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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
神の愛し子
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作戦の立て直し

 無言でクリームパスタを頬張りつつ、シーヌは周辺地域の地図を眺めた。

 道は記載されていない。上空から見た測量地図が描かれているだけだ。だから、シーヌがそれを眺めていることに、大した意味はない。

「シーヌ?」

「よくよく考えたら、今回は割と何も考えずに突っ込んだよなと思ってさ。」

ティキの疑問符に込められた、「どうしたの?」という質問に、シーヌは的外れな返答をもって答えた。


 そもそも、シーヌが復讐をするときに行き当たりばったりでなかったことなど一度もない。ドラッドの時も、ガレットの時も、ケイの時も。実行段階になるまで、シーヌは「どう殺すか」を考えてはいなかった。

 そんな無謀で今まで復讐を果たし続けていることが奇跡のような状況ではあるが、それこそが“奇跡”の持つ効果である。しかしそれも、大勢の『アギャンを守りたい』という意志の前では、相殺されるどころか圧倒されるほどの意志でしかなかった。


 “永久の魔女”が魔法について語るとき、例に出した物語があった。

 『大火事と鎮火の奇跡』である。

 この童話を話したときに出た、“奇跡”、そして魔法についての仮説。一個人で、『全人類を一瞬騙す意志の強さ』。それの逆とは、『超多数で同一のことを願い、世界を騙す』こと。

 シーヌが敵対する獣たちは、それをした。

 それは、人間同士でならあるいは、決して起こりえない事象だったかもしれない。だが、獣たち、とくに、自分の意志で従う王を決めている獣たちだからこそ、それを成し遂げることができた。


 シトライアにいた元帥ケイとは話が違う。あの時、ケイの周りには、ケイに死んでほしいと願う(国王)がいた。

 兵士たちはあくまで上官命令に従っているだけで、ケイに死んでほしくないとは思っていなかった。

 だが、獣たちには、違う。王、アギャンが崩御することが、そのまま森の平穏をぶち壊すことだとわかっている。

 それに、アギャン自身も、その体質と、その功績で、獣たちの忠誠心を買っている。


 いくらシーヌが復讐のために世界全てを騙せるとしても、だまし続けられるとしても。『神の住み給う山』に生きる全ての獣たちの意志を相手取れば、完全に相殺されてしまうようだ。

 むしろ、シーヌが意思で押し負けていない分、シーヌが異常ともとれる。アギャンを殺されないためにはシーヌを殺すしかなく、まだ死んでいないということは、シーヌの“奇跡”と獣たちが群れて発動している疑似的“奇跡”が、互角だということだからだ。


 そんな事情を、シーヌとティキはさすがに察した。“永久の魔女”が魔法について教えていなかったらきっとわからなかったであろうことも、今のシーヌたちにはよく理解できる。

「どうする?」

それは、今まで通りに行き当たりばったりじゃダメだよ、というかのような声音だ。それがシーヌに向けられていることで、シーヌはなぜか非難されているような気持になる。

 だが、シーヌは常に無計画だったわけではない。失敗したときようの力技は考えている。

「山ごと燃やす。」

「体面を気にした冒険者組合が指名手配をかけると思うよ?」


 まるで答えを予想していたかのように即答される。さすがにそうだよね、とシーヌも思った。

 個人の殺人程度なら許されるだろう。名高き英雄を討ち取るくらいなら、腕試しの範疇で収まる話だ。

 だが、山一つ燃やすとなれば話は別だ。ここを燃やしてしまえば、周辺国家全てを巻き込んだ大戦争が起きる。

 そうなったとき、その引き金を引いたのが、冒険者組合員の意図的な攻撃だった、となれば最強組織の名前に汚名が付く。いや、そんなものはどうでもいい。

 戦争で人が死に、将来『最強』の名を冠せるものが極端に減ること。それを冒険者組合は危惧するのだ。


 他にも、その周辺国家が地元であるもの。特産品を好むもの。戦火が広がれば困る冒険者組合員たちのために、シーヌたちは指名手配を受けることになるだろう。

 シーヌはそうなる未来を、案外あっさりと予想した。そして次の瞬間、「じゃ、馬車を置いて歩いていくしかないかな?」と言い切った。


 最終手段である。が、必勝法はそれしかない。ティキはすぐに、「うん、それしかないね」と答えるとスッと立ち上がって、「じゃ、軍食?作るね」と言って馬車の中に入っていく。

「夫君。」

「何、トライ?」

「飛ぶのではだめなのですか?」

ティキの夫だから、夫君。いきなりそう呼ばれたことにも驚いたが、それに即応できる自分にもシーヌは呆れた。

「ダメだね。格好の的だ。」

「しかし、飛ぶ生物はそう多くはないのでは?」

「飛ぶ生物は、ね。トライ、この先の動物たちは、何匹魔法を使えるかわからないんだ。誰も行ったことがないからね。」

つまり、危険自体も未知数だ。どこに敵がいるかもわからない。どの動物が脅威なのかもわからない。

 見上げれば見つかる空の上で、空の鳥たちの急襲に対応しながら、山や森の中から撃ちだされる魔法をすべて対処する。


 出来るかできないかで言うならば、出来るだろう。しかし、アギャンの目の前についた時、完全にばてている可能性がある。

「では、どうするのですか?」

「二人一緒に普通に入るよ。正面から。」

「ですが。」

「山の中、森の中だ。木の間とか、斜面とか、それなりに逃げ場所はたくさんあるよ。」


正確には隠れ蓑、身代わりだけどね。そう言うと、シーヌは鬱蒼と生い茂る森の脇、木々がまばらになり始めた林を眺める。

「……僕たちを目指してくる二人組がいるね。」

「の、ようですね。しかも、それなりに、強い。」

シーヌは懐の短剣に手をかけようとした。が、それを途中でやめた。


 陰から見えた人影は、シーヌのよく知る人物のものだったから。

 どうしてお前がここにいる?という疑問は感じた。だが、その笑みを見て、そんな野暮なことは聞くまい、と決めた。

「よっ、シーヌ。猫の手も借りたいっていう状況なんじゃねぇか?」

学園都市ブロッセ以来の知人、チェガ=ティーダが、荷物を抱えてここにいた。


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