第50話 作戦
三つのパーティが合わさった集団は、さすがに難なく第三層のボス部屋をクリヤした。
ボスは、二体のゴブリンを従えたやや大きなゴブリンだった。
ホブゴブリンと言うらしい。
リッチモンドが、長剣の一振りで倒してしまった。
大したものだよね。
第二十一層まで降りた時、俺もアイツを倒してるはずなんだけど、その時のこと、全く覚えてないんだよね。
よっぽど頭に血が昇ってたらしい。
なんでそんなことになったか思い出そうとしてると、ルークに声を掛けられた。
「グレン、お願いがあるんだけど……」
彼と俺は第四層への階段を降りている。
「お願いってなんだい?」
「この後、ミーティングであの化けものと、どう戦うかを話し合うことになるとおもうんだけど、君に前衛を任せてもいいかな?」
「どういうこと?」
「君だけがアイツと戦ったでしょ。
前衛をしながら指示を出して欲しいんだ」
「そんなこと務まりそうにないよ」
「とにかく、ミーティングでそう決まったら、従ってくれるかい?」
「……うーん、君やリッチモンドがすべきだと思うけど」
「頼むよ」
「……考えておく」
そして、『別荘《安全部屋》』で行われたミーティングで、前衛を入れ替えながら戦うという方針が決まった。
『別荘』の近くで戦い、疲れたら部屋で待機している生徒と交代することになる。
結局、俺はできるだけ長く前衛で戦うことを引き受けるしかなかった。
「き、来たわ!」
偵察に出ていたリンダが部屋に駆け込んでくる。
突き出した胸の革鎧が弾んでいる。
彼女はその体形に似合わず俊敏なんだよね。
「よし、リッチー、グレン、行くよ!」
「おう!」
「お、おう……」
例のモンスターがやってくるだろう方に向かい、俺が先頭でその左右斜め後ろに、ルークとリッチーが立つ。
「ケケケケケ」
例の甲高い音、いや、声が聞こえてきた。
少し離れた暗闇で二つの紅い目が光る。
「切りつけた後、敵に掴まらないように気をつけて!」
前を向いたまま、ルークとリッチーに声を掛けておく。
俺たちの姿はすでにヤツからも見えているはずだが、近づいてくるスピードは落ちない。
人型のモンスターは掴みかかるような格好で両手を上に挙げ、先頭にいた俺に襲い掛かった。
◇
人型モンスターとの戦いは膠着状態だった。
上層で戦った時にくらべ、ヤツは明らかに強くなっていた。
スピードは上がっていなかったが、かなり力が強くなっていた。
始めてヤツと戦った、ルーク、リッチモンドが弾きとばされたぐらいだ。
「はあ、はあ、リンダ、下がって!」
「分かったよ、グレン!」
「リンダ、こっちに任せろ!」
短槍で連続突きを出しながら、コルテスが前に出る。
「グレン、もう下がって!」
斜め後ろの安全部屋から、ルークの心配そうな声が聞こえてくる。
多分、戦い続けの俺を心配してくれているのだろう。
「いや、まだ――」
「ルークの言う通りだ!
グレン、休め!」
リッチモンドの声もする。
彼らの言う通り、一旦、休んでおこうか。
一瞬、注意力がヤツから離れた。
それを見計らったように、紅い目のモンスターがこちらに向かってきた。
その右胸には短槍が突き刺さっており、それを手で抱えたコルテスごと突進してくる。
避けるタイミングを逃した俺に、モンスターが襲い掛かった。




