第85話 相談(上)
山を消した事は、俺の心にわだかまりとして残り、なかなか消えなかった。
誰かに相談しようにも、ミリネは学院にいるし、他に親しい人もいない。
相談相手として考えられるのは、ルシル校長か、『剣と杖』のみんな、あと、ギルドの受付レミィさんくらいかなあ。
ルシル校長は、どこに住んでるか分からないし、レミィさんに話すと貴族風を吹かせた、いけ好かないギルマスがしゃしゃり出てきそうだ。
結局、『剣と杖』の人たちに相談することにして、ギルドへ向かう。
季節が夏に近づいているのか、照りつける太陽が眩しかった。
ギルドに着くころには、汗でじっとり服が湿っていた。
外が暑いからか、ギルドの待合室は、あまり人がいなかった。
いつも『剣と杖』が使っている丸テーブルには、丸顔の魔術師メイリーンだけが黒ローブ姿で座っていた。
あの格好、暑くないのかな?
「お早う、いや、もう『こんにちは』かな、グレン」
「メイリーンさん、こんにちは」
「その後、依頼はこなせてる?」
「ええ、一人でできる依頼は街中のものが多いから、その辺を駆けずり回ってます」
「みんな、最初はそうやって慣れていくものですよ」
「あのう、今日は、相談したいことがあって」
「そう?
コウチャンとトカレは、今、ギルマスから依頼の説明を受けてるところ」
「新しい指名依頼ですか?」
「そうなの。
なんでも、帝都の南西にある山岳地帯で、ドラゴンが出たらしいの」
「へえ、ドラゴンですか」
「なんでも、山が一つ、消し飛んだらしいのよ」
「……」
「その事で、調査依頼が出たのよ。
でも、いくらドラゴンでも、そんなことできるかしら?
まあ、伝説の古代竜とかだと、分からないけど」
「……」
「グレン、どうかしたの?
顔色が悪いわよ」
「ええと、俺の相談なんですが、その事と関係あるんですよ」
俺は顔を寄せると、メイリーンが聞こえるかどうかくらいの小声でそう伝えた。
「もしかして、その事について何か知ってるの?」
知ってるどころじゃないんですけどね。
「とにかく、ここじゃあ話さない方がいいわね。
二人が来たら、どこか外で食事でもしましょう」
メイリーンさん、気遣いの人だなあ。
「ぜひ、お願いします」




