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第61話 フォレスター魔術学院

 ギルドからニ十分ほど歩くと、街並が変わってきた。

 道幅が広くなり、緑が多くなった。

 そして、その緑の向こうに湖に囲まれた丘があり、そこにはヨーロッパのお城にそっくりな建物があった。

 たぶん、あれってお城だよね。


 ミリネは、お城を背に、広い道路から路地へと入っていった。

 路地を抜けると、森が現われた。

 

「やっと着いたわ」


 さっきまでゆっくり歩いていたミリネが、地図を片手に小走りになる。


「ちょ、ちょっと待って!

 しんどい……」


 風邪が治りきっていない俺は、急ぐ彼女に着いていけなくなった。

 ミリネの背中が木立へ消える。


 曲がりくねって小道をたどり小さな森を抜けると、そこが学院の敷地だと気づいた。

 ブレザーに似た制服の上にローブを羽織った、中学生から高校生くらいの女子男子の姿があちこちにあった。

 

「もしかして、ここが学院なの?」


 俺を待っていたのか、足を停めて辺りを眺めているミリネが振り向く。

 彼女の目は、いままで見たこともないほどキラキラしていた。


「そうよ、あれが世界に名だたる、フォレスター魔術学院」


 ミリネが指さした先には、湖沿いに建つ落ち着いたレンガ色の建物があった。

 これだけ離れていても、いや、離れているからこそ、その大きさが分かる。

 窓の並びから三階建てと分かるその建物は、向こう端が霞んでいた。

 やや濃いレンガ色の屋根には、様々な意匠が施してあった。

 人族、ドワーフやエルフの彫像が立ちならび、ドラゴンを始め、様々な魔獣がまるで生きているようだ。


「凄いわ!

 ずっとここに来たかったの!」


 騒いでいるミリネに少年少女の注目が集まる。

 彼らは、一様に嫌悪の表情を浮かべていた。

 やはり、ここでも獣人に対する差別があるようだ。


 立派な石造りの門があり、その脇に門番らしきおじさんが立っている。

 槍こそ持ってはいなかったが、その腰には小型魔法杖ワンドが差してあった。

 

「停まれ!

 お前たち、生徒じゃないな?

 何の用だ?」


 門番さんは、無遠慮に俺たちの服装を見回している。


「こんにちは。

 私たち二人、ここに入学することになりました」


 ミリネは肩から下げていたカバンから封筒を取り出し、それをおじさんに渡した。

 

「こんな時期に入学だと?

 そんなはずは……なっ、こ、これは!」


 封筒を手にしたおじさんが、急に慌てだす。


「こ、ここで待ってってくれ!

 いや、お待ち下さい!」


 態度を変えたおじさんは、門の向こうへ転がるように駆けていった。

 しばらくすると、明らかに貴族だろう身なりの小柄なお爺さんと、ローブを着たぽっちゃりおばさんがやって来た。

 どこか見覚えがあるおばさんは、さっきミリネがおじさんに渡した封筒を手にしていた。

 

「ふん、お前たちか。

 一人は獣人ではないか!」


 お爺さんは、挨拶もせずいきなりそう言った。

 隣に立つミリネの体がビクリと震えた。


「まあまあ、学院長代理、あの方からのご紹介ですし――」


 おばさんの言葉が終わらないうちに、お爺さんが吐き捨てるように言った。


「ワシは獣人なぞ、一人として生徒として認めたくないぞ!」


 お爺さんが、ミリネを睨みつける。

 ミリネは俺の後ろに隠れながら身を縮めた。


「お前のようなヤツは――」


 お爺さんの言葉が急に聞こえなくなる。彼の口は動いているが、声が出ていない。


「あれ~?

 どうやら、学院の理念が分かっていない人がいるようね」


 頭上から声がする。

 そこには、白いローブをはためかせた小柄なエルフ少女、ルシル校長がいた。


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