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第175話 みんなの想い

 その日、『地球世界』では、夕暮れの夜空を流星群が彩っていた。

 ある町に住む幼い女の子が、小さな部屋の窓を開け、祈りをささやく。


「精霊さんたち、私の願いを聞きとどけて。

 動物も木も花も、みんな仲良く元気に生きられますように!

 マジカル、マジカル、くるくるリーン!」


 最後にお気に入りのアニメで主人公がつかう決め台詞を加え指を振ると、空中に光の輪が現れた。

 それは、空を流れる星を飾り、キラキラと消えていった。


「魔法!

 私、魔法が唱えられた!

 お母さーん!」


 少女は、弾むような足取りで、部屋から駆けだしていった。


 ◇


 その頃、別の街に住む男の子が、夜明け空に尾を引く流星に祈っていた。


「天より落つる光よ!

 全てを浄化し、この地に癒しの祝福を!」


 自分が作りだした世界に没入し呪文を唱えることで、毎日学校で蔑まれている記憶から一時でも逃げられる。

 すぐ毛布にもぐりこんだ少年は、自分の手が白く輝いていることに気づかなかった。


 ◇


 友達と帰宅途中の女子高生は、青空に尾を引く流れ星が見えたような気がした。

 確か流星群が来るって聞いてたけど、あれは違うでしょうね。だって、まっ昼間じゃない!

 でも、もしかすると……。


「万物に宿る精霊たちよ!

 今こそ集いて、白き癒しの光とならん!」


 本当に小さな声で唱えられたその声は、友人に拾われてしまったようだ。


「え?

 なにか言った?」


「うっ? 

 な、なにも言ってないよ!

 空耳よ、空耳!

 それより、今日、あの店に行こうよ!」


 彼女が友人の背中に添えたその手は、ぼんやり白く光っていた。

 ただ、真昼の明るさで、だれ一人その光には気づかなかった。


 このとき、『地球世界』では、何万人もの手が光った。


 ◇


 ここは、『ボナンザリア世界』にあるエルフ王国。その西の端にある関所付近で、黒いロングコートを着た一人の少年が、黒焦げになった獣人の男性と倒れたエルフ女性の横で叫んでいた。


「な、なんでだよ!

 まだあの子だって、なにも知らされてないのに!

 ふざけるな!

 こんな理不尽が許せるか!」


 そんな少年に、盾を手にした大男が言う。


「グレン! 

 あのドラゴンを倒してくれ!」


 勇者が言う。


「グレン、頼むぞ! 

 不死獣を滅ぼしてくれ!」


 魔女が言う。


「グレン!

 アヤツをぶっ飛ばすのじゃ!」


 少年はゆっくり立ち上がると、客車の中にいる少女の悲しそうな顔をチラリと見た。


「確かに、みんなの言うとおりだ。

 俺も、紅い目のドラゴンを倒したい

 だけど……ミリネに泣き顔は似合わないんだ。

 俺がなんとかしてやる!

 頼む、『地球世界』にいる中二病のみんな、俺に力を貸してくれ!」


 それを耳にした白ヒゲの賢者が言った。


「グレン、【スキルゲージ】の解放を許可する!」


 少年の声は、やけに静かなものだった。


「時間を。

 少しでいいから時間を稼いでくれ」


「うぬ、長くはもたぬぞ!」


 少年は、懐から二つのものを出した。

 それは黒い眼帯と黒い包帯だった。


 グゥオオオオオ!


 再び立あがった、紅い目のドラゴンが咆える。

 しかし、少年にはその声が聞こえていないようだった。

 ゆっくりした動作で黒い眼帯をつけると、右袖をまくり、腕に黒い包帯を丁寧に巻きはじめた。


 ゴリアテが、マールが、ルシルが、最後の力を振りしぼり、白ローブの放った火球を防いでいる。

 ドラゴンママとラディクが、紅い目のドラゴンと戦う。


 しかし、膨大なエネルギーを含む白ローブの魔術と不死の巨大生命体を前にして彼らの力は尽きようとしていた。


 ◇

 

 ミリネの泣き顔を見た瞬間、それまで猛り狂っていた俺の心は妙に静かになった。

 なんとしても、お前を笑顔にしてやる。

 スキルの力を最大限に引きだすため、眼帯『黒き邪眼』で左目を覆い、包帯『悪魔の右手』を右腕に巻く。

 スキルゲージを「1」から「100」へ上げる。

 目の端に派生スキル【ラッキースケベ】がチラリとはいり、思わず苦笑いすると、肩の力が完全に抜けた。

 

 顔を上げた俺の目に、倒れた仲間たちと、ちょうど崩れおちるドラゴンママの姿が映った。 

 彼らの上に、白ローブの魔術攻撃が雨のように降り注ぐ。

 俺は、静かに呪文を唱えた。


「聖なる光よ、この地に集まりて万物の汚れを打ちはらえ!

 地球世界に生きる全ての中二病《友》よ、我に力を!

 うなれ我が漆黒の右手、【浄化】!」


 右手のひらを空に突きあげる。

 なにも起こらない……。

 もしかして、スキルの失敗!?

 俺、やばいくらい外しちゃった?

 そう思った瞬間、周囲が光の洪水に呑みこまれた。





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