第60話 帝都のギルド(下)
キレイな受付のお姉さんが連れてきたのは、この世界に来てから初めて見るタイプの人だった。
今まで見たこの世界の人と同じように、色が白く西洋人っぽい顔立ちだが、何より着ているものが違う。
四十代に見える背が高い男性は、紺色の学生服を金モールと金ボタンで飾りつけたような服を着ていた。
鼻の下にある細い八の字ヒゲが、なんかキザったらしい。
「ふん、お前が登録希望の冒険者か?」
おじさんは、ミリネと俺が並んで座っているのに、こちらしか見ていなかった。
あれ? ミリネはギルドに登録しないって、もう言ったっけ?
「ええ、俺です。
グレンと言います」
「登録してやるから、その獣人を連れてさっさと帰れ!
そんなモノ、次から連れて来るんじゃないぞ。
レミィ、すぐに香水を撒いておきなさい」
なんだ、このおっさん、感じワル~。
俺が身を乗り出し文句を言おうとすると、ミリネが手を俺の腕に掛け、それを止めた。
「グレン、黙ってて!」
ミリネは小声だが強い口調でそう言った。
受付のお姉さんに連れられ、部屋を出る。
「すみません。
そのう……帝都ではこういうこともありまして」
申し訳なさそうに、彼女は小声でそう言った。
「分かっています」
ミリネはそう言ったが、納得できないから抗議しようとすると、またも彼女に腕を掴まれる。
黙った俺をミリネが引きずるようにして、二人はギルドの建物を出た。
ミリネは俺の腕を取ったまま、ズンズン歩いていく。
それを振り払うようにして、足を停める。
「あんなこと言われて悔しくないの?」
振り向いたミリネは、目に涙を浮かべていた。
「悔しいに決まってるじゃない!
人族なんて最低!
弱いくせに傲慢なのはゴブリンにそっくりだわ!」
そういうと、すぐに彼女は、はっとした表情になった。
「ごめん、グレン。
今の言葉は忘れて。
自分まで差別主義者になるところだった……」
「差別主義者?」
「ここ帝都では、人族以外の種族は見下されてるの。
昨日、あんたが倒れた時、薬師や宿屋を探したんだけど全部断られたんだ。
私が獣人だから……」
ミリネの表情からは、悔しさというより、悲しみが見てとれた。
「ミリネ、この世界にも差別ってあるんだね。
だけど、俺は君を差別したりしないよ」
だって、ケモミミ超かわいいじゃん!
それから二人はしばらく黙って歩いた。
街のにぎやかさとは逆に、俺は自分の心が冷めていくのを感じた。
もし、帝都の人たちが、みんなミリネを差別するようなら、こんな街、俺がぶっ壊してやる。
◇ - レミィ ―
私は二年前から帝都コレンティンのギルドで受付をしています。
今日、黒い瞳に黒髪という珍しい外見の少年がギルドを訪れました。
まだ、冒険者になって間もない彼は、どこか初々しいところが抜けていません。
けれど、彼のギルド章に記録された内容を見て驚きました。
フォレストボア 二頭
なんとフォレストボアを二頭も倒していたのです。
森を棲み処にするフォレストボアは、大きな魔獣で魔術攻撃にも物理攻撃にも、高い耐性があります。
そして、見たことがない記録が残っていました。
??? 一体
ギルドに記録がない魔獣を倒したときに、こういった表示が現われることがあると先輩から聞いたことがあります。
それに、なんといっても、彼のレベルが異常でした。
レベル43
これは、もう金ランクになってもおかしくないレベルです。
ギルマスが彼と話をするとき、そのことを持ち出そうとしたのですが、彼が早々に部屋から追い出されてしまったので、結局、言い出せないままでした。
彼がこの街に長くいるなら、いつかはこのことが問題になるでしょう。
それまでは、騒ぎ立てない方がいいでしょう。
触らぬドラゴンに火炎攻撃なしですものね。




