第7話 事故
その日、ゴリアテさんから頼まれた買い物をするついでに、ギルドに寄って、掲示板に貼られた依頼を調べてみた。
依頼は探し人、探し物から始まり、薬草採集、魔獣討伐まで様々なものがあった。
薬草はポーションという水薬を作るために必要だそうで、討伐は危険な魔獣の数を減らすためにおこなうのだそうだ。
薬草採集といっても、草原や森に出ていくから、魔獣と出くわす恐れがある。
だから、冒険者と言っても戦闘力が無い者は、街中で探し物をするくらいしが仕事がないのだ。
「くう、だけど、どうして一回だけしか成功しなかったんだろう」
俺は、ただ一度だけ成功した魔術にこだわっていた。
だって、剣や盾なんか俺には使えそうもないからね。ギルドカードで自分のステータスを見ても、何も変化が無いんだよ。
すごすごギルドを後にしようとする俺に、冒険者たちの声が聞こえてきた。
「あはは、あの黒髪、また依頼を見るだけだぜ」
「冒険者にはむかねえな」
「おい、アイツがあと何日冒険者続けられるか賭けようぜ!」
ギルドから『剣と盾亭』に帰る俺の心は暗かった。
◇
なんだろう?
宿まであと少しというところで、道沿いに多くの人が集まっていた。
人垣に近づくと、叫び声と斜めになった客車が見えた。
きっと馬車が事故にあったんだろう。
「ミリネ! おい、ミリネ! すぐ助けてやる! しっかりしろっ!」
えっ? ゴリアテさんの声?
慌てて人混みをかき分け、声が聞こえる方へ走る。
「ゴリアテさん!」
「グレン! 手を貸してくれ! これを持ちあげるぞ!」
すでに何人かが客車に手を掛け持ちあげようとしている。
その大きな客車の下に、ミリネがいた。胸の辺りまでが客車の下敷きになっている。
「ミリネ! どうして!?」
「おい、グレン! さっさと手を貸せ!」
ゴリアテさんの声で、みんなと一緒に客車を立てようと押した。
重い! びくとも動かない!
側面に飾りがある客車は、おそらく貴族のものだろう。大型の客車は普通のものにくらべ、はるかに重いはずだ。
「こふっ」
青い顔で目を閉じているミリネが血を吐いた。
このままじゃ、ミリネが死んでしまう! くそう! どうして動かないんだよ!
こんなもの、こんなもの……
「ぶっ飛べ!」
俺がそう口走った瞬間、あり得ないことが起きた。
大きな客車がふわりと宙に浮くと、車輪を横にしてまるで空のティッシュ箱みたいに転がった。
野次馬が数人、それに巻きこまれ跳ねとばされた。
ただ、ケガをした者はいるようだが、誰も客車の下敷きにならなかったようだ。
「治療魔術師を呼べっ! おい、お前は薬師を呼んでくれっ!」
ゴリアテさんの声に応え、冒険者らしい男女が数人、駆けていく。
「グレン、お前はすぐ宿へ帰って湯を沸かしておけ!」
「はいっ!」
ありあわせの物を組み合わせてつくった担架にミリネが載せられるところまで見てから宿に走った。
食事中のお客さんに事情を話し帰ってもらうと、お湯を沸かしにかかる。
そこで気がついた。
生活魔術が使えない俺には、火が点けられない。
おろおろしていると外が騒がしくなり、担架に乗せられたミリネが食堂に運びこまれた。
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