第55話 スキルへのヒント
通路の奥へ弾き飛ばされた化けものは、ゆっくり立ち上がると、再びこちらへ近づいてくる。
どんだけしつこいんだ!
「ルシル校長!
なんとかしてくださいよ!」
「そう言うがな、私ではダメだ」
闇の中、ルシル校長の魔眼が金色に光った。
こんな時なのに、彼女は落ち着いている。
「グレン、お前がヤツを倒せ!」
「えっ?
俺、魔術なんか使えませんよ?」
「今は、無駄な事で思い悩むな!
とにかく、ヤツを右手で狙って叫んでみろ!」
彼女の言っていることは支離滅裂に聞こえるが、とにかくやってみるか。
「死ねっ!」
……当然だが何も起こらない。
のそのそと近づいてくる化けものの目が紅く光る。
「さっきと同じにやってみろ!」
校長先生、そう言われましてもねえ。
さっき、どうやったっけ?
ええと、右手をヤツの方へ伸ばして……。
「ぶっ飛べ!」
ゴンッ
なにかがぶつかったような鈍い音がすると、化けものの体が通路の奥へふっ飛んだ。
「えっ、なにこれ!?
俺がやってんの?」
「そうだ、グレン。
その力でヤツを滅しろ!」
いやいやいや、滅しろって言われましても……どうすりゃいいの?
「とにかく、なんとかしてみろ!」
そんなこと言われてもねえ、ほら、また紅い目の人、近寄ってきてるし。
「消えろ!」
……何も起きない。
「消え失せろ!」
……これもダメか。
「向こうへ行け!」
……だめ?
「こっちへ来い!」
「バカ!
呼んでどうするのよ!」
あれ、ミリネ、いつの間にか元気になったんだね。
「そうだ!
グレン、『地獄の業火に焼かれちまえ』って言ってみて!」
「なんかカッコいいね、それ!」
「や、やだっ!
来たわよ!
急いで!」
へいへい、まあやってみますがね。
「地獄の業火に焼かれちまえ!」
ブゥオッ!
近くまで来ていた紅目のモンスターの足元から炎が噴き上がった。
ヤツを飲み込んだ炎の柱は通路の天井にぶつかり、巻き込むような紅蓮の渦を作った。
「あつっ!」
余熱にこちらまで焼け焦げそうだ。
ミリネの腕を取り、炎から遠ざかる。
「大丈夫、ミリネ?
ヤケドしてない?」
「私は大丈夫よ。
それよりアイツ――」
ミリネがそこまで行った時、ヤツの目と口から炎が噴き出した。
火が消えたら、きっとさっきみたいに襲ってくるぞ。
へ?
なんで崩れ落ちてるの?
なんか、バラバラというか、粉々になってるんですけど。
もう、身体とか無いんですけど。
……。
……。
……。
あー、完全に灰になっちゃったよ。
「どういうこと!?」
「こっちが聞きたいわよ!」
ツッコミありがとう、ケモミミ少女さん。
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