第59話 帝都のギルド(中)
「どの地方から出てきたんだ?」
ミリネと俺は、すでにオノボリさんに決定らしい。
「ええと、あなたは?」
ミリネは、警戒心ミエミエだね。
尻尾も太くなってるし。
「ああ、自己紹介がまだだったか。
俺っち、コレンティンギルド所属のトカレってんだ」
「えっ!?
ギルド所属冒険者ですか?」
ミリネはなぜか驚いている。
口調が急に丁寧になったよ。
なんで?
「ああ、これでも一応は金ランクの冒険者だ」
おー、金ランクって、なんだか凄そうだね?
「ええと、ここってやっぱりギルドですか?」
一応、確認しておく。
「がくっ。
おいおい、今さらなんだよ、この坊主」
「グレン、ギルド所属冒険者は、みんな一流なんだから失礼のないようにね」
「ええと、イベントは?」
不満が思わず口から洩れてしまった。
「なんだ、そのイベントってのは?」
「いや、だから、
『おい若造! なんでそんなかわいい娘を連れてるんだ! 俺に渡せ!』
とか、
『おい、お嬢ちゃん、そんなヤツより、俺が可愛がってやるぜ!』
とか、そんなのないんですか?」
「なんだ、そりゃ?
おい、あんた、こいつちょっとおかしいんじゃないのか?」
呆れ顔のトカレさんがミリネに尋ねる。
「グレンの事は放っておいてやってください。
この人、チューニャビーだから、時々おかしなことを口にするんです」
なぜか赤い顔のミリネがそう答えた。
「なんだって!
この年でチューニャビーか……。
そりゃ、気の毒だな。
まあ、なんだな、人生まだまだこれからだ。
兄ちゃん、諦めんなよ!」
山賊おじさんが、ぽんぽんと肩を叩いてくれるが、全く嬉しくない。
それより、なに、このイベント?
思ってたのと違う!
「このギルドでの登録、もう終わってるか?」
おじさんが、ミリネに話しかける。
この世界でも、俺は空気のように扱われるようだ。
「いいえ、まだです」
「じゃあ、それ食べ終わったら声かけてくれ。
俺っちが口添えしたほうが、登録が早く済むからな」
「ありがとうございます」
ミリネのお礼を聞くと、おじさんは近くのテーブルに座った。
同じテーブルには、いかにもベテランという人たちが座ってるから、彼が所属するパーティかもしれない。
「ついてるわね、いきなり金ランクの人に助けてもらえるなんて」
ミリネが思いっきり笑顔になっている。
なんかムカつくんだよね~。
◇
山賊おじさんの口添えが利いたのか、ミリネと俺は、個室で登録手続きをすることになった。
地球世界なら、すぐモデルとして働けそうな綺麗なお姉さんが、手続きをしてくれる。
「ええと、この箱の上にギルド章をかざしてください」
えっ?
そんなの今までなかったけど?
最初にテラコスギルドでギルド章を作るとき手をかざした、黒い板に似た素材でできた箱の上にギルド章を持っていく。
箱の上、空中に白い文字がだーっと流れた。
「「えっ!」」
お姉さんと俺の声が上がる。
俺は白い文字が流れる勢いに驚いたのだが、お姉さんは別のことに驚いたようだ。
「フォレストボア!
しかも、二匹も!?
それからこれは……!」
お姉さんは、慌てて部屋を飛び出していった。
なんだろう、いったい。
それより、この黒い箱、ギルド章の持ち主が倒したモンスターまで分かるのか。
あれ?
そうなると、森で殺されそうになった猪って、やっぱり俺が倒してたの?




