第49話 救援
冒険者学校二回生担当の実技教師であり、ベテランの銀ランク冒険者でもある『顔傷』ザラートは、強面の彼に似合わない、焦った表情でダンジョンの通路に立っていた。
彼の足元には血だまりがあり、おそらく人だったであろうものの残骸が散らばっていた。
冒険者としてこういう場面に慣れている彼でさえ、吐き気を催すような臭いが漂っていた。
「これは普通じゃないな」
床に屈み、小型の魔道具で周囲を調べた彼は、ダンジョンで何かが起きていると判断した。
残骸からは、生徒を示すものが見つからなかったのがせめてもの救いだ。
しかし、これは一刻を争う事態だ。
立ちあがった彼は、周囲を警戒しながら、ダンジョン奥へ向け足を速めた。
◇ ― ミリネ ―
冒険者学校の校庭に出た校長は、自分と私に身体強化の魔術を掛けると、空へ飛びあがった。
話には聞いていたが、【飛行】の魔術を目にしたのは初めてだ。
彼女はあっという間に、ダンジョンの方角へ飛び去った。
仕方なく、私もダンジョンへ向け学校から駆けだした。
体は軽く、まるで夢の中で走っているようだ。
道行く人たちが、びゅんびゅん後ろへ流れていく。
少し息が切れる頃には、もう目的地に着いてしまった。
ダンジョンの入り口には、五六人の冒険者らしい男女がたむろしていた。
「おい、嬢ちゃん、今は中へ入れねえぜ!」
「ダンジョンに入るなって、ギルドからのお達しなんだよ」
「俺たちゃ、ここで人を待ってるんだ」
彼らはダンジョンの入り口を塞ぐような素振りを見せた。
「おーい!
待たせたなー!」
男性の大声に振り向くと、十人程の冒険者が早足で近づいてくる。
その人たちが装備している武器が、カチャカチャと音を立てている。
集団の最後尾には、ルシル校長の姿があった。
おそらく冒険者ギルドに立ち寄ったのだろう。
漆黒のローブを羽織った華奢な彼女は、ごつごつした冒険者たちと一緒だと、ひどく場違いに見えた。
額から目尻にかけ三本の傷がある、マッチョおじさんが驚きの声をあげた。
「あ、姐さん!?」
「おや、レジンじゃないか。
久しぶりだな」
私の横に並んだ校長が、落ち着いた声で答える。
彼女は少しも息が乱れていなかった。
「その娘っこは誰です?」
「こいつは私の弟子だ」
「「「ええっ!?」」」
なぜかみんながとても驚いた。
「な、なんで『魔女』ルシルが弟子を?」
「いいなあ!」
「ホントだわ!」
魔法使いだろうローブ姿の冒険者たちが、こちらを羨ましそうに見ている。
「それぞれのパーティが戦闘時の隊列を確認できてるか?」
「「「はいっ!」」」
ルシル校長の声に、みんなが声を揃えた。
まるで学生みたいだ。
「では、行こう。
レジン、前衛は頼んだぞ」
「イエス、マム!」
大柄なおじさんがぺこぺこしてるわね。
こうして私たちは、グレンたちの後を追い、クレタンダンジョンへ入った。




