表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/181

第88話 ミリネの不安

 グレンが学院を去ってから、ミリネは落ち着かなかった。

 どこか頼りないところがある、黒髪の少年がなぜか気になるのだ。


「私はグレンのお姉ちゃんみたいなものだから」


 世界間の時間スケールを無視するなら、グレンの方が一つ年上なのだが、それは彼女の知る所ではなかった。

 彼に魔術を教えたのが自分だという思い込みが、心の底にあったのかもしれない。


「ねえねえ、この前、『剣と盾』が来たじゃない」

「ええ、コウチャンさん、カッコよかったなあ!」

「私は断然、メーリン先輩だなあ」

「でも、先輩は女――」

「ああっ、私に恋の魔術を掛けてくれないかしら!」


 同級生のたわいない会話にも、なぜか心がかき乱される。


「そういえば、このクラスを辞めたグレンだっけ?

 あの黒髪のヤツ、なんで『剣と盾』と一緒にいたのかしら?」

「なんでも、臨時のパーティメンバーとして入ったんだって」

「どうしてそんなこと知ってるの?」

「ふふふ、お姉ちゃんがギルドで働いてるの。

 それでね、まあ間違いだとおもうけど、あの黒髪が魔術で魔獣を倒したらしいの」

「ふん、せいぜいホーンラビットでしょ?」

「それが、フォレストボアの特殊個体だったそうよ」

「フォレストボア!

 馬鹿ね!

 そんなことあるわけないじゃない!」


 グレンが魔獣を倒した?

 ミリネは、迷宮都市クレタンへの途中、森の中でフォレストボアに襲われたことを思い出した。

 グレンが、またフォレストボアを?!

 

 彼女はそれを確かめることにした。


 ◇


「ルシル先生、グレンはどこにいますか?」


 放課後、学院に来ても続いているルシルとの個人授業前に、ミリネは彼女に話しかけた。


「安心しろ。

 ヤツは、私が寝床を与えてある」


「それはどこですか?」


「……お前、アヤツの事が気になるのか?」


「いえ!

 た、ただ、ちゃんと生活できてるかなあと……」


 次第に小さくなるミリネの声を聞き、ルシルが笑った。


「ははは、ヤツは大丈夫だ。

 今では友人も一緒だしな」


「えっ?

 ゆ、友人って女の人ですか?!」


「何を興奮しておる。

 ヤツの友人と言えば、黒いフクロウのことだろうが。

 ミリネ、お前、もしやアヤツのことが――」


「あー、もういいです!」


「そうか、それなら、明日、私はグレンの所へ行くが、お前は一緒に来ないな?」


 ルシルは意味ありげな笑みを浮かべ、ミリネを見つめている。


「い、行きますよ!

 私は、アイツの保護者みたいなものですから!」


「ほうほう、まあよいだろう。

 では、明日休養日、明け方、二つの鐘に学院の正門前に来い」


「分かりました」


「そうと決まれば、ここで授業は終わりとしよう。

 明日が早いからな」


「はい」


 ルシルは、ミリネの頭にぽんと手を載せると、廊下へ出ていった。  


「明け方、二つの鐘ね」


 そう言ったミリネの尻尾シッポは、元気よく左右に振られていた。

 



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ