表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
荒野の政治家
165/314

因果は巡る

 オデイアは緊張した表情でその場に座っていた。

 自分が上座に座るこの場で調印されようとしているのは、二つの大国……ブランディカとアストラストに挟まれた二つの小国家。

 冒険者組合員ティキ=ブラウとシーヌ=ヒンメル=ブラウの二人があなた方小国家同盟に協力する。その一言だけで、この二国は参加を決断した。




 オデイアは感心する。冒険者組合という名前がもつ力の強力さは、オデイアが思っている以上に大きかった。学園に通っていた頃からシーヌを見てきたオデイアとしては、彼が遠いどこかに行ってしまったように感じる。

「オデイア=ゴノリック=ディーダ。」

「何でしょう、両陛下。」

国王に傅いて、オデイアは問う。仮にも、国王。別々の国の国王が二人で対面するということは、それだけで大きな……とんでもなく大きな危険を伴う。


 道中の襲撃。宿での醜聞。挑発、暗殺、毒殺。

 一つの国家となれば、殺してもいい部下の十人や二十人はいる。大国レベルになると、『死んで来い』と命令できる千人二千人はいる。

 小国同士の領土争いなど、敵の国王を先に殺した方が勝てる。大国は次代の国王がいる前提で戦争を続けることができることもある。


 小国家であるこの二国が戦争をするというのは、両国にとって大きな博打であった。きちんと成し遂げた安堵で、オデイアの心は緊張以外にも安堵で包まれていた。

「紹介しよう。クティック王国将軍、アルゴス=アレイだ。」

「ニアス王国将軍、ブラス=アレイだ。」

オデイアは固まる。アレイ。その名が持つ意味を全く理解できないほど、オデイアは愚かではない。

「初めまして、叔父様。ドラッド=ファーべ=アレイが子、アルゴスです。」

「同じく、ブラスです。」

双子がいるという話は聞き知っていた。その二人のことについては、気にしないことにしていた。


 因果は巡る。復讐者は被復讐者へ。よりにもよって、この機会に。オデイアは歯を食いしばりかけ

「復讐はしませんよ、叔父上。私はただ、彼と話がしたいだけです。」

「ええ、だから、彼に私たちを会わせてください。」

オデイアはその圧力に、頷かざるを得なかった。恐ろしい。ただただオデイアは、彼ら双子のその笑顔が怖かった。




 オデイアが部屋から退出する。それを眺めながら、双子はホッと息を吐いた。

「父上が生きていることは知らないようですね。」

「忘れているのかもしれませんけど。生きているのに復讐するのもどうかと思いますし。」

「そもそも、大義はシーヌさんの方にある。彼を生かしてしまった時点で、復讐は正当化されてしまった。」

双子はそう言いながら、窓の外を眺めやる。


 双子が別々の国で将軍をやる。それは遠回しに、両国は敵対意思がないということを示している。

 むしろこの両国は、『神の住み給う山』の脅威が取り去られた後、ブランディカとアストラストを占領することすら考えていた。

「だが、シーヌと会うと約束した。そなたら、会ってどうするつもりだ?」

「戦いますよ。僕たちに勝利を導くに足る存在か、その実力を示してもらいます。」

国王たちの問いかけに、双子は即答する。

「そうか。なら構わんが……殺すなよ?」

「もちろんです。今の私たちは、前の体の父より強い。ですが、防汚権者組合員であるなら、シーヌさんはもっと強いでしょうからね。」

かつてその名声と団としての強さで冒険者組合員になったガラフ傭兵団。彼らの中で最強であったドラッドより強いと言い張るドラッドの息子たち。


 因果なものだと国王たちは苦笑する。そして、会談を終える前に呟いた。

「アレイティアか。……国民を守らなければな。」

「いずれ降りかかる火の粉なら、か。……知らぬ存ぜぬで押し通すぞ。」

「それでよかろう。なにせ、あの地からはとても遠いのだから。」

いずれ来るであろう、数年後の出来事を予想しながら、二つの小国は会談を終える。

「オデイア君には、軍の調練に付き合ってもらわねばな。」

元『シキノ傭兵団』。彼らのほんの数十名に満たぬ数を、教官として引き入れることを考えながら、二国の国王はその部屋から出て行った。




 ワルテリーの国王と伯爵は、その手紙を読んで、顔色一つ変えなかった。

 その伯爵の娘エル=ミリーナに届いた、ケルシュトイル公女ミラ=ククルからの手紙は、二人の意表をついて余りある内容が記載されていた。


 それでも顔色を変えなかったのは、偏に二人が為政者であったから。それ以上でも、それ以下でもない。

「伯爵は、どうなさるおつもりか?」

「それを相談するためにこの場を設けさせて頂いたのです。」

伯爵はそう言って立ち上がった。


 エル=ミリーナの元へと届いた手紙は二通。一通は、国王含む政治家宛に。もう一通は、エル宛に。

 エル宛の手紙には、『神の住み給う山』の王“神の愛し子”アギャンを殺した一味に、ティキがいるという情報も書かれている。

 公的な手紙より私的な手紙の方が情報量が多いというのは考えものだが、その事自体は伯爵家が隠し通せば問題ないことでもあった。


 国王の代わりに宰相が、ケルシュトイル公王の手紙を読み上げる。その内容に、謁見の間にいた貴族たちの反応は、大小様々だった。

 何の反応も示さないもの。隣の者と相談するもの。嘘だ、馬鹿なと叫ぶもの。

「静まれ!!」

それらの全てを、伯爵が一喝して黙らせた。


「この手紙を出した日から届いた日までを逆算すると。」

伯爵の声が響き渡る。響き渡った声に、一同が完全に耳を傾ける。

「ケルシュトイルからこの国までまっすぐ直進すれば、同日数でたどり着くことが確認された。」

それは、その手紙の内容……“神の愛し子”の訃報が事実であるという証明に近しい。何しろケルシュトイルからここワルテリーまで真っ直ぐ突っ切るまでには、『神の住み給う山』を通過せねばならないのだから。


 『神の住み給う山』を突っ切らずにワルテリーに来る場合、山を大きく迂回することが必要だ。

 そして、大きく迂回する過程で、どうしてもグディネを通過しなければならない。

 手紙の内容が内容だ。グディネにバレずにグディネを通ってワルテリーに書簡を届けるとき、関所を避けなければならない。


 関所だけではない。国境付近には、巡検の兵士もたくさんいる。それら全てを避け続けるのは、不可能ではないが時間はかかる。手紙に書かれた日付から考えて、その手段を使っていれば絶対この近日には届かない。


 貴族たちが沈黙する。その沈黙は何よりも雄弁に、“神の愛し子”の訃報と、それによる戦争の勃発を手引きする者がいることを信用したことを示していた。

「今後の行動指針が必要です。」

「しかし、サチリア伯爵。そなたは指針を既に定めているようだが?」

「最高決定権を持つのは国です。私の一存で決めるわけには参りません。」

そう言うと、国王はフム、と唸る。フリだけだ。彼の中でも答えは出ている。


 伯爵が恐れているのは、国の内部分裂。十年以上も碌に大きな決断をしてこなかったワルテリーでは、一つの大きな決断が国内分裂を大々的に呼び寄せる危険があるのだ。

「サチリア伯爵。我らの国が発展できなかった理由は何であるか?」

「『神の住み給う山』の存在と、それに伴う保守的な国家運営です。」

「その通りであるな。……では、『神の住み給う山』がなくなった我が国が、依然として保守的な国家運営を続けるとどうなる?」

「大国がこれから作っていく大きな流れ……いえ、濁流と呼ぶべきでしょうか?に呑まれていくでしょう。」

その言葉にも、国王は大きく頷く。その通りだ。そうなるだろう。


 国王はその言葉が貴族たちの間に浸透するのを待った。ざわめきが起き、そして静まる。

「我が国がとれる道は二つ。」

伯爵が読み上げた手紙を一瞥し、言う。

「大国の作る波に呑まれるか、我ら自身の手で波を作り上げるか。」

もしこれが、自国だけでやらねばならないのなら、国王とて波に呑まれるという決断をしただろう。この国を戦火に巻き込んででも国を護るという気概が、今の貴族たちにはないだろう。

「余は、思う。ケルシュトイル公王が作り上げた小さな波に乗るべきであると。」

国王はやわら立ち上がると、叫んだ。

「余はケルシュトイル公王の掲げる『小国家連合』に賛同する。軍務卿、即座に軍を編成せよ!兵士数は総員五千!期間は一週間である!」

鶴の一声。国で最高の権力を持つ者の一言で、ワルテリーは動き始める。それはまた、ケムニスでも同様であった。


ポイント評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ