ。そして文化とは、建築技術のことも指している。

 ……山の中、いくらでも建材を補充できる環境で、そのための人手と、生木を乾かすための魔法が使える者が足りている。

 一ヵ月もあれば、木造の、しかししっかりとした建築物が出来上がるのも当然であった。


 ティキはベリンディスの上層陣が宛がわれた部屋に入っていくのを見た後に、建物周りをじっくり見ていく。

 中心の会議場に向けて作られた八つの道路。その先が各国の部屋になっていて、各国の人物に会うためには中央の会議室を通らねばならず、そこは元シキノ傭兵団が常駐する。


 会議室の北方に、ミスラネイア。北東、ケルシュトイル。東にベリンディス。

 南東、ワルテリー。南西、ケムニス。西、ニアス。北西、クティック。

 そして、南に“災厄の傭兵”、元『シキノ傭兵団』、そして“冒険者組合”。

「うまく作ってくれたわね、職人たちは。」

そう言うと、建物全体に“索敵”をかける。地図に載っていない隠し通路がないか確認するためだ。


 ティキが今この瞬間に最も恐れるのが、裏切り。中でも、複数国家での同時反乱が一番怖い。

「私は全ての手綱を握り切れているわけではない。」

「当たり前だな。一ヵ月で情報統制と頭の悪い『シキノ傭兵団』を使ってここまで持ち込めた、その手腕の方が瞠目ものだ。」

かけられた声に振り返る。“災厄の傭兵”がそこにいた。

「敏腕政治家、といったところだな。その腕で冒険者組合の政務を司るつもりか?」

「あそこで政務はありませんよ。せいぜい財務と各国への脅しくらいです。」

「外交っていうのはマウントの取り合いだ。脅しって言ったら十分な政務だぞ。」

「あなたの口調の変化は素なのですか?」

「ああ。対等として認めた証拠だとでも思ってくれたらいいさ。」

どうせ死ぬのに、と一瞬ティキは思った。それは置いても、シーヌの恨む男に認められても、という気分にもなる。


 そんなティキの思いなど考えもせずに、男は本題に入る。

「この場所にどうしてこれを建てた?」

「どうしてそのようなことを聞くのです?」

男の言うことを、ティキはおおよそ察して、それでも問い返す。

「いいか、ここは守りに向いていない。違うな、この建物の構造が、防御用に出来ていない。」

「知っていますよ、作らせたのは私ですから。」

一応、建物の周りの木々は伐採し、大地に積もった枯葉は取り除き、火攻めをされても建物に引火しないようにはできている。だが、軍との戦闘に耐えられないという点では、間違いなくその通りだ。

「防衛設備はあの柵のみ。山という立地上、包囲されたら終わりで、三方向には各大国。どうやってもこの地で防衛線をするには、せめて櫓の三つは欲しい。」

「ここを防衛拠点にすると誰が言いました、“災厄の傭兵”?」

さらりと述べた重大情報。その意味をわずかに傭兵は考える。


 そんなわずかな時間があれば、ティキはここから立ち去るのに十分だった。話の区切りがついたものと判断し、立ち去ろうと踵を返す。

「……本気で言ってんのか?」

「あなたが傭兵として仕事をしてくれれば、出来るのですよ。」

「姉がお前の予想どうりに動くとでも?言っちゃ悪いが、あの女はそんな一筋縄ではいかねぇぞ。」

「……私は、私の策をすべて話したわけではありません。」

それが、最後だった。ティキは速足でその場を離れる。

「……おいおい、どういうことだよ?」

相手が自分に対して嘘を言っているわけではない。それを状況から予測できるだけに、マルスは『何を』語られていないのかが、恐ろしく感じた。




「お久しぶりです、ティキお姉さま。」

「お会いしたく思っておりました!ティキ様!!」

ワルテリー王国代表、エル=ミリーナ・サチリア伯爵令嬢とケムニス王国代表フェル=アデクト・デコルテ伯爵令嬢。ティキがリュット魔法学園にいたころに交流のあった三人、そのうち二人である。

「……そういえば、そうだったね。」

「はい!ミラ様は公女、私たちは軍人家系の中娘。覚えていらっしゃらなかったのですか?」

「忘れてたよ。自分のことしか余裕がなくて。」

そういうティキの表情は、「どうしよう」という困惑で埋められている。

「私のことは、わかっているね?」

「「何が必要かは、重々に。」」

「うん、じゃあ、また後で。」

ティキは踵を返す。そうして、部屋に戻る道の中で、考えた。

(さて、どう彼女らを配置しましょう……バレなければ、身びいきくらいは許されるでしょうし。)

そういうティキの表情は、苦し気で。だが、知己と会ったことに対する喜びも、その心には確かにあった。




 その後、数日。

「全国家が揃いました。」

議長席に座ったティキの声。その周りに並ぶように座る七人の国家代表と、後ろに並ぶ護衛二名。

 ティキの隣に立つのは、“災厄の傭兵”マルス=グディーと“凍傷の魔剣士”オデイア=グレゴリー=ドスト。

「『小国家七ヵ国同盟』を結ぶにあたって、各国の自己紹介から始めましょう。では、まずは私から。」

この場にどんな目論見が含まれているか、ティキは考えない。ティキがやるのは、『冒険者組合員』の威を借りた、ただの旗頭だ。

「冒険者組合、新米組合員、“神の愛し子”を討ちし者……ティキ=ブラウ。この生存戦争に限り、戦争の種を蒔いた責任を取って、戦うことになった。よろしく頼む。」

目上として、『冒険者組合員』として言葉を紡ぐ。ここにいる全員に、それに対する不満は見られない。


「では、私ですか。ケムニス王国丞相アティカ=ムノリア=アデクト・デコルテ伯爵が娘、フェル=アデクトです。ケムニス王国軍の指揮官として参りました。以降、よろしくお願いします。」

「おいおい、いつから戦場は女子供が出るところになったんだ?」

隣にいる傭兵の声が聞こえた。が、無視だ。

 クロウでの事件でこの男がシーヌの仇になったことを知っている。つまり、女子供関係なく虐殺したうちの一人だということだ。


 あくまで戦場であるということを差し引いても……。あの事件に加担した以上、そういうことだとティキは内心怒りを抱く。そして。

(ああ、まだ私のことも舐めているのか。)


 いや、違うだろう。ティキは頭に浮かんだ思いを打ち消して、考える。

(あぁ、戦える人間に見えないから、見た目だけで。それとも、自分と太刀打ちできそうにない人間は来るべきではない、と?)

戦場は戦う男たちのもの。そんな思考を読み取って、ティキは軽く息を吐いた。


 まぁ、いい。今の声は自分にしか聞こえなかっただろう。さっさと割りきって、次の人へと目を向ける。

 友への侮辱は大事の前の小事だと、あっさりプライドを投げ捨てて。

「ニアス王国防衛将軍にして代表、ブラス=アレイという。」

「同じく、クティック王国防衛将軍にして代表、アルゴス=アレイだ。」

2人の将軍。アレイという名に聞き覚えがあり、ティキはその首を傾げた。


 その答えは、隣に立つ傭兵からもたらされた。

「ひさしぶりだな、ブラス、アルゴス。」

「マルス様もお久しぶりです。」

「ドラッドのやつはどうした?いないのか?」

「どうも今までの悪事が祟ったらしく、死にました。」

ザワリ、と場が微かに揺れる。ティキは、そう言われてもまだあまりピンと来ずに、

「確かに、俺たちは“隻脚の魔法士”ドラッド=ファーベ=アレイの子である。」

ティキより一つ、年下に見える少年は、

「だが、今ここに立っているのは、クティック、ニアス両王国の代表だ。……傭兵の子としての扱いは、遠慮してもらいたい。」

あっさりと、そう告げた。


 一瞬の場の沈黙。各国は『面倒な大物が出た』ことに対する沈黙。とくに、ケルシュトイル、ワルテリー、ケムニスの代表は、ティキ達の目的を知るがゆえの、『障害』として認識し。

 ティキは、あまり表情を動かさずに、……動揺すらほとんどせずに、ミストラネイアに視線を送る。


 ティキにとって、シーヌの復讐相手の身内が再復讐にくる可能性は十分に認知している。その上で、シーヌはそれを拒まない。

 因果応報。復讐者が被復讐者になることを、シーヌは重々承知している。


 そんなこと、ネスティア王国で、“伝達の黄翼”と“湖上の白翼”の子に襲撃されたときに、見てしまっているのだから。

「ほぅ。」

「へぇ。」

アレイ兄弟が発した感嘆の息を、事情を知らない他の者は、二人がティキの方針に感心したように見えただろう。


 そして、事情を知る四名には、兄弟がティキの肝の座りかたに感嘆しているように、見えた。

「ミスラネイア王国騎士団長にして第三王女、フローラ=ネガ・ミスラネイア。よろしく頼む。」

「ケルシュトイル公国全権代理、エスラム。」

「ベリンディス民主国宰相、クロム=ガデラン=ネリシャス・アリナス旧伯爵だ。いやいや、皆様若いことで。」

そこからはトントン拍子に。さっきミスラネイアに送った視線で、ティキは話が進まないことを嫌うと気づいたようだ。誰も横槍を挟まず、進行役の意に沿って進んでいく。


「ワルテリー王国代表、財務卿サチリア伯爵が娘、エル=ミリーナ・サチリア伯爵令嬢。これでも、人殺しの経験くらいはありますわ?」

さっきマルスが言っていたことを聞いていたのか、それとも戦争に出る資格を糾弾されないためか。

 ミラは、全力で彼らに、マウントをとりにかかった。

「さて、ティキ様。総指揮官となるあなたが抱く策を、話していただけませんこと?」

その瞳は好戦的で、だが、なぜかティキを護ろうとするかのように。


 彼女らが狙うのは、話をスムーズに進めること。ひいては、ティキの負担を減らすこと。

 そう感じて、ティキは軽く息を穿いて。

「ええ、わかりました。ではまず、作戦と編成から話しましょう。皆さん、資料はお手元にありますね?」

各国の派遣した軍兵の数、質。それらを収集したデータを、ティキは指し示した。

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