第42話 闇の中で(上)
ぼんやり光るダンジョンの壁が、通路の形を浮かび上がらせる。
こういう時、愛用していたマグライトがあればなあと思ってしまう。
「イニスは、周囲を照らすような魔術は使えないの?」
隣に並ぶルークに小声で尋ねる。
「使えるよ。
でも、魔力を温存するために使わないんだ。
それより、打ち合わせ通り、本当に必要な事以外は、しゃべらないようにね」
「あ、そうだった。
ごめん」
「今から気をつけて」
周囲にいるモンスターの気配を知るためには、五感を研ぎ澄ませ、周囲を探る必要がある。
「いるよ!」
盗賊のリンダが小さいがハッキリした声で、モンスターの接近を知らせる。
「スライム二体!」
すぐにルークが短剣を抜き、腰を落として構えた。
キュッ!
イニスの火魔術が命中して、左側のスライムが死んで形を崩す。
ルークの短剣が、残った右側のスライムを切り裂く。
スライムは音もなく床に広がった。
「今のはグレンが処理するべきだよ。
ボクに遠慮せず、積極的に戦ってね」
確かに、こちらの方が敵に近かったね。
「うん、分かった」
ちょっと遠慮しちゃってたかもしれない。次からは、ガンガン攻撃しよう。
俺たちは、第一層をどんどん進んでいった。
◇
「クレタンダンジョンは初めてだが、たいしたことねえな」
グレンを追っている男たちの一人は、余裕を見せている。
「お前は馬鹿か?
ここは、まだ第一層だぜ。
モンスターもコウモリとスライムだけだが、中にゃ変異種もいるんだ。
油断してると死ぬぞ!」
「へん!
来るなら来いってんだ!
だいたいこの人数で来ちまったのが、間違いじゃないのか?」
「ああ、確かにな。
標的の小僧、まだ冒険者になったばかりなんだろ?
この面子が十五人も必要だったのか?」
「まあ、金になりゃそれでいいじゃねえか!
げへへ、報酬で何するか、俺ゃ今から楽しみだぜ!」
「違えねえ、ぶははは!」
「うえっ!
なんだこりゃ?
気持ち悪ぃ!
スライムか?
黒えスライムなんて初めて見たぜ」
「おい、お前!
そいつに直に触らなかっただろうな?」
「よく分かんねえが、なんでだ?」
「黒スライムは毒を持ってることがある。
毒消しポーション飲んどけよ」
「馬鹿言え!
ダンジョンの浅えとこで、そんなもん必要ねえ。
持ってるわけねえじゃねえか!
おい、誰か毒消しねえのか?」
「持ってねえぞ」
「そんなもんねえな!」
「お前の言う通り、こんな浅えとこで毒消しなんか要るか?」
金だけで集められた男たちは、仲間の事など気にしていなかった。
彼らの中で四人の男が毒消しポーションを持っていたが、万一の時に備えそれを自分用にとっておいたのだ。
この辺、個人主義の冒険者らしいといえばいえる。
ただ、これが自分たちの運命を決定づけると、予想したものはいなかった。




