第180話 新しい冒険
昨日は、結局あのまま宴会に突入して、騒ぎに騒いでいつのまにか意識がなかった。
自分のベッドで目を覚ました俺は、暑苦しさに寝がえりを打とうとしたが、狭すぎてそれができない。
横を見ると、巨大な猫男がばかに広い背中をこちらへ向けて寝ている。
はっ! 思わず、自分の着衣を確かめちゃったよ。
「ふう、でっかい猫が邪魔だな」
「猫?」
おいー! このおっさん、起きてたのか!
「ワシは猫人ではないぞ。
虎人だ」
衝撃の事実!
ということは……!
ミリネのあれ、猫耳じゃなくて、虎耳だったのかー!
◇
「あなた、明日からは、もう少し早く起きてください」
美しいエルフ、フォーレがガオゥンにかけたのは穏やかな言葉だったが、なぜかガオゥンは、背筋をピーンと伸ばした。
「は、はい、わかってます」
誰? ガオゥンっぽくないよ、それ!
「フォーレさん、その恰好は?」
彼女は、メイド服っぽいものを着て食堂のテーブルを拭いていた。
「お手伝いですわ。
長逗留するのですから、少しくらいはお役に立たないと。
ミリネも朝から働いてますよ」
えっ!
そうだったの!?
ミリネ、キャン、セリナの三人が、キッチンから現れる。
「グレン、水くみはあんたの仕事でしょ?
なに寝坊してんのよ!」
そんなミリネの声を聞くと、なんか異世界に来たばかりの頃に戻ったみたいだ。
「グレン、黒いコート着てよ!」
「うん、あれいいね!」
キャンとセリナが、両腕に抱きつく。
「ははは、グレン、朝からモテモテだね」
二階からラディクが降りてくる。昨夜はみんなこの宿に泊まったんだよね。
「うー、頭が痛いのじゃ……。
マール、例のやつ掛けてくれ」
「まったく、お前さんは都合のいい時だけ人をつかいおって!」
ルシルとマールも食堂に降りてきた。
「「「オハヨー!」」」
「うるさい!
頭に響くじゃないか!」
ルークたちは元気よく挨拶しただけなのに、ルシルにたしなめられている。
「よーし、お客が来るまでに、例の話を済ませておくか。
みんなこのテーブルに集まって!」
ラディクがそんなことを言いだした。
食堂の用意をしている者以外が、二つ合わせたテーブルの周りに集まった。
俺?
ゴリアテに言われて、なぜかこちらに参加している。
「かねてから話していた通り、『剣と盾』は、未攻略のダンジョンに再挑戦することにした。
向かうのは、最も攻略が難しいダンジョンとして名高い『果ての無い迷宮』だ」
「「「おお!」」」
えっ、なに? みんなそのダンジョンのこと知ってるの?
「前回は、紅い目の不死獣を倒せず、途中で攻略を断念したが、今回はグレンがいる」
「「「おお!」」」
ん!?
聞き間違いか?
今、俺の名前が――。
「グレンがいれば、たとえ不死獣が現れても攻略できるだろう」
「「「おお!」」」
やっぱり、聞き間違いじゃない!?
「あのー……盛りあがってるところ悪いんですが、なんで俺が入ってるんです?
だいたい、俺、この宿を手伝わなくちゃいけないし、それに『剣と盾』の一員でもないし――」
「なにを言っておるのじゃ!
お前はすでに『剣と盾』の一員じゃぞ。
ギルドにも、登録してある」
ええっ! ルシルのヤツ、勝手になにしてくれてるの!
「グレン、あのね、ボクたち『絆』も、荷物持ちとして参加するんだよ!」
ルーク……どんだけ、おメメをキラキラさせてるんだよ!
「私たち、『絆』に入ったの!
グレンよろしくね!」
ええっ! キャン……君たち何してるのかな?
「私、回復魔術が使えるの!
グレンがケガしても治してあげる!」
「お姉ちゃん、グレンは私のよ!」
キャンとセリナが、それぞれ俺の両腕にぶら下がる。
なんか、いつものパターンだな。
バチッ!
「「きゃっ!」」
「あわわっ!」
突然、俺の体に電気のようなものが走り、キャンとセリナがを手を離す。
ミリネが俺の手を取り、ぐいっと引っぱると、食堂から外へ跳びだす。
「うふふふ」
ミリネは、頬をピンクに染めて、なんだか楽しそうだ。
目を合わせた俺たちは、走りながら、なぜか笑っていた。
「「あはははは!」」
遠ざかる『剣と盾亭』を振りかえると、みんながわらわらと出てくるところだった。
遠目にもゴリアテとガオウンが、鬼のような顔をしているのが見えた。
「グレンー!」
「坊主ー!」
ミリネと俺は、指をからめるように手を繋ぎなおすと、青々とした草原をどこまでも駆けていく。
「「「グレン、ぶっ飛べー!」」」
はるか後ろから、そんな声が追いかけてきた。
完
『俺のスキルは【中二病】』いかがでしたでしょうか。
不器用な少年が、奇妙なスキルに振りまわされながらも、多くの仲間に助けられ、異世界でたくましく生きていく。そんな物語でした。
みなさんの評価によっては、エピローグの追加、大幅な改稿、サイドストーリー、続編を考えております。
長らくお付き合いいただき、感謝感謝です。
作者




