第69話 再会
謹慎処分は願ったり叶ったりだったが、問題は住む場所だった。
期間のある停学なら、学院の寮が使えるらしいのだが、俺の場合は無期限の謹慎だから、学院の外に住居を移さなければならない。
それから、生活していくためのお金のこともある。
結局、冒険者として依頼をこなすしかないだろう。
小さな手荷物だけ持ち、寮を出た俺は、学院の門から出ようとしたところで呼び止められた。
「グレン、ついてこい」
そこにいたのは、白いローブを羽織り、緑の髪をツインテールにしたルシル校長だった。
そんな髪型にすると、彼女はなおさら幼く見えてしまう。
思わず頭を撫でたくなった。
校長は学院からニ十分ほど歩き、下町の風情がある通りに入っていった。
人気の無い裏路地の奥にある、古びた小さな家の前で立ちどまった。
「ここが、今日からお前が住む家だ」
「えっ?
いいんですか?
ここってルシル先生の家ですか?」
「ああ、気にするな。
ここは私が仲間と一緒に用意している家でな。
長いこと使ってなかったんだが、今回やっと役に立ったというわけだ。
家賃を払う必要はないが、補修なんかは自分でやれ。
明日は私からの贈り物が届くだろうから、この家を出るなよ」
「よかった。
住むところ、どうしようかと思ってたんです。
ホント、助かります」
「これを渡しとくぞ。
じゃあ、きちんと食べろよ。
たまに様子を見に来るからな」
差し出された布製の包みを受け取る。
「ありがとうございます!」
ルシル校長は、白いローブから黒いワンドを取り出すと、それを振り宙に浮く。
そして、家の屋根より高く上がると、あっという間に飛び去ってしまった。
ルシル校長に渡された包みには、鍵が二本、手描きの地図、数冊の本、そして手紙が入っていた。
その手紙には何か書いてあったが、面倒くさいから、それを読むのは後まわしにする。
本は革表紙で、表紙に魔法陣が金文字で刻印されていたから、きっと魔術関係の本だと思う。
これはミリネに渡そうかな。
明日は家にいろと言われているから、夕暮れの街へ食べものを買いに出かける。
店じまいしようとしている屋台から、売れ残りの肉串、ナンに似たパンを安く買う。
ゴリアテさんからもらったお金の大半はミリネに渡してきたから、懐が寒い。
明後日は、ギルドで仕事を見つけよう。
◇
次の日、昼前にノックの音がして、出てみると布をかぶせた荷物を持った冒険者風の若者が立っていた。
「グレンってのは、君かい?」
「はい、そうです」
「ギルドから配達を頼まれた。
ここにサインしてくれ」
お兄さんは、しわくちゃの紙を俺に渡した。
この世界の文字が書けないから、ニコニコマークを書いておく。
「変なサインだな。
じゃ、確かに渡したぞ」
そう言うと、彼は足早に去っていった。
リビングとキッチンを兼ねた、部屋のテーブルに荷物を置く。
荷物から布を取り去ると、それは鳥かごだった。
小さな黒いフクロウが、止まり木に掴まり目を閉じている。
「ピュウ!」
学院に入ることが決まった後で、泣く泣く冒険者学校に預けてきた、ピュウとの再会だった。




