第171話 決戦の地(4)
「アハハハハハ!」
草原に枢機卿の哄笑が響きわたる。
それは甲高く耳障りな声だった。
「『司祭』よ、よくやった!
ドラゴンを召喚し、それを『不死獣』として操るには、初めから困難が予想されていてな。
それは、召喚されたドラゴンをどうやって大人しくさせ、『汚れた血』を注入するかだった。
愚かなお前たちのお陰で、事がたやすく運んだわ!
アハハハハハハ!」
カフネは、切断された腕からの出血からか、うずくまって動けないでいる。
よくやっただと!?
あれを見て、よくそんなことが言えるな!
「不死のドラゴンよ!
こやつら全てを喰らいつくせ!
アハハハハハハ!」
首だけとなったドラゴンは、青色から闇のような黒色へと変わり、どうやってかシュルシュルと草地を滑り、枢機卿の背後に横たわる、巨大な己の胴体に喰らいついた。
グチュルルル
そんな音を立て、ドラゴンの腹部に穴が開く。黒い頭部が丸ごとその中へと消えた。
グチュル
グチュル
そんな不気味な音が続いている。
ドラゴンの青い体が、次第に黒く染まっていく。
かつて首があった切断面から、黒い煙のようなものがもくもくと湧きだすと、その黒い塊の中に、二つの紅い火が灯った。
目だ。
それは、かつて迷宮都市の地下ダンジョンで、俺たちを襲った紅い目の化け物と同じ色をしていた。
これ、マジでやばくない?
グオオオオオ!
再び首が生えた闇色のドラゴンは、首を上に伸ばし咆哮を放った。
それだけで白ローブたちが、ぱたぱたと倒れていく。
少し離れているところにいる俺さえ、頭にドリルをつっこまれた気分で、ヤツの声に意識を持っていかれそうになる。
近くにいて、まだ笑い続けている枢機卿は、どう考えてもまともではない。
「紅き目のドラゴンよ!
さあ、思う存分、あやつらを喰らえ!」
イケメンおじさんは、金色のワンドを手にすると、それを指揮棒のように振っている。
ドラゴンの首が、こころなしかそれに連動しているように見える。
枢機卿ってやつ、あのドラゴンを操れるのか!?
これ、俺たち終わってないか?
だが、俺は自分の考えが間違っていると、すぐに気づいた。
ドラゴンの顎が、目いっぱい開くと、枢機卿の体に向かい襲いかかった!
ゴッ
そんな音がしてはね飛ばされたのは、半ばまで真紅に染まったローブだった。
カフネが枢機卿の体を押しのけ、彼を巨大な牙から救ったかわりに、彼女自身はドラゴンの下顎にぶつかったのだ。
「カフネーっ!」
ルシルの悲鳴じみた声が聞こえる。
カフネはぼろくずのような姿で、地面に横たわっている。
「な、なにが起こった!?
どうした、不死のドラゴンよ!
なぜ、あやつらを殺さん!」
この男、カフネのことなど、これっぽっちも考えてないな。
なんかムカついてきた。
俺は、そちらへ向かって足を踏みだした。




