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第57話 帝都


 クレタンの街から駅馬車で四日、ミリネと俺はやっと帝都に着いた。

 ギルドから紹介された駅馬車は、荷馬車に幌がついただけの簡単なもので、秋になりかけているから、朝夕は冷たい風がそのまま吹きこんでくる。

 その上、この世界の馬車にはサスペンションなどというものはないようで、地面の凸凹が直接体に響いた。お尻がとても痛い。ミリネは、レシーナさんから餞別にもらったクッションで難を逃れていた。

 旅の途中、野宿したせいか体調が悪い。どうやら風邪を引いたようだ。


 帝都を守る高い城壁を抜けると、白壁の家並みが広がる美しい街だった。

 石畳で舗装された通りは、馬車四台が並んで通れそうなほど広い。

 荷馬車は、かっぽかっぽと蹄の音を立て、厩舎が並ぶ広場へと入っていく。


「着いたぞ、帝都だ」


 御者のおじさんは、それだけ言うと幌馬車から馬を解き、その世話を始めた。


「グレン、大丈夫?

 あんた顔色が悪いわよ」


「大丈夫、大丈夫……」


 そうは言ったが、荷台から降りた途端、目まいがしてうずくまってしまう。


「全然大丈夫じゃないじゃない!

 待ってなさい!

 人を呼んでくるから!」


 ミリネはそう言うと、どこかに駆けていった。

 

「おい、お前っ!

 さっさとどけろっ!

 馬に踏み殺されてえのか!」

「邪魔だ、邪魔だ!」

「おい、なんでそんなとこに座ってんだ!」


 頭の上でそんな声がするが、熱が出たのか、だるくなった体を動かすことができない。

 近くにあった木の柱に倒れるようにもたれかかると、意識が遠ざかっていく。

 限りない喉の渇きにのみこまれるようにして意識を失った。


 ◇


 目が覚めると、周囲は暗く、なにか香ばしい匂いがした。

 手で探ると、自分の上に干し草が載っているようだ。

 匂いは干し草からのものだった。


「ミリネ?」


 近くで誰かの寝息が聞こえる。

 寒気がしたので、周囲の干し草を自分の方へかき寄せた。

 馬が息を吐く音が聞こえたから、ここは厩舎かもしれない。

 そんなことを考えながら、眠りにつこうとするが、喉の渇きがそれを妨げる。

 がさごそやっていると、聞こえていた寝息が止まった。


「グレン、起きてる?」


 ミリネの声を聞き、なぜだかすごくほっとしてしまった。


「起きてる」


「ごめんね。

 薬師に来てもらえなかった」


 治療師のことを尋ねようとして、教会には近づけないことを思い出した。


「宿も借りられなかった」


 ミリネの声は暗かった。

 そういえば、ギルマスのフッカさんが、お金が入った革袋を渡してくれたはずだ。 

 あのお金では宿代に足りなかったのかもしれない。


「み、水が欲しい」


 喉の渇きは耐えがたいものになっていた。


「あ、待ってて」


「はい」


 ミリネの手が俺の手に触れ、果物だろう丸いものが渡された。

 しゃくりと歯を立てると、それはリンゴに似た、しかし、かなり酸っぱい味がした。

 果汁たっぷりの果物は、身体の隅々にまで沁みわたった。


「明日のために、ぐっすり寝た方がいいよ。

 ごめんね」


 なぜかミリネは、またそう言った。  



   

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