第46話 混乱
「おいおい、ルークさんよ。
血相変えて、どうしたんだ?」
座り込んだ数人の中から、頭に簡易型の兜を載せた、大柄な少年が立ちあがった。
「はあ、はあ、やっと追いついた!
リッチモンド、『疾風の虎』は全員揃ってる?」
「ああ、さっきまで偵察役二人が前に出てたが、もう戻ってるぞ」
「すぐに逃げて!」
「おいおい、穏やかじゃねえな。
何から逃げるんだ?」
「化けものって言ったらいいかな。
人型をしたモンスターのようなものだよ。
さっき誰か逃げて来なかった?」
「そういやあ、血だらけのおっさんたちが、奥へ走っていったぞ」
「その人たちも、きっとソイツに襲われたんだ」
「だけど、ここは第二層だぞ。
そんなに強いモンスターが出るか?」
「毒に感染した冒険者がモンスター化したらしいんだ。
今、ウチのグレンがヤツを足止めしてる」
「なんだそりゃ?
そんなことが本当にあるのか?
おい、誰か聞いたことあるか?」
地面に座って休んでいた、少年の一人が声を上げた。
「あっ、それっておばさんから聞いた事あるかも。
そうなった人は目が赤くなるんだって」
「間違いないね、ヤツは目が赤かったから」
「おいおい、マジかよ!
みんな、休憩は終わりだ!」
大柄なリッチモンドが手をパンパンと打ち合わせると、座って休んでいた『疾風の虎』のメンバーがのろのろ腰を上げた。
「で、どうする?」
「そうだね。
まず、第一班『幸運の鐘』と合流しよう」
「イニスとリンダは大丈夫か?」
リッチモンドがぐったりした少女二人を指さす。
「ああ、彼女たちは、ボクとコルテスでなんとかする」
「よーし、みんな、第一班に追いつくぞ!」
いくつか気乗りしない声が返ってきたが、リッチモンドは気にしなかった。
「最後尾は、こっちに任せろ!」
「リッチー、ありがとう」
頼りになる級友に、ボクは心から感謝した。
◇ ― グレン ―
人型モンスターとの戦いは、続いていた。
時間の感覚がなくなっていく。
呼吸が苦しくなり、限界が近づいているのが分かる。
モンスターの動きが比較的遅いのが幸いして、攻撃は一度も受けていない。
こちらの攻撃は何度もヤツの体を切り裂いている。
しかし、その傷口から血が流れない。そして傷口は、見ているうちにも消えていく。
それはまるで映像を巻き戻しているかのようだった。
グサッ
心臓があるだろう箇所に剣が突き刺さる。
傷口はすぐに消えたが、さすがにヤツの動きが悪くなる。
地面に膝を着き、うずくまるような姿勢となった。
とどめを刺そうと近づくと、ヤツは顔を上げニヤリと笑う。
不気味にもほどがある。
自分の体力を考えると、ここは一度、引いた方がいいだろう。
剣を鞘に納めると、ルークたちが向かった方へ足早に向かう。
「ケケケケケ」
背後から聞こえる例の笑い声が遠ざかると、俺は大きく息をついた。
なんとかヤツを倒す方法を考えなければならない。
そうしないと、永遠にダンジョンから出られないのだから。




