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第79話 魔道具店再び

 一流冒険者パーティ『剣と杖』と一緒に取り組んだ、フォレストボア討伐の仕事も終わり、俺は再び一人で仕事を請け負うことになった。

 一人で出来る仕事は限られており、街中でのものが多い。

 今日は、小包の配達だ。

 

 駅馬車の駅で受け取った小包を抱え、郊外にある一軒家まで届ける。

 戸口に出てきた男性は、それを受け取ると、大事そうに抱きしめ涙を流した。

 きっと故郷の両親から届いたものなのだろう。


 もの一つ届けるにも、一々手間と時間がかかるこの世界では、荷物を受け取るというそれだけのことが、俺がかつて生きていた世界とは、かけ離れているようだ。

 帰り道、温かい気持ちになってゆっくり歩いていた。


 あれ?

 なんか見覚えのある看板が?


 郊外の、小さな店が肩を寄せ合うように並んでいるその一角に、以前クレタンで見たことがある看板があった。

 しかし、さすがに店ごと移動させる魔術なんてないだろうから、似ているだけで、別の店かもしれない。

 まさか、チェーン展開してないよね、あんな店。


 俺は、恐る恐る店の扉を開けた。


 ◇


 薄暗い店内に入ったけど、誰も出てこない。

 得体の知れない、干物っぽい何かがぶら下がる、狭い通路を奥に向かう。

 古びた机の上に屈みこみ、虫眼鏡を覗き込んでいるのは、クレタンの街で会ったエルフの魔道具商プーキーだった。

 姉のルシル校長とそっくりなその顔は、見間違いようがない。

 

「あのー……」


「……」


「あのー、ちょっといいですか?」


「……あっ!

 あんたは、あの時の!」


 俺に気づいたプーキーが、その手からぽろりと虫眼鏡を取り落とした。

 ガタガタ机を鳴らし、こちらに出てきた彼女は、俺の手を突然ぎゅっと握った。


「ずっと会いたかった!」


 えっ?

 なんで?


 一度会ったきりの彼女からそんなことを言われても、戸惑うだけだ。


「ええっと、どういうことでしょうか?」


 キラキラした目で俺を見つめるプーキーは、その理由を話してくれた。


 ◇


 錬金術師であるプーキーは、十年前、遠い親類から迷宮都市クレタンの古い魔道具屋を譲り渡された。

 元々、店が持ちたかった彼女は、張り切って商売に精を出した。

 迷宮都市なので、彼女が作るポーション類は、飛ぶように売れた。


 やがて、仕事の合間に錬金術の研究を始めた彼女は、次第にそれにのめり込んでいった。

 彼女が作る、個性的きみょうな魔道具は、冒険者に人気が無かった。


 ポーションすら売らなくなった彼女の店には、チューニャビーと言われる、ごく少数の愛好家だけが訪れるようになった。

 

 そんなある日、一人の少年が店を訪れたのだ。

 黒い瞳、黒髪のその少年は、目を輝かせて彼女の自信作を買っていった。

 丹精込めて作り上げた品を喜んで買ってもらえる。

 その感動は、なにものにも代えがたかった。


 彼女は、再び少年が店に来てくれるのを心待ちにした。

 しかし、いくら待っても、彼が店を訪れることはなかった。

  

 絶望に囚われていた彼女を救ったのは、姉のルシルだった。

 めったに店を訪れない彼女は、世間話の一つとして、黒髪の少年について話した。


 えっ!

 あの子、王都に行っちゃったの!

 

 その日のうちに、彼女はクレタンの店をたたみ、王都に出店すると決めた。

 そこで、あの少年が驚くような、凄い魔道具を造るのだ!



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