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復讐鬼の恋物語  作者: 四守 蓮
神の愛し子
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冒険者組合治下の職人たち

今回は短いです。

「で、シーヌ。竜の血は渡したの?」

「一本前払い、約束が果たされたら二本目を渡す、という約束にしたけど、まずかった?」

「ううん、それなら何の問題もないよ。もう一本は、いざという時のために置いておこう?」

シーヌとティキは街中をペガサスを引いて歩きながら、今回の商談についての話をする。

 が、ティキが「問題ない」と言ったことで、自然、「この話はここまで」という流れが出来上がった。


「うん、わかった。宿はどうしようか?」

次の話題は、今晩の寝床。いくらミッセンではありとあらゆるすべてが格安になる『冒険者組合員』といえど、宿はいくら何でもただではない。翠石一つくらいは渡さねばならないだろう。

 翠石一つ分。中堅どころの農家であれば、一年の年収に匹敵する額。ここは冒険者組合が統治する都市、つまり世界最強組織が統治する街であるだけに、宿の質は高いのだ。

「まあ、いいんじゃない?冒険者組合員の証はあるし、それなりに融通してもらえるでしょ。」

シーヌはティキの問いを、「部屋が埋まるのではないか?」という意味だと思って、そう答える。ティキもその意図が全くないというわけでもなかったから、とやかくは言わなかった。




 ペガサスを引いて歩く姿。片や少年。片や美少女。

 そんな人が、街を歩いていたらどう思うだろうか。

 そう。目立つのだ。シーヌとティキは、それはそれは目立っていた。

 ペガサスに乗った荷物も多い。四頭も引き連れているがゆえに、そこまで多く見えないだけだ。


 この街にいる者たちは、少年たちを見て、まずその年齢を見、荷物の量を見、そしてまた年齢を確認する。

 未だ20すら超えてなさそうな少年少女が旅をできるほど、世の中は、街の外は安全でないことを、この街にいる者たちは良く知っている。

 そして、それらをよく理解しているがゆえに、街に生きる者たちは確信する。「この少年少女は、強いのだ」と。


 そして、改めてその全貌を眺めるのだ。

 強いものにしか従わないペガサスを四頭も引き連れ、冒険者組合の統治する街を歩く、まさしく旅人という姿をした少年少女を。

 その衣服はあまりにぼろい。まるで、ずっと同じ衣服を着て、死線を潜り抜けてきたかのように。


 実際、その通りであった。シーヌも、ティキも。衣服など、全く気にせず今日まで来たのだ。

 ティキは多少気にはしたが、お金を持っていなかったのと、シーヌに依存しないと生きられないという現実も相まって、衣服などねだれなかった。

 だから、ティキは身ぎれいではあるし、シーヌも石鹸くらいはちゃんと気にいていたのもあって、ティキ自身は綺麗な人であるのに衣服はぼろい、という変な状態が起こっていた。


 この街の衣服職人である彼らは目で語り合う。「誰が行く?」「どう話しかける?」と。

 そうこうしているうちにシーヌとティキは冒険者組合の建物へと入っていく。

「冒険者組合員だったか。」

「なら、誰かが煽ってくれるんじゃないか?」

「え、あんた、また斡旋させるの?」

「あれほど生活に無頓着なら、斡旋させた方がいいと思うが……。」

「どうして無頓着って思うんだよ!」

ぎゃんぎゃん騒ぎ立てる妻の前に、一枚の紙を渡す。


 紙は貴重だ。木製の紙など、滅多に出回らない。

 だが、この街にその常識は通用しない。なぜなら、ここはミッセンだからだ。

 ミッセンの住人たちにとって常識的なその格言は、冒険者組合の統治する街という事実の、経済力の面での大きさをそのまま示している。


 その紙には、冒険者組合発行の記載と共に、今年の『冒険者組合員採用試験』の結果が記されている。

 その合格者二組の、顔写真と共に。


 気にするべきは、その写真だ。あの二人が試験に受かったという記事は、ただの事実確認でしかなく、商人たちにとって重要な情報とはなりえない。

 だが、顔写真にわずかに写る服。その影から、服の原型を予想する、というのはこの街の服飾職人にとっては必須の技術の一つに過ぎない。

 その技術で、シーヌの纏っていたぼろ布と、この写真の服が同じものであることを職人たちは見抜いていた。冒険者組合員採用試験は、二ヵ月と少し前。あと二週間もすれば三か月になろうかという頃。


 それまで衣服が変わっていない。あのぼろさ、風化度合いから見ると、違う服は多くて三着。

 どう考えても、「生活に無頓着」である。

「まあ、着飾りがないと冒険者組合員の格にも関わってくるからな、上の方でも何か言葉は言うだろう。」

「傭兵を平然と味方にするような人たちがかい?ガラフなんて、傭兵っぽさが前面に出ていたと思うけどねぇ。」

「それでも記事は上質のものを選んでいただろう?契約に関わってくるからな。」

契約を結ぶための信用問題。ガラフ、『金の亡者』と呼ばれ、酒浸りで、そのくせ倹約家だった彼の話を持ちだす。


「結局、冒険者組合の威厳はあるからな。強い奴が派手な格好をしている時は、基本的に飾りじゃないのさ。」

シーヌとティキというあの二人組にも、それなりのものが求められる。そう、職人は語った。

「さあて。どううちに引き込もうかな。」

商談をする商人よりも強かに。工業都市の職人は、未来の金づるのための引き込みを考える。




 冒険者組合のミッセン支部。学園都市ブロッセの冒険者支部と比較しても全く遜色ない威容を誇る建物に、シーヌとティキは冒険者組合員の証を掲げて入る。

 そこで働く人たちが眉を顰めるのを視界の端に収めながら、ペガサスを厩舎に入れて、いくつかだけ荷物を取る。

「誰もいないよ、ティキ。」

「いや、そういう問題じゃないよ。」

ネスティア王国国王との謁見で使った正装。ティキはそれを引っ張り出し、シーヌはセーゲルから「報酬の一環です」と言ってもらった服の一着に着替える。


 服がなかったわけではない。必要ないと思っていたから、基本的に封印していただけである。

 シーヌは厩舎周りに人が来られないよう壁を作り上げたうえで、煙幕を張った。

 ティキはそれ以上に小さな範囲で小部屋を作って、その中で着替えている。


 外で着替える、しかも街中でであることに文句を言われているのだと重々承知しながらも、シーヌは内心謝りながら、着替えをしてくれと頼んだ。

 動きやすそうな、それでいて見るものを惹きつけるようなドレス。冒険者組合の中でも、指折りに大きな支部であるだけに、礼節くらいは弁えていた。


 ティキが着替え終わると同時に厩舎から出て、支部の正面玄関から中に入る。さっきシーヌたちを見た使用人たちが「まさか厩舎で着替えたのか」と非難するような目で見る中、二人は支部長の部屋へとたどり着いた。

「失礼します。入ってもよろしいでしょうか?」

どう自己紹介すればいいかもわからず、とりあえずノックだけして要件を告げると、「入れ」というセリフが返ってきた。


 扉を開けた先にいたのは、なかなか大きな体躯を持つ男。歴戦の勇士と言われると納得できる、圧倒的強者の気配を漂わせている男だ。

「久しいな、シーヌ。」

「師匠もご健勝のようで何よりです。」

「しかし、外で着替えるのは感心しないぞ。」

「師匠が魔法を使ってさらに守ってくれましたからね。徹底的にしなくてよくて、助かりました。」

「そういう意味ではないわ。わしがお嬢さんの肢体を見れなかったと?」

「僕の妻になっているのを知ってですか?人妻には興味がなかったのでは?」


 シーヌとポンポンと話をするこの男。

 彼は、シーヌの師匠だ。

 名を、アスハ=ミネル=ニバース。“次元越えのアスハ”の名で知られる、冒険者組合上位組合員である。


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