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第20話 スライムと何か

 俺は武器屋で買ったスモールソード、ミリネは魔道具屋で買ったワンドという短い魔法杖を手にしている。

 俺の左手には初心者セットの盾、ミリネの左手には武器屋で見つけた小型の盾がある。

 ミリネは前衛の俺が武器屋の盾を持つべきだと言ったが、そこは俺が譲らなかった。

 

「出たっ!」


 俺たちの前に最初に現れたモンスターは、緑色のスライムだった。

 大きさはサッカーボールくらい。

 涙型と言うより、球形に近い。

 もうちょっと、べちゃっとしたモノを想像していた俺は、その姿に意表をつかれた。


 突然、ぽいんと弾んだスライムが、俺の顔に飛んできたのだ。

 油断した俺は、顔のまん中に、もろにそれを喰らってしまう。


 あれ?

 思ってたより、痛くない。

 ちょっと鼻がむずむずする程度。


 キュッ


 小さな火の玉が飛び、それに触れたスライムが、小さな音を残しぺチャッと潰れた。

 ミリネの火魔術だ。

 彼女はさっと近づくと、液体状になったスライムの中から小指の先ほどの石を拾いあげた。


「それなに?」


「だからー、初心者の冊子を読みなさいよ!

 魔石に決まってるじゃない」


「おおー、それが噂の魔石か!」


「どんな噂かしらないけど、そうよ」


「何に使うの?

 売れる?」


「魔道具の動力として使ったり、薬の材料として使ったり、使い方は色々ね」


「ふーん、便利だね」


「まあ、この魔石だと、銅貨十枚くらいかな」


「えーっ!

 元が取れないじゃない!」


 ミリネと俺の装備を買うために、銀貨五枚はかかっている。


「しょうがないでしょ、スライムなんだから」


 そうか、この世界でもスライムは最弱か。


「でも、スライムだからって油断しちゃダメよ。

 時々、変異体もいるから」


「変異体?」


「スライムが変化したモンスターね。

 弱くなる時もあるけど、強くなることの方が多いわ。

 時々、信じられないほど強いのもいるから、気をつけて」


「でも、どうやって気をつければ――」

 

「だから、冊子を読めって言ってるでしょ!

 色が違うのよ、色が」


「ふうん、じゃ、大丈夫だね」


「馬鹿なの?

 薄暗いダンジョンよ。

 赤とか黄色とかになってればまだしも、濃い緑とか、薄い緑とかになってると、普通のやつと見分けがつかないじゃない」


「そんなに、バカバカ言わなくても――」


「馬鹿だから馬鹿って言ってるの!

 しっかりしてちょうだい!」


「な、なんか、ミリネ、性格変わってない?」


「馬鹿っ! 

 あんたがしっかりしないからでしょ!」


「ひえー、ミリネがツンツンになったー!」


「なによそれっ!

 意味分かんないけど、私を馬鹿にしてるよね!」


 ◇ ― ??? ―


 さっきから頭の上を小さなコウモリが飛んでいる。

 きっと我が命の尽きるのを待っているのだろう。

 姿形は違おうとも、最強である我が種族の強さが分かるのだろう。

 迷宮に棲む腐肉漁り(スライム)どもも、すぐ側の闇でうごめいている。

 そやつらも、我が死ねば、この小さき体を貪るのであろう。

 

 無念なのは戦って死ねぬことだ。

 叶うなら、我をこのような姿に変えたアヤツに一撃を加えたかった。

 意識が薄れていく。

 無念だ……。


「ミリネ、あそこに何かいるよ」


 その時、のんびりした人族の声が聞こえてきた。 






 


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