表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/181

第33話 魔道具屋

 ギルドの小部屋で待っていたが、いくらたっても誰も来ないので、受付に顔を出してみた。


「あのう、個室で待ってろって言われたんですが……」


「ええと、君、だれ?」


 初めて見る、きつい目つきの女の人が、じろりと俺をにらむ。

 

「……いえ、いいです」


 開きっぱなしの戸口から見える外は、もう暗くなっている。

 仕方ないからギルド内の宿泊室に戻る。

 人さらいをやっつけた日には豪華な部屋に泊まれたが、次の日からは狭い個室が当てがわれた。

 落ち込んでいるミリネは別の部屋に泊っている。

 彼女のことが心配だったが、ベッドに横になると、そのまま寝てしまった。


 ◇


 翌日、起きるとすぐに、ミリネが泊っている部屋の外から声を掛けたが、弱々しい声で、一人にして欲しいという返事が返ってきた。

 ルークたちは冒険者学校で座学の授業に出ている。

 暇だ。


 今日になって、『赤い剣』を捕らえた報酬が入ったので、懐は温かい。

 ちょっと街にでも出てみようか。

  

 ◇


 まず鍛冶屋に寄り、研ぎが終わった短剣を返してもらう。

 冒険初心者セットの砥石を見せると、おじさんに叱られてしまった。

 いい加減な砥石を使うと、かえって剣がダメになるそうだ。

 勧められた砥石を買ったが、銀貨二枚も取られた。

 ただの石に二万円か……。


 鍛冶屋を出て、行くあてもなく歩いていると、ある店先に並べられた商品が目に飛びこんできた。

 安っぽい指輪やネックレスの奥に置かれた、その品物は黒い眼帯だった。

 眼帯にはアイパッチのまん中に銀色の紋章が書かれており、そのデザインが俺の心を震わせた。


「おっ!」


 それを手に取った途端、体に電流が走った。

 これ、イイ!


「ピュウ!」


 肩にとまっているピュウが、なぜか鋭く鳴いた。

 お前も、これが気に入ったのか?


 ◇


 狭い戸口から半地下式の店に入ると、得体の知れない品々に囲まれた薄暗いカウンターで、緑色の髪をポニーテールにまとめた少女が石のようなものをルーペで見ていた。


「あのー」


 声を掛けるが、彼女はこちらを見もしない。


「あのー」


 幾分声をあげ、話しかけてみる。

 女の子は上目遣いにちらりとこちらを見た。

 綺麗な娘だけど、すっごく不愛想な感じ。

 それより、長く突き出した耳……。


「も、もしや、エルフ!?」


「仕事中にいきなり入ってきて、その言い草はないんじゃないの?」


 見かけより落ちついた声で、少女が答える。


「確かに私はエルフだけど、あんた、初対面の人にいきなり『人族?』って尋ねられたら気分悪いでしょ?」


「ど、どうもすみません。

 俺、グレンと言います。

 声は掛けたのですが――」


「えっ!?

 もしかしてお客さん?

 これは夢かしら?」


 彼女は自分の頬をつねっている。

 どんだけお客が珍しいんだよ!


「ええと、ここは何の店ですか?」


「えっ? 

 それも知らずに入ってきたわけ?」


「ええ、表の眼帯を見せてもらいたいのですが?」


「ああ、あそこに出してるものは、手に取ってもらって構わないわよ。

 ここは魔道具屋よ。

 ポーションなんかも扱ってるけどね。

 それより、あんた、【鑑定】持ち?」


「ええと、鑑定って、品物の性能なんか見るだけで分かるってスキルですよね?」


「そう、それよそれ」


「ええと、そのスキル持ってません」


「そう……(やったわ!) 

 ええと、あれ、私が錬金術で作ったんだ」


「へえ、【裁縫スキル】で作ったんじゃないんですね」


「ああ、正確に言えば、市販の眼帯に錬金術で能力を付与したもんだよ」


「へえ、そんなことできるんですね。

 さすが異世界!」


「イセカイ?」


「いや、それはこっちに置いといて……あの眼帯、どんなスキルが付与されてるんです?」


「……まあ、その辺はいいじゃない。

 それより、買うの?

 買わないの?」


「そのう、ぜひ買いたいんですが、付与されてるスキルって?」


「今なら安くしとくわよ」


「ええと、そういことではなくてですね、付与してある――」


「そう、分かったわ!

 ずい分、あの眼帯が気に入ってくれてるみたいだから、銀貨一枚でどう?」


 相場から言うと一万円くらいかな?


「た、高いですね!」」


「えっ?

 べっ、別に高くなんかないんだから!

 スキルも付いてるし!」


「だから、そのスキルって――」


「カッコいいでしょ、あれ?」


「ま、まあ……」


「銀貨二枚でどう?」


「さっき、銀貨一枚って言ったよね!」


「チッ、分かった、分かった。

 じゃ、銀貨一枚ね」


「は、はい」


 こうして俺は黒い眼帯を手に入れた。



  

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ